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ため息  作者: 新山桜
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26.トラップ

 十月に入り、文化祭の季節になった。

 肌寒い秋風が、物悲しく吹き抜ける。


 公園で逢って以来、また、翔太の連絡は簡易的なものになる。


 きっと、翔太には何か考えがあるのだろう……と、もう気持ちをむやみに揺らすことはなくなっていた。




 帰り道、子供の頃に翔太と一緒に通っていたピアノ教室の先生にバッタリと会った。


「実花ちゃん、久しぶりねー! もうすっかりお姉さんになっちゃって!!」

 先生は懐かしそうに微笑んだ。


「そうそう、一緒にうちに来てた狭山翔太くん、実花ちゃん、仲よかったから覚えてるでしょ? あの子、最近また私の所に通いだしてね、物凄い上達ぶりなのよ!」

 顔をクシャクシャにして嬉しそうに話す。


「もう、どこに出しても恥ずかしくない演奏だから、コンクールとか何かしらで発表したらどう? って言ったんだけど……『聴いてもらいたい人は一人だから、必要ない』って」

 頰を膨らませて、惜しがっている。


「誰に聴かせるのかわからないけど、その人はあんな素晴らしい演奏独り占めできるなんて幸せね。実花ちゃん、翔太くんに会ったら、コンクールの話勧めといて!! じゃあね!」

 忙しかったのか、先生は嵐のように近況報告をして立ち去った。



 実花は、まさか……と思ったけど、口に出してしまったら何かが壊れてしまいそうで、大切に心の中にしまい込んだ。




 学校では文化祭の準備が着々と進められている。


 ユミは実行委員のクラスメイトの手伝いで、体育館にやってきた。

 当日の発表の準備をする中で、最後にピアノの演奏があると聞く。


 出演者一覧表に、翔太の名前を見つけ、

「ねぇ、翔太、何か出るの?」

 と、実行委員の友達である新藤春香しんどうはるかにユミは聞く。


「あれ? 聞いてないの? やっぱりユミには秘密にしてるのかな?」

 笑いながら春香は言う。


「まったく、愛されてるよねー。あんたは!」

 そう言い放って立ち去った。


 ユミはなんのことかわからなかったが、なんだか嫌な予感はした。



 翔太から関係者以外に他言しないでくれと、頼まれていたので誰もユミに直接話す事はなかったが、実行委員の中では『狭山翔太くん、ラストにピアノ弾いて大切な人に告白するんだって!!』と、かなりの噂になっていた。


 みんな、これは盛り上がる!と口外しない約束を守り、当然、相手はユミだろうと思い込んだ。

 そんな経緯があり、体育館に現れたユミに、羨望の眼差しを送っていたのである。



 彼女に一人の男子生徒が近づく。

「森下さん、もしよかったらお兄さんの駿さんにゲストとして、是非ピアノの演奏をお願いしたいのですが……口添えしてもらう事ってできますか?」

 文化祭実行委員長の、春日井要(かすがい かなめ)だ。


 彼は実は長年ユミに想いを寄せていた。

 翔太がピアノを弾いて告白すると言う話を聞いて、彼の演奏など記憶に残らないくらい素晴らしい演奏を同じ日にわざとあてがい、潰せるものなら潰したいと思っていたのだ。



「わかった、一応伝えとくね!」

 ユミは、特に気にもせず返事をする。


 春日井は心の中でニヤリとしながら、立ち去るユミの背中を見ていた……







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