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ため息  作者: 新山桜
24/37

24.不安な気持ち

 翔太は毎日電話をくれる。


 『元気なのか? 今日も無事に過ごせたか? 困ったことがあればなんでも言えよ……?』

 だいたい話すことは同じで、毎回急いだように電話を切る。


 学校でもユミ先輩と翔太の関係は、一見、今までと全く変わらない。


 いつものように、サッカーをしている翔太を、取り巻き達が黄色い声を上げながら、びっしりネット越しに張り付いている。



 私は不安を隠せなかった。

 家に来てくれたあの日の翔太と今の翔太とは別人だ。


 実は、今までのことは全て夢だったのではないか……?

 そんな風に感じてしまう位、私にとっては何も変わらない毎日なのだ。

 ただ、嫌がらせは、消えたと言っていいほど無くなった。



 祐介が私の家に来た後、孝太も交えて話をした。

 孝太は本当に私のことを心配して、誤解が生まれないよう、そもそも孝太と私は付き合っていないんだと、さりげなくみんなに広めていってくれていた。


 始業式の黒板の話は、もう、誰の話題にも出てくることはなかった。

 優奈と祐介の付き添いも、もう大丈夫と二人にお礼をいって、一人でバイト先に向かう。



 校庭の前を通ると、いつも通りユミが甲斐甲斐しく翔太の世話をしていた。

 当たり前の光景だったこの二人の姿が、今では心を握り潰されるような嫉妬に変わる。


 今私は翔太を必死に信じようとしてる……

 でも数年ぶりに再開した時には、翔太の隣に美人のマネージャー。

 優奈は『自信を持て』って励ましてくれたけど、どこからどう見ても私に勝ち目はないと、これでもか!というほど思い知らされる。


 気が滅入り、学校に行くのが嫌になる日もあった。

 翔太のことを信じきれていない、自分にも嫌気がさす。

 気がつけば涙がポロポロこぼれる毎日……




 翔太と心を通わせたあの日は幻だったのではないか……?



 バイト先の店に入ると、駿先輩が今日は珍しく流行りのJ-POPを、ジャズ風にアレンジして弾いていた。


 コーヒーを運びながら、自然と鼻歌を歌っている自分がいる。

 最近では珍しく、足取りは軽く笑顔になれた。




「よかった、実花ちゃんが笑顔になってくれて」

 演奏を終えた駿先輩は、ホッとした顔で言う。


 さりげなく心配してくれた駿先輩の優しさに、また助けてもらったなぁ……


「ありがとうございます。」

 そう思わずお礼を言ってしまった。


「やっぱ、元気なかったんだ。最近なんかあったの?」

 心配してくれる駿先輩の言葉だったが、流石にユミ先輩のお兄さんに翔太のことは言えない……

 でも心に溜めておくことが辛くて、相手が誰の事かは伏せたまま話始める。


「私、付き合ってる人がいて……。その人、すっごく素敵な人で、私なんかにもったいないんです。学校の女子にもモテるし、非の打ち所がないような美人の先輩も側にいるんです」

 声を発することなく頷く駿先輩。


「でも、最近素っ気なくて……。信じてるし、信じようと努力もしてるし……、でも、心の奥底で嫌な自分が大切な人を疑っている……。嫉妬してばっかりで……最低なんです、私」


 出すまいと思っていた涙が、また零れ落ちる。




「……」

 駿は言葉に詰まる。

 予想はしていたが、実花にはやっぱり大切に思う人がいたのだと、密かに彼女に想いを寄せていた駿は思い知った。


「でもね、先輩の演奏今日聞いて、今まで悩んでたこと、一気にどっかに飛んでっちゃった。私の心の汚い部分が浄化された感じです」

 実花が恥ずかしそうに答える。


「……そっか……。力になれて、よかったよ」

 そう答えるのが精一杯だった……

 駿は実花の身体中から放つ純粋な愛をとても眩しく感じ、同時に激しく胸が締め付けられていた……




 暗くなった帰り道、一通のメールに気づく。

 翔太だ。

 私は急いでメールを開いた。


『実花の家の近くの公園で待ってる』

 短くそう一言書いてあった。


 歩いていた私の足はだんだん早くなり、最後には引き寄せられるかのように、駆け出していた。


 久しぶりに、翔太に会える……!!

 思いが通じ合っていても、どんどん生まれてくるドキドキした気持ち。


 今日の私は、人を愛する喜びを思い出せた気がしていた。


 好きな気持ちって、もっとキラキラしたものだよね?

 その気持ち、忘れそうになってたよ……

 翔太に、もっと私のキラキラした気持ち届けたい。

 嫉妬に狂ったどす黒い気持ちなんて、いつも輝いている彼の顔を曇らせるだけだから……



 暗くなって、誰もいなくなった公園のベンチに座った翔太の後ろ姿を見つけた。

 上がる息を抑えながら彼に向かって叫ぶ。


「翔太!!」


 気づいた翔太は言葉を交わす前に、痛いくらいにギュッと私を抱き寄せた……


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