24.不安な気持ち
翔太は毎日電話をくれる。
『元気なのか? 今日も無事に過ごせたか? 困ったことがあればなんでも言えよ……?』
だいたい話すことは同じで、毎回急いだように電話を切る。
学校でもユミ先輩と翔太の関係は、一見、今までと全く変わらない。
いつものように、サッカーをしている翔太を、取り巻き達が黄色い声を上げながら、びっしりネット越しに張り付いている。
私は不安を隠せなかった。
家に来てくれたあの日の翔太と今の翔太とは別人だ。
実は、今までのことは全て夢だったのではないか……?
そんな風に感じてしまう位、私にとっては何も変わらない毎日なのだ。
ただ、嫌がらせは、消えたと言っていいほど無くなった。
祐介が私の家に来た後、孝太も交えて話をした。
孝太は本当に私のことを心配して、誤解が生まれないよう、そもそも孝太と私は付き合っていないんだと、さりげなくみんなに広めていってくれていた。
始業式の黒板の話は、もう、誰の話題にも出てくることはなかった。
優奈と祐介の付き添いも、もう大丈夫と二人にお礼をいって、一人でバイト先に向かう。
校庭の前を通ると、いつも通りユミが甲斐甲斐しく翔太の世話をしていた。
当たり前の光景だったこの二人の姿が、今では心を握り潰されるような嫉妬に変わる。
今私は翔太を必死に信じようとしてる……
でも数年ぶりに再開した時には、翔太の隣に美人のマネージャー。
優奈は『自信を持て』って励ましてくれたけど、どこからどう見ても私に勝ち目はないと、これでもか!というほど思い知らされる。
気が滅入り、学校に行くのが嫌になる日もあった。
翔太のことを信じきれていない、自分にも嫌気がさす。
気がつけば涙がポロポロこぼれる毎日……
翔太と心を通わせたあの日は幻だったのではないか……?
バイト先の店に入ると、駿先輩が今日は珍しく流行りのJ-POPを、ジャズ風にアレンジして弾いていた。
コーヒーを運びながら、自然と鼻歌を歌っている自分がいる。
最近では珍しく、足取りは軽く笑顔になれた。
「よかった、実花ちゃんが笑顔になってくれて」
演奏を終えた駿先輩は、ホッとした顔で言う。
さりげなく心配してくれた駿先輩の優しさに、また助けてもらったなぁ……
「ありがとうございます。」
そう思わずお礼を言ってしまった。
「やっぱ、元気なかったんだ。最近なんかあったの?」
心配してくれる駿先輩の言葉だったが、流石にユミ先輩のお兄さんに翔太のことは言えない……
でも心に溜めておくことが辛くて、相手が誰の事かは伏せたまま話始める。
「私、付き合ってる人がいて……。その人、すっごく素敵な人で、私なんかにもったいないんです。学校の女子にもモテるし、非の打ち所がないような美人の先輩も側にいるんです」
声を発することなく頷く駿先輩。
「でも、最近素っ気なくて……。信じてるし、信じようと努力もしてるし……、でも、心の奥底で嫌な自分が大切な人を疑っている……。嫉妬してばっかりで……最低なんです、私」
出すまいと思っていた涙が、また零れ落ちる。
「……」
駿は言葉に詰まる。
予想はしていたが、実花にはやっぱり大切に思う人がいたのだと、密かに彼女に想いを寄せていた駿は思い知った。
「でもね、先輩の演奏今日聞いて、今まで悩んでたこと、一気にどっかに飛んでっちゃった。私の心の汚い部分が浄化された感じです」
実花が恥ずかしそうに答える。
「……そっか……。力になれて、よかったよ」
そう答えるのが精一杯だった……
駿は実花の身体中から放つ純粋な愛をとても眩しく感じ、同時に激しく胸が締め付けられていた……
暗くなった帰り道、一通のメールに気づく。
翔太だ。
私は急いでメールを開いた。
『実花の家の近くの公園で待ってる』
短くそう一言書いてあった。
歩いていた私の足はだんだん早くなり、最後には引き寄せられるかのように、駆け出していた。
久しぶりに、翔太に会える……!!
思いが通じ合っていても、どんどん生まれてくるドキドキした気持ち。
今日の私は、人を愛する喜びを思い出せた気がしていた。
好きな気持ちって、もっとキラキラしたものだよね?
その気持ち、忘れそうになってたよ……
翔太に、もっと私のキラキラした気持ち届けたい。
嫉妬に狂ったどす黒い気持ちなんて、いつも輝いている彼の顔を曇らせるだけだから……
暗くなって、誰もいなくなった公園のベンチに座った翔太の後ろ姿を見つけた。
上がる息を抑えながら彼に向かって叫ぶ。
「翔太!!」
気づいた翔太は言葉を交わす前に、痛いくらいにギュッと私を抱き寄せた……




