25.夕闇の二人
「……翔太? どうしたの?」
翔太に力強く抱きしめられて、ぴったりと重なっている二人の身体はお互いの温もりを確かめ合いながら、肌寒くなってきた秋の夜風も感じさせない。
言葉なんてもういらないや……と、翔太の大きく逞しい背中に腕を回した。
彼の心臓の音に耳を澄ましていると、ヤキモチを妬いたり、翔太のことを信じ切れていなかった自分が情けなくなった。
自分を求めてくれている翔太を感じて、初めてこんなにも愛されていたことに気づく。
微かな翔太の震えを感じながら、どうか彼を苦しめるもの全てを取り除いてあげられますように……と願いを込めながら背中を摩る。
翔太は自分とユミの事で心を痛めているに違いないのに、こんなにも優しく包み込んでくれる彼女の優しさに、心が千切れそうだった。
「実花、ごめんな………祐介から全部聞いたんだ……。俺、実花を傷つけたくない……その気持ちだけで毎日、送っているのに……結局また傷つけてる……」
だんだん大きくなる翔太の身体の震えに、どれほど一人で抱え込んでいたんだろうと、察するのは簡単だった。
「翔太……」
どうして翔太の気持ち、もっと分かってあげられなかったんだろう……
自分の事ばかり考えてた自分に嫌気が差した。
「翔太、私はもう大丈夫だよ」
翔太の顔を覗き込み、もう揺らがないと強い眼差しを送る。
「もうユミ先輩へのヤキモチは、やめる! 自分の出来る事はこれくらい。こんなことくらい、しっかり出来なきゃ、翔太の彼女でいられる資格なんてない!」
ふわっと笑顔になった実花に、堪らず翔太はキスをする。
唇で繋がった二人の影は、いつまでも街灯の光に照らされ、消える事はなかった……




