6.すれ違う翔太と実花
俺は心の底から後悔していた。
高校入学初日から、実花の存在には気づいていたんだ。
……というより、中学3年の高校見学の時に友達の付き合いで来たこの学校で、ずいぶん前に実花を見つけていた。
俺は自分で言うのもなんだが、勉強であまり困ったことがない。
志望校も元々は有名進学校だった。
だけど実花を見つけた瞬間、ここ以外の高校は目に入らなくなった。
両親も先生も、志望校を変えることに勿体無いと大反対だった。
その反対を押し切るくらい、実花の姿を見つけた瞬間から、ずっと心の中に秘めていた想いが堰を切ったように溢れ出して、もう自分の気持ちに嘘をつく事なんて出来なくなっていた。
入学後、俺は悩み抜いた。
無情に流れてきた時間の壁に、自分の存在なんて実花の記憶の奥底にしまわれてしまっているんじゃないかと怖かった。
だから、言い出せなかったんだ。
あの時は笑って、その想いや不安を誤魔化した。
喫茶店で5年ぶりに再会したのに何一つ、彼女に気持ちを伝えることができなかった。
別れ際の、あの実花の涙の意味は何だったのだろう…と考えだしたら、夜も眠れなかった。
もしかしたら孝太というやつの事が好きな事を、茶化されたことをが原因か……?
そもそも自分のことは覚えてくれてるだろうか?
全く自分の存在がスルーされていたのは、もう俺は記憶の片隅にもないってことなのか……?
俺の心の中は暗雲立ち込めた。
そんな病みまくってるなかで、今日の孝太の突然の告白。
なんで、自分も『好きだ』と実花に言えなかったんだろう?
彼女を思う気持ちは誰にも負けないのに……
去り際の彼女は、アイツの隣で笑顔を見せていた。
どうしようもない嫉妬に狂いそうだった。
実花と離れ離れになっていた長い月日は、俺の自信を根こそぎ奪ったんだ……
やっぱり翔太はユミ先輩と付き合ってた。
もう過去のことは、完全に思い出になっちゃうのかな……?
ぐちゃぐちゃになった頭の中で翔太の笑顔だけが浮かび上がり、どんなにかき消してもまたすぐに浮かんでくる……
翔太の中に私はもういない。
これが現実。
受け入れなきゃ……
認めなきゃ……
誰か助けて……
もう、いっそ、孝太と付き合ったら楽になれるのかな……?
自分を想ってくれている彼となら……
孝太のことは何でも知っているって思っていたのに、気づくことのなかった彼の本心。
そんな風に私の事を思ってくれていたんだね……
でも、何度考えても、結局振出しに戻る。
そんな簡単に、翔太への気持ちは消せないよ……
本当に神様がいるのなら、どうかひとつだけ願いを叶えてください。
ほんの少しでいいから、翔太の中で、私との記憶が輝いてくれていますように……
一学期の期末テストも終えて、みんな夏休みモードに突入していく。
「ねぇ、実花!! 夏休み入ったらさー、遊園地行かない??」
優奈が突然遊園地に誘ってきたことに少し驚いたけど、孝太の事や翔太のこと、優奈にはたくさん話したい事があったので、いい機会だと快諾。
お父さんの具合が芳しくなかったりバイトで忙しかったり、なかなか話す時間が持てなかったのだ。
「優奈と遊園地なんて、初めてだねー! なんだか久しぶりにワクワクする!」
最近気がつけば涙の出る毎日にどうにかなりそうだった。
優菜の誘いに、少しばかり救われた気持ちになった。
「実花さー、最近疲れてるみたいだったから、遊園地行ったら絶対元気になれるよ! 保証する!!」
優奈は満面の笑みで自信満々に言う。
数日後に、優奈のその自信はここからきてたか……と、納得する事態になるのだった……