4:冒険者たちを支配しました
「なんかないかなぁ、金をドブに捨てられるような事業……」
ある日の午後、宿屋のベッドでゴロゴロしながら俺はふと呟いた。
そう、マヨネーズ商売がとにかく儲かり過ぎてついに個人資産が数十億ゴールドを突破したのだ。
これ、日本円に換算するならそのまんま数十億円である。十代半ばのガキが持つにはあまりにも多すぎる。
こんなに溜め込んでいたってトラブルの種にしかならない。
この状況で『引退してスローライフを送りまーす』とか言おうものなら、資産を狙って国中の悪人が手を出してくることだろう。
はぁ、まさかここまでヒットするとは思わなかったからなぁ、マヨネーズ。
というわけで、金をポイ捨てるわけにもいかないし、豪邸とか建てようものならそれはそれで嫉妬を買いそうだし、ならば事業で自然に失敗して減らそうと思い至ったわけだ。
それなら俺を嫉んでいそうな連中も「ざまぁ!」と溜飲を下げそうだし、その失敗を理由に会社を畳めばチンピラたちも納得してくれるだろう。
そして俺は遠くの街で見事にスローライフをゲットしようっていう作戦だ。
まぁヘタしたら貯金全部ふっ飛びそうだが、その時はビジネス失敗体験談でも書いて小遣い稼ぎするからヨシだ。
成功者は挫折しても経験を売ることができるからいいよなぁ~。
そんな感じで、どんなビジネスを始めようか思い悩んでいた時だ。
部屋の隅に置かれた剣や装備類がふと目に入った。
「あぁ……そういえば俺、冒険者になりたくて田舎から出てきたんだったな」
なんて馬鹿だったんだろうと溜息が出てしまう。
この世界には保険もないのに戦闘職をやるとかアホの極みだろ。
成功すればリターンは大きいらしいが、失敗すれば治療費や入院費で稼ぎはマイナスだし、残された家族は路頭に迷うことになるだろうが。
はぁまったく、保険もなしに無茶なんてするもんじゃ……んっ?
「あ、そうだ。俺が冒険者たちに保険を作ってやればいいんじゃん!」
これだと俺は思い至った。
怪我の多い冒険者たちに保険を作ってやったら、絶対に事業は失敗するに違いないッ!
保険屋っていうのは要するに『保険を使うことなく一生を終える客』の割合で稼ぎが決まるからな。
だから前世でもボクサーやレーサーなんかは保険に入ることを渋られることが多かったとか。
その点でいえば、冒険者なんて怪我をするのが日常茶飯事だッ!
入ってくる額よりも出さなきゃいけない治療費や遺族への保険金のほうが多くなるに違いない!
いいぞいいぞっ、これは間違いなく失敗するぞーッ!
「よし、保険会社『マヨラック』の立ち上げだッ! 絶対に失敗して、稼ぎすぎたマヨ資金を消費しまくってやるぜー!」
◆ ◇ ◆
そして、
「――おぉ、アンタが『マヨラック』のアズ社長かッ! ありがとう、アンタのおかげで成り上がることができたよ」
「怪我をバッチリ治せたおかげで、以前は負けたモンスターに勝てるようになったぜ!」
「保険金のおかげで嫁さんに気を取られることなく命を懸けられるってもんだ! 本当にありがとうな、アズ社長ッ!」
……俺を取り囲んで一斉に賞賛してくる冒険者たち。
そう、株式会社『マヨラック』は大成功してしまっていた!
あぁ、最初は順調に失敗していたのだ。
この世界の住民にとっては馴染みのない保険会社などと契約をしてくれる者は少ないし、数少ない契約者もよく怪我をして治療費が流れ出た。
そうして『これは失敗するぞ~』と期待していた時、ある異常は起きた。
怪我を治した冒険者たちが、それまで以上の大活躍をし始めたのだ……!
思えば当然のことだったかもしれない。
人間とは経験を積んで強くなる生き物だ。一度は負けた相手にだって、しっかりと身体を治して以前の経験を活かせば対処することだって容易である。
だが冒険者とは不安定な収入の職業であり、満足な治療も受けないままさらに無茶をして死ぬことなんてザラだった。
入院している期間が長ければ、それだけ収入がマイナスになっていくってことだからな。そりゃあ焦っても仕方がない。
――そんなときに現れてしまったのがこの俺だぁ……。
俺が入院費を全額出してあげているおかげで、冒険者たちはしっかりと養生することができてしまった。
その間に戦略を練り直したりモンスターに対する知識を深めたりすれば、さらに戦力アップ間違いなしだ。
その上、死亡保険が予想以上に冒険者たちに力を与えてしまった。
強力なモンスターと対峙した時、家族がいる冒険者は『無理にでもコイツを討伐して男として名を上げるか、それとも夫として家族のために逃げるか』と迷いが生じるという。
戦場で迷うことは死亡リスクを跳ね上げる。その一瞬の隙を突かれて死ぬ妻帯者はかなり多かったそうだ。
だがしかし、俺の死亡保険のおかげでそいつらは全部吹っ切れてしまった……!
自分が死んでも家族は大丈夫だという安心から勇猛に戦うようになり、成功者をポコポコ生み出すようになった。
そんで後は芋づる式だ。
成功者たちが『保険最高だぜ!』と後輩たちに宣伝したことで契約者は一気に増し、『マヨラック』は見事に事業として成功してしまうことになったのだった……!
「オレたちの後ろ盾になってくれてありがとうッ!」
「アンタのおかげで夢を追えるぜ、アズ社長ッ!」
「なんかあったら絶対に助けになるからなッ!」
……キラキラとした目で取り囲んでくる冒険者たち。
あげくの果てに胴上げまでしてくる彼らを前に、もはや俺は大人しくワッショイされるしかなかった。
あぁ本当に……どうしてこうなったーーー!?
・次回、敵と戦います。おわったな……!
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