究極の選択
腹、腹が痛い。
俺が朝から無視してやってた痛みは、内側から心臓の鼓動に合わせてズグン、ズグンと存在を主張してきた。
もう、歩けない。
き、救急車。
スマホを取り出してカバーを開くと無情にも電池の上に斜めの線が表示されていた。
出張で来ていた少し過疎ぎみの街は、俺以外の通行人がいなかった。
電信柱にもたれて細かく震え、じっとりと粘ばつくような汗を浮かべていたら、救いの神が俺の前に現れた。
「どこまで?」
ちょっと禿げて、汗とタバコの臭いのする天使が、俺に向かって行き先を聞いてくる。
「腹、が、痛い。病院、に」
痛みの隙をついてとぎれ、とぎれに言った俺の言葉にタクシーの運転手は質問してきた。
「ここからだと三軒同じぐらいの距離にあるね」
1、怪談のたくさんある古い病院
2、医療費水増しの噂のたえない病院
3、入院病棟の全室から死亡者の出ている病院
「さ、ん」
「あいよ」
後部座席に寝転がったままの俺にシートベルトなどと言わず、そのままタクシーを発進させてくれた運転手に心の中で頭を下げながら、今の三択を振り替える。
1はダメだ。俺は怖い話が苦手なのだ。腹の痛みからして日帰りはできないだろう。
2は何となく信用できない。治療費は健康保険が利くが安い方が助かる。
3は聞いただけだと嫌だが、病院でお亡くなりになるのは普通にある話だ。
つまり、普通の病院。
「ああ、腹が痛いって。動けないみたい。悪いけど急患扱いにしてやってくれないか頼んでみてくれ。 わかった。正面でいいんだな」
運転手が無線で会社と話終わると同時に結構大きめの病院についた。
「い、く、ら?」
俺の問いかけに運転手は首をふった。
病院の人がストレッチャーに俺を乗せて運んでいく。
ロビーに飾ってあった開院祝いの胡蝶蘭が綺麗だ。
退院したらタクシーの運転手さんにお礼を言いに行こう。
痛みに耐えきれなくなった俺は意識を手放した。
一番いい選択をしたと信じて。