表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ため息  作者: 新山桜
4/37

4.最悪の再会

「いらっしゃいませ!」

 今日もひたすら仕事に励む私。

 こうでもしていないと、学校が終わった一人の時間なんてただの地獄だ。


 あれから忘れなきゃ、忘れなきゃ……と思っても、視線は翔太を探してる。


 未練がましい……?

 そんな一言では片づけられない複雑な感情が、ここ数日身体中を駆け巡っている。



「実花ちゃん、あそこのお客さんのコーヒー、出来たから持って行ってね」

 急に仕事に気合が入ったのを見破られたか、店長が不思議そうに声をかけてくる。


「はーい!」

 いつものようにトレイにコーヒーを乗せ、お客様の元へお届けする。



「おまたせいたしました」

 そう言葉をかけてふと視線を送った若い男性客を見て、私は息が止まった。


 カタカタとソーサーの上で、カップが揺れる。



(嘘でしょ? なんでここに?)



 コーヒーを差し出そうとしたお客は、紛れもなく翔太だった。



 私は震えがおさまらない手でカップをテーブルに着地させようとしたが、案の定、不安定なまま鈍い音を立てて倒れてしまった。


「熱っっ……!!」

 淹れたてのコーヒーが制服のズボンにかかり、驚いて立ち上がる翔太。


「ご、ご、ごめんなさいっっ!!!」

 全力で頭を下げる私。


「おいおい、静内ー!! しっかりしろよー、全く!!」

 同じテーブルにいたクラスメイトの幕内祐介まくうち ゆうすけが、ペーパーナプキンを取り出しこぼれたコーヒーを拭き始める。


「申し訳ございません! 火傷、してませんか?」

 そばで見ていた駿先輩がすかさず、フォローに入ってくれた。


「大丈夫、大丈夫、気にしないでください」

 嫌な顔一つしないで爽やかな笑顔を私に向ける翔太。



「全くお前、どんくせーなー! こんなオシャレなカフェでバイトしてんじゃねーよ!」

 祐介は、呆れながら席に着く。


「あ、そうそう、こんなとこでなんなんだけど、お前図書委員だろ? コレ孝太に返しといてくんない? だいぶ長く借りちゃったもんだから直接渡しづらいくてよー」

 無造作にカバンから小さな袋を取り出差し出した。


「静内めっちゃ孝太と仲いいじゃん、うまく言っといてよ!」

 思わず受け取り、袋の中を覗くとCDが入っていた。


『なんで私が……』

 喉元まで出かかったが、コーヒーをこぼして迷惑かけまくりのこの空気……


「わかったわよ……」

 断るための選択肢は用意されていなかった。


 あまりの恥ずかしい再会に、こんな私見ないで欲しい……


「失礼いたします……」

 この場から早く消え去りたい一心で、なんとか声を絞り出し、逃げるように翔太の座っているテーブルに背を向ける。


 立ち去りながらも二人の会話が気になり、遠くから聞こえてくる祐介の声に耳をダンボにしていた。


「静内ってさ、ああ見えてうちのクラスの、谷島孝太といい感じなんだぜ!」


 祐介はきっと悪気なんてないんだろう。

 でも、何も今言わなくていいじゃない!!


「いいよなー、彼氏彼女のいる奴らはよー! 俺とは縁遠い話だわ」

 祐介は口からフーっと息を吐きながら独り身の自分を嘆いていた。


「そうなんだ……」

 翔太は表情を変えることなく、祐介の話に相槌を打っている。


 私は居た堪れなくなった。



 二人はケーキセットをペロリと口に運び、早々に席を立ち上がった。


 祐介は先に店内を出て、レジに翔太が歩いてくる。

 私の目の前に立ち、何かを言いたそうに私の顔をじっと見ていた。



 きっとひどい顔してるだろうな……

 お願い、こんな私を見ないでよ……


 ずっと想っていた人と5年ぶりに、言葉を交わしたのに、どうして、こんな風になっちゃうの?


 もっと、話したこといっぱいあったのに……

 もっと、頑張ってる私を見てもらいたかったのに……



 気づいてないのかな、私のこと。

 忘れちゃったのかな、私なんて。



 止まらない負のループ。

 目の前に来た翔太を必死に見ようと思った私の目からは、涙が一粒、溜めきれずに頬を伝っていた。

 窓から差し込む夕日に反射して涙がキラリと光る。


 翔太は財布に手を遣り終えふと顔を上げた時、もしかしたら私の涙に気付いたのだろうか?


「あっ、あの……」

 彼が私に思わず声をかけたと同時に、駿がただならぬ雰囲気を察したからか、腕を引っ張られレジを交代する。


 翔太はふぅと小さくため息をつき、私に柔らかな視線を向け『ご馳走さま』そう一言残し、店を出て行った。



「……ありがとうございました……」

 窓越しに遠く消えていく翔太の後ろ姿を、私はいつまでも目で追っていた……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ