心象アウトライン
老いた巨木が力なく下を向く。音の無い世界で木霊する悲鳴のような風の声。無感情で無機質な岩山が見せる時の流れ。枯渇した川の跡。
何処にでもあるのに何処にもない人のこころ。完全な闇にもなれない薄曇りの空。透明な幼子の手を引く老婆。向かう先に見えた色のある世界。温もりのある世界。
さようなら。さようなら。さようなら。さようなら。
誰もいない。
花飾りの付いた赤いサンダル。白いワンピース。艶のある黒い髪が腰まで伸びて風に舞う。幼子は少女になり色を持った。一人で歩きだし夢を見た。
誰かがいる。
こんにちは。こんにちは。こんにちは。こんにちは。
虹色の空に浮かぶ半月。隣には三角の一番星。差し出された手は温かい。緑を湛える常緑樹生い茂る山から滲みだした冷たい水が川を作り流れだし魚が跳ねた。色を持たない風が葉を揺らしザワザワと噂する。役目を終えた老婆は朽ち果てた。役目を終えた老婆は朽ち果てた。役目を終えた老婆は音も無く消えた。屍は大地に帰る。老いた巨木は光を求めて上を向く。
さようなら。
少女が大きく手を振った。
大きな瞳から大きな光の粒が零れ落ちた。