1:マヨネーズはじめました
「あー、モンスターと戦うとかないわぁ」
冒険者ギルドに登録しようとした直前、俺は前世の記憶を思い出した。
ブラック企業でコキ使われて過労死したどうしようもない前世だ。
思い出して3秒で忘れたくなった。
んで、それを踏まえて今の俺の状況を客観的に見てみる。
俺の名前はアズ・ラエル。貧乏農家の三男坊だ。年は16そこらで外見的な特徴は特にないな。
ちなみに性格は熱血馬鹿だった。つーかただ馬鹿なだけだった。
この世界はいわゆる中世ファンタジーってやつで、モンスターやらダンジョンやら魔法やらがありふれている。
そんな世界だし伝説のドラゴンを倒したーとかそういう英雄譚も山ほどあるから、俺もそれに憧れて田舎から飛び出してきたってわけだ。
んで、ろくな才能も戦闘経験もないくせに『モンスターを狩りまくって伝説の冒険者になってやるぜッ!』って気分で街の冒険者ギルドにやってきたところで、前世の(クソみたいな)記憶を思い出したってわけだ。
はぁー危ないところだった。健康保険もないような世界で戦闘職なんてやる馬鹿がいるかってーの。
そうして俺が建物を出ようと思っていた時だ。
なんか隅のほうでニヤニヤ笑ってるイジワルそうな顔の少女が声をかけてきた。
「アンタ、見たとこ冒険者に憧れて田舎から出てきましたって感じねぇ? やめときなさいなっ、アンタみたいなモヤシ野郎に冒険者なんて無理だっつーのッ!」
「そっすね、帰ります」
「えっ!?」
女の子の言葉に従いさっさとギルドを出ることにする。
イジワル顔だけどアドバイスをくれるいい人だったなぁ。
無茶なことをしようとする他人を引き留めてくれる人って貴重だよね、いつか機会があったらお礼しよっと。
――さて、冒険者にならないならどうしようって話だ。
貧乏な実家には帰りたくないし、かといって就職するようなアテもない。
つーか誰かの下で働くのはもう嫌だ。前世で散々振り回されて過労死したため、そこらへんはトラウマになっている。
じゃあどうするかといえば、道は一つだよなぁ。
「よし、起業してみるかぁ。前世の知識を活かして食品でも作ってみよっと」
まずは簡単な『マヨネーズ』から売り出してみよう。
この世界の味付けは砂糖か塩か酢につけるくらいの低レベルなものであるため、コクのあるマヨネーズはそこそこウケるかもしれない。
それをテキトーな肉の串焼きに塗って露店販売でもしてみよう。
まぁまぁ売れたら嬉しいな~っと。
◆ ◇ ◆
そして、
「アズ・ラエル殿ッ! ぜひともウチのレストランでマヨネーズを使わせてくれ!」
「ウチとも契約をーッ!」
「製造レシピを一億ゴールドで売ってくれーーー!」
……販売から数週間後、マヨネーズはドン引くほどの大ヒットとなった。
毎日大量の客が街中から押し寄せてきて、ついには高級レストランやら貴族やらからも『マヨネーズくれー!』と声がかかるくらいだ。
あまりにも忙しすぎて手が足りないため、このまえギルドで声をかけてくれた女の子に「一千万ゴールド払うから手伝ってくれないか」と言ったら泣かれた。
なんでも親が重病を患っており、その治療費を稼ぐためにかなり苦労していたらしい。それで冒険者として頑張っていたのだが支払いが追い付かず、精神的にも荒んでいたところで俺が声をかけたとか。
今では俺があげたお金のおかげで両親の病も治り、毎日元気に売り子をしてくれている。よかったね。
ってそれはともかく、マヨネーズ売れすぎだっつーの!
う、うーん、俺としてはせいぜい小ヒットすれば嬉しいなーと思ってたくらいなんだが、どうしてこうなった……?
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