17.本当の気持ち
纏わりつくようなしつこい暑さが必要以上に体力を奪っていく。
こんなに疲れを感じてしまうのは、明日から新学期だからなのか……?
それとも夏休みの出来事で心が疲れ果てているからなのか……?
ユミは夏休み最終日まで溜め込んでしまった課題の資料を探しに、滅多に足を運ばない学校の図書室に来ていた。
静かで誰も居ない空間が、最近のユミの乱れた心を落ち着かせる。
ようやく資料探しに目途が立とうとしていた時だった。
ガラッと扉の開く音が聞こえて、せっかくの落ち着いた空間を台無しにされてしまったみたいで、ユミは急に不機嫌になる。
「ごめんなさい!!」
静かな空間を裂くように聞こえた言葉にユミは驚いた。
ユミはそっと覗き込むと、深く頭を下げている実花と、それを目の前にして身動きが取れない孝太が目に飛び込んでくる。
気付かれないように、本棚の陰から二人の様子をじっと伺っていた。
夏休みの最後の日に孝太からの告白の返事をすると約束した私は、今全力で頭を下げている。
どんなに孝太を失望させてしまうか……
想像するだけで、胸が痛む。
私の突然の断りの言葉に孝太は面食らってしまったのか……
「ちょっと待って! ちゃんと話を聞かせて」
そう、落ち着いた声で話した。
私はもう隠していても仕方がないと、翔太との関係を包み隠さず孝太に話した。
幼馴染みであること。
離ればなれになってしまっていた事。
高校に入って再会したが、ずっと想い合っていたのに、お互い気持ちをなかなか伝えられなかった事。
夏祭りの日、孝太を置いて立ち去った後、思い出の場所で偶然翔太に逢って、想いを打ちあけ合った事……
孝太はじっと私の話を静かに聞いていた。
「分かった……」
重い口をゆっくり開く。
「薄々は流石の俺も、狭山のこと、実花はもしかしたら好きなんじゃないかって……実は気づいてた……。察してやれなくて、ゴメンな」
孝太が頭を下げた。
「そんな事ないっ!」
頭を下げる孝太の姿が苦しくて苦しくて……
でも、彼にしてあげられることは何もない自分が情けなくて……
「実花のこと中学の時から、俺、好きだったんだ。かれこれ三年とちょっとかな……?」
私の目をしっかりと捉えて孝太は話す。
「こんなに長く片思いしてんだから、ちょっとやそっとで引けるかっ!! って、意地になってたところもあると思う」
照れ隠しに、自分の髪をくしゃくしゃっとしながら言う。
「でも実花と狭山の方が……もっと俺よりもずっと長く、お互いを思い合ってたんだな……」
ふうと一つため息をついた。
「そんな奴らに敵うわけねーだろ!」
立ち上がり、窓側の椅子に移動する。
外とを見たまま孝太は強い意志のある声で言った。
「幸せに……なれよ、実花」
「孝太……本当に好きになってくれてありがとう……」
孝太の心の痛みを察し、ありがとうの想いを精一杯込めて、彼の背中に投げかけ図書室を後にした……
一部始終を見ていたユミは、祭りの日に翔太と実花との間で、そんな関係になっていたことを知り愕然とした。
なんとか治めようとしていたユミの翔太に対する想いは、また歪んだ方向へと走り出して行くのだった……




