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ため息  作者: 新山桜
34/37

34.動き出す運命

 午後の体育館は、翔太の演奏を目前にして、満員の観客で埋め尽くされた。

 立ち見が出るほどの混みように、かつて無い異様な空気を感じ、文化祭実行委員は息をのんだ。


「狭山翔太の話題性は、やっぱり睨んだ通り大変なものだな……」

 実行委員の門井(かどい)は、しみじみ言う。


「にしても、なんでまた静内なんだ?」

 全くわからない……と舞台袖でちょこんと座っている実花を見ながら首を傾げて呟いた。





 門井は翔太と同じクラスで、ほとんど話したこともないくらいの間柄だったが、夏休みを終えたある日突然、

「急にごめん、頼みがあるんだ」

 そう翔太の方から話しかけてきた。


 門井は翔太に対して、『いつも女の子に囲まれている』そんな僻みも含まれた、嫌な印象を持っていた。

「なんだよ」

 話しかけられて、目も合わせず鬱陶しそうに答える。


「お前、文化祭の実行委員だろ?」


「……そうだけど、どうした?」

 真剣な声音の翔太に気が付き、少しは話を聞いてやるかと思い直し彼の話に耳を傾けた。


「お願いがあるんだ。毎年体育館の発表あるだろ? その時に、俺をピアノで出して欲しいんだ」

 深々と頭を下げる翔太をみて、気分が良くなる門井。

 しかも、思いもよらないピアノを演奏するなどと言い出したものだから、びっくりして目を丸くした。


「ピアノ?! お前熱でもでたんか? てか、弾けんのか? そもそも……」


「少しは……誰にも言わないで欲しいんだけど、ずっと、思っていた女の子に告白したいんだ」

 こんな事をクラスメイトに言わなければならない自分に、顔を真っ赤にする翔太。


「あっはははは!! おい、マジメに言ってんのか? 告白なんてするまでもないだろ、今更!!」

 相手がユミだと思い込んでいる門井は、何言ってんだコイツとばかりに笑い飛ばす。


「そうじゃないんだ。詳しくは言えない。でも、出させてくれたら、今までの自分の気持ち、全てをみんなの前に晒してもいいと思ってる。どれだけ笑われても、軽蔑されても……」


「……わかった、春日井さんに、きいてみるわ」

 翔太の真剣な表情に、これは本気なんだと察した門井は、そう、彼の提案を受け入れた。



 文化祭実行委員の委員会で門井は、翔太の提案を話した。

 一同驚きながら、もちろん学校一のヒロイン森下ユミが相手だろうと、文化祭の盛り上がりを確信する。


 唯一、委員長の春日井だけは最後まで渋っていたが、みんなの受け入れの空気には敵わず、やむを得ず了承する事になった。




 午後の部出演者の集合時間になり、翔太は門井の前にあの時以来姿を見せた。


「おい、お前、大丈夫なんだろうな? あんなすごい人が弾いた後で、何を見せるって言うんだよ? まぁ、今更それを言ったところで予定変えることなんてできないけどな」

 モテ男がいい気味だと言う気持ち80%くらいで嫌味をいう。


「門井、頼みがあるんだ」

 門井は今更なんだよ?と嫌な予感がしてグッと構えてしまう。


「静内実花を、舞台袖で俺と一緒に待たせて欲しいんだ。あと譜めくり用のパイプ椅子、一つ用意してくれないか?」

 そんな小さな事か……とホッとする。


 ……よくよく考えてみれば、

「えっ? なんで静内?」

 なんなんだ?と頭の中が『?』で埋め尽くされたが、まぁ、簡単にできる事だからいいかと、了承した。



 いよいよ午後の部が始まり、軽音部や、演劇部などの発表が進行してく。


 舞台袖には、優奈と祐介に付き添われた実花が現れた。

 実花の表情には、保健室での不安そうな影は一つも感じられず、凛とした心持ちが翔太には手に取るように伝わってきた。


 二人は目で会話をするように見つめ合い、今にも切れそうな糸の上を、二人の気持ち一つで渡り歩いているようだった。


 翔太の前の出演者たちの発表が歓声と共に終わり、安堵と高揚が入り混じった表情で、ぞろぞろと舞台袖にはけてくる。


 そんな圧倒されそうな空気の中、実花は翔太が何を演奏するのか、どうやって自分たちの関係をみんなに納得してもらうのか、詳細が全く聞かされていない中、押し寄せて来る不安を懸命に押し返し、舞台に出て行く翔太の背中だけを信じて成功を祈った……



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