表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ため息  作者: 新山桜
17/37

17.本当の気持ち

 纏わりつくようなしつこい暑さが必要以上に体力を奪っていく。

 こんなに疲れを感じてしまうのは、明日から新学期だからなのか……?

 それとも夏休みの出来事で心が疲れ果てているからなのか……?



 ユミは夏休み最終日まで溜め込んでしまった課題の資料を探しに、滅多に足を運ばない学校の図書室に来ていた。

 静かで誰も居ない空間が、最近のユミの乱れた心を落ち着かせる。

 ようやく資料探しに目途が立とうとしていた時だった。


 ガラッと扉の開く音が聞こえて、せっかくの落ち着いた空間を台無しにされてしまったみたいで、ユミは急に不機嫌になる。



「ごめんなさい!!」


 静かな空間を裂くように聞こえた言葉にユミは驚いた。

 ユミはそっと覗き込むと、深く頭を下げている実花と、それを目の前にして身動きが取れない孝太が目に飛び込んでくる。

 気付かれないように、本棚の陰から二人の様子をじっと伺っていた。





 夏休みの最後の日に孝太からの告白の返事をすると約束した私は、今全力で頭を下げている。


 どんなに孝太を失望させてしまうか……

 想像するだけで、胸が痛む。


 私の突然の断りの言葉に孝太は面食らってしまったのか……

「ちょっと待って! ちゃんと話を聞かせて」

 そう、落ち着いた声で話した。



 私はもう隠していても仕方がないと、翔太との関係を包み隠さず孝太に話した。


 幼馴染みであること。

 離ればなれになってしまっていた事。

 高校に入って再会したが、ずっと想い合っていたのに、お互い気持ちをなかなか伝えられなかった事。

 夏祭りの日、孝太を置いて立ち去った後、思い出の場所で偶然翔太に逢って、想いを打ちあけ合った事……


 孝太はじっと私の話を静かに聞いていた。


「分かった……」

 重い口をゆっくり開く。


「薄々は流石の俺も、狭山のこと、実花はもしかしたら好きなんじゃないかって……実は気づいてた……。察してやれなくて、ゴメンな」

 孝太が頭を下げた。


「そんな事ないっ!」

 頭を下げる孝太の姿が苦しくて苦しくて……

 でも、彼にしてあげられることは何もない自分が情けなくて……


「実花のこと中学の時から、俺、好きだったんだ。かれこれ三年とちょっとかな……?」

 私の目をしっかりと捉えて孝太は話す。


「こんなに長く片思いしてんだから、ちょっとやそっとで引けるかっ!! って、意地になってたところもあると思う」

 照れ隠しに、自分の髪をくしゃくしゃっとしながら言う。


「でも実花と狭山の方が……もっと俺よりもずっと長く、お互いを思い合ってたんだな……」

 ふうと一つため息をついた。


「そんな奴らに敵うわけねーだろ!」

 立ち上がり、窓側の椅子に移動する。



 外とを見たまま孝太は強い意志のある声で言った。

「幸せに……なれよ、実花」



「孝太……本当に好きになってくれてありがとう……」

 孝太の心の痛みを察し、ありがとうの想いを精一杯込めて、彼の背中に投げかけ図書室を後にした……





 一部始終を見ていたユミは、祭りの日に翔太と実花との間で、そんな関係になっていたことを知り愕然とした。

 なんとか治めようとしていたユミの翔太に対する想いは、また歪んだ方向へと走り出して行くのだった……








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ