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ため息  作者: 新山桜
37/37

37.ため息の向こう側

 まるで夢のようだった舞台を終え、二人は一緒に校舎を出る。

 真っ赤に染まった空は、緊張している翔太の頬を隠すかのように、二人を包み込んだ。


 大役を果たした翔太は心地よい疲れを感じていた。

 それでも改めて実花という存在が自分のすぐ隣にいてくれる事に、なかなか実感が湧かず、まだ現実なのか疑ってしまう。


「実花……」

 名前を呼んだ先には、あんなにも想い求めていた彼女が、穏やかな笑顔で『なあに?』と返事をする。



 視線が合い、

「いや……」

 照れたようにそう答えた翔太は、

「手……繋ぎたい」

 顔を赤らめながらお願いする。



 実花のふっと崩れた笑顔に、翔太は彼女の前だと、骨抜きになってしまっている心を見透かされてしまうような気がして、すぐに目線を逸らした。



 そっと触れ合う指。

『やっと出逢えた……』

 そう伝えあう様に絡み合う。




 校門にさしかかったとき、ふと実花は、ユミと翔太がキスをしている場面を思い出し立ち止まった。



「翔太の初めてのキス、ユミ先輩に取られちゃったな……」

 はぁ〜とため息をついた実花。


「もっと早く翔太に逢えてたらな……ちょっと、遅かったね」

 切なそうな瞳が一瞬見えたあと、ぷうと頰を膨らませ翔太に笑顔を向ける。



「してないよ」

 翔太は可愛すぎる実花を抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えて遠くを見る。


「……でも……」


 実花が言い終わる前に、翔太はたまらず彼女にキスをする。


 温かい翔太の息を感じて、優しく包み込む唇が、もうそんな事はどうでもいいと思わせてくれる。


 離ればなれになった日から、逢えずにいた月日……

 逢えても近づけなかったもどかしさ……


 全ての想いを、一つ一つ埋めていくかのように、何度も何度もお互いの存在を確かめ合いながら、唇を重ね合う。



「俺は本当に好きな子としかキスなんてしない。それは、後にも、先にも、実花以外誰も現れないよ」


 夕闇に包まれる中、翔太は力一杯実花を抱きしめた。





 キラキラに輝く光が空から降り注ぐ五月。

 この世の生あるものが次々と芽吹き、美しい緑を広げて生命力に満ち溢れる季節。


「おめでとー!!」

 白いドレスを美しく着こなす優奈は、恥ずかしそうに隣で赤くなっている祐介の腕を引っ張る。


「もう!! パパになるんだからしっかりしてよね!!」


 優奈と祐介は、なんと出来ちゃった結婚!


 あれから2年後……私たちは大学生になっていた。


 結婚式には孝太とユミの姿もあった。

 失恋したもの同士、なにかが通じあったのか、微妙に近い距離で付かず離れずな関係らしい。





 実花と翔太は二人の結婚式の後、あの秘密の公園の山に登り暫く遠くを眺めていた。


 こんなにも時が経っているのに、この山から見る風景は、どの時代をも新鮮な記憶で思い起こさせる。


 辛かったときも、寂しかったときも、幸せだった時も……


 その時に感じた空気の匂いや景色は、時を戻したように、今も変わらずここにある。


「ここに来れば、俺いつまでも実花に片思いできるよ」

 恥ずかしそうに翔太が笑う。


「翔太!! 翔太のこと、大好き!!」

 実花は突然叫び出す。


「どうした? 急に」

 笑いながらも実花の愛の告白に幸せを感じる。


「声は残らないかもしれないけど、翔太が最高に大好き! って気持ちで、改めてこの景色を見ておきたかったの」


 翔太は不思議そうに実花を見る。


「私、翔太にヤキモチを妬いてばっかりだから……

 どんなにヤキモチ妬いたって、どんなにほかの女の子に笑顔向けたって、私は翔太が大好き!! って気持ち、ここに来て思い出せるようにさ!」

 ベーッと舌を出す実花。


 それを聞いて

「実花!! 実花!!! 大好きだっっ!!!」

 負けずに翔太も大声で叫ぶ。


「俺が実花にどれだけヤキモチ妬いてきたか、実花は全然わかってないよ。俺の方が絶対いっぱい嫉妬してる」

 真剣に言ったかと思えば満面の笑み。


 これからも、二人の未来は続いていく。


「俺たちも今度は家族作って、三人でまた同じ景色見にここに来よう?」


 いつまでも、みずみずしい新鮮な思い出で溢れるように……


「……うん!」


 ふたりは手を繋ぎ、いつまでも同じ景色を眺めた……






 完

今まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

初めて完結できた作品なので、色々読みづらいところもあったと思いますが、最後までお付き合い頂き感謝してます。今後の励みにもなりますので、ぜひ評価、感想お聞かせ頂けると嬉しいです!

実花と、翔太の今後を投稿できる機会があれば、また読んでやってください!

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