3:信仰されました
チンピラどもを社員にすることになってから数週間、俺は彼らを養うためにも全力で働き続けた。
だってアイツらめちゃくちゃ怖いもん。マフィアのボスは『貧民街出身のせいで就職弾かれてきた連中』って言ってたけど、いや原因は別にあるだろ。
明らかに人を殺してそうなマッチョゴリラや全身タトゥーまみれの奴とか誰が雇うんだってばよ……。
そんなやつらが怖いから給料めっちゃ払ってやったらすごい泣かれた。
本人たちいわく、「これで拾った孤児たちを学校に通わせてあげられる……!」とのこと。
っておまえら、そんな顔して捨て子を養ってたのかよ……。
むしろ子供を売る側だろと思ってたけど、まぁ本人たちが喜んでいたので何よりだ。
近々、俺の出した給料を元手にみんなで『マヨネーズ孤児院』というのを建てるそうだ。やめろ。
――まぁそんなわけで体力だけはあるチンピラたちに製造や宣伝を任せまくり、業績のほうは順調に伸びていた。
なんだかんだで前世の記憶を取り戻してよかったーという感じだ。
ただ過去の辛い社畜時代を思い出してしまったせいか、あの頃のように目と表情筋が死んじゃったんだけどな。あと影も薄くなった気がする。
売り子のリーシャいわく「社長ってお金持ちっぽくないよねぇ」とのこと。けなしてるのかな?
チンピラ連中も今は金をめっちゃ払ってるから慕ってくれてるけど、俺自身のことをどう思ってるかは微妙だ。
愛想のない成り上がり者のガキとか気に入らないだろう普通。
金の切れ目は縁の切れ目って感じで、業績が悪化した途端に速攻で嫌われそうな気がする。
そうなったらどんな目に合わされるか……うぅ怖い。会社で冷遇されるのは前世だけで十分だ。
俺はそんなことを考えながら、今日も仕事に励むのだった。
◆ ◇ ◆
リーシャを含めた貧民街の者たちにとって、アズ・ラエルは救世主であった。
最初は覚悟したものだ。貧民街を統べるボスからは、
『あの人はタダ者じゃねぇ。オレを前にして表情一つ変えねえ漢は初めて見たぜ』
と言われていたからだ。
実際に会ってみるとそれは正解だった。
人々から虐げられないためにあえて怖がられるファッションをした自分たちに対し、彼はまったく表情を変えず「社長のアズだ。よろしく頼む」と一言呟くだけだったのだから。
その冷静さと影に溶け込むような気配のなさから、チンピラたちは確信した。
――この人は絶対、引退した暗殺者か何かだと。
そうして内心ビビりながらも始まった仕事だが、予想に反してアズ社長は優しかった。
覚えの悪い自分たちを決して怒鳴ることなく、丁寧に仕事を教えてくれたからだ。
そしてどんなに仕事が忙しかろうが8時間程度で家に帰してくれる上、週に2日も休みをくれるのである。神かこの人はと思った。
この世界において、労働時間なんてすべて経営者の気分次第だ。
全員が全員というわけではないが、1日に十数時間も働かせるような者はざらにいる。そして休みは多くて週に1日、酷ければ一か月に一度と言った具合だ。
特に金持ちな者ほど貧しい者を家畜か何かだと思ってコキ使うのだから、本当にやっていられない。
――だがしかし、アズ・ラエルは違った。
どんなに出来が悪い者だろうが鞭を打つような真似はせず、全員をきちんと人として扱ってくれている。これで好意を持たないわけがない。
その上、目玉が飛び出るほどの給料を支払ってくれるのだからもう最高だ。
おそらくは捨て子たちを養っている自分たちの事情を知ってのことだろう。彼のおかげで拾った子供たちを学校に通わせることだって出来るようになった。
あぁまったく、もっと給料を絞って溜め込んだっていいのに、なんて金持ちらしくない人だろうか。
高額の給与以上に、その優しさが何よりも心に沁みる。アズ社長こそ、人生をかけて尽くすべき相手だと胸に誓う。
――こうして当の本人はビビっているだけとも知らず、チンピラたちはアズを崇拝していくのだった……!
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