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ため息  作者: 新山桜
13/37

13.友達

 夏も本番!!

 蝉の鳴き声が、真夏の日差に厚みを持たせている。


「はぁ……暑い……」

 私はバイトと、父の入院している病院に行ったり来たりで、なかなか忙しい日々を送っていた。



 カラン……


 バイト先の喫茶店の扉が開くと、久しぶりに見覚えのある顔が覗いた。


「あれ? ゆうすけくん?」

 また優奈と何かあったのかと嫌な予感はしたが、今日は別件らしい。




「夏祭り?」

 優奈と祐介の関係は、観覧車の一件から全く進展しておらず、祐介はどうしても挽回したいようだった。


「お願いだよ!! 優奈のこと誘ってくんないかな? もちろん、孝太も呼んでいいからさ。必要とあらば翔太にも声かけるし!」

 もう、とにかく祐介は必死だ。


「いや、ちょっと待って……なんで孝太なのよ!」

 私はやっぱり誤解してるな……と思い、今日こそは払拭してやろうと突っ込む。


「は? お前、彼氏と祭り行きたくないのか?」

 目を丸くして祐介は驚いていた。


「なんだか勘違いしてるみたいだけど、私と孝太は付き合ってないの!!」


「……は?!」

 祐介の顔にはまさか!と書いてあるようだった。


「お前らめっちゃ仲いいじゃん! なんで? 付き合ってないの?」

 はぁ……心底しつこいなぁと思った。


「だーかーらー、付き合ってません!!」

 孝太に告白されたことはもちろん祐介なんかに言うつもりはない。


「一人で勝手に妄想しないでよ!!」

 訳も分からず戸惑っている姿に、止めを刺す。



「……孝太の話は納得いかないけど、とりあえずわかったとしよう。だったら、翔太呼ぶか……? いや、翔太もユミ先輩と二人で行くんだろうし邪魔しちゃ悪いか……」

 祐介は一人でブツブツと議論しているようだった。


 ユミ先輩の話題になったので、慌てて祐介の独り言を遮った。

「大丈夫、誘わないで! もし優菜といい感じになったんだったら、さりげなく私先に帰るから! 心配しないで!」

 慌てて取り繕った。


 前に祐介の相談に乗ると言った手前、断ることもできず、夏祭りの件は一応承諾した。

 仕方がないから優奈に直接話そうと、メッセージを送る。



 優奈には一度、私のこともきちんと話しておかなければいけないとずっと思っていた。

 夏休みに入ってしまったのもあり、タイミングを逃していたので、ちょうどいい機会かと思った。


 早速ショッピングの約束を取り付け、カフェに入って優奈に話を切り出した。


 私が翔太と幼馴染である事、離れてからもずっと翔太が好きだった事、翔太とユミ先輩の前で、孝太に告白された事、返事はまだしていない事……


 ここ最近突如として嵐のように巻き起こった事態を、事細かに彼女に伝えていく。


 私の近況報告を聞き終えた優奈は、なんでもっと早く話してくれなかったの?と最初は怒っているようだった。


「実花……。ずっと辛かったんだね……」

 それでも、私の話を全て聞き終える頃には涙を流して一緒に憂いてくれていることに驚き、また、友達っていいなぁ……としみじみ思い、私まで泣き出してしまった。


 あぁ、優菜がいてくれて本当に良かった……

 しかし、これだけでは終わらせられない。

 友情の絆が深まったところで、あの話をしなきゃ……と、恐る恐る話を切り出す。


「優奈……? 優奈は、祐介くんとはどうなってるの?」

 分かり切った答えを、敢えて質問してみる。


「あのキスの後から、しょっちゅう祐介の顔がチラついて、なんだか私自身、訳わかんなくなっちゃってる……」

 無理もないか……とも思ったが、話が前に進まなくなってしまうので、続ける。


「祐介君と、一度話してみたら?」

 私の口からではなく、祐介には自分の口で、直接優奈をお祭りに誘う様に促そうと思っていたので、今頃サッカー部の練習で学校に行っているはずの祐介と、優奈を会わせてみようと思った。


 考え込む優菜を何とか説得して、学校に向かう。




「頼む! 俺にチャンスをください!!」

 祐介は見たこともない緊張した面持ちで、優奈に夏祭りに来てくれるよう、誠心誠意お願いをしていた。



「実花も来てくれるなら……」

 渋々感満載で私の方に目をやる優奈。


 神様を拝む様な祐介の目……


「わかったわよ!! いくよ、行けばいいんでしょ?」

 ここは仕方ないか……と、諦め、二人に協力することにした。


 やっと約束が付いたと思って安堵のため息を吐いた時だった。

 今一番会いたくない翔太とユミ先輩が一緒に歩いてくる。


 聴き耳を立てていたのか……ユミ先輩が突然会話に割り込んでくる。

「私も行きたいー!! ねぇ、翔太、いいでしょっ!! みんなで行った方が、絶対楽しいってー!!」

 一人キャピキャピのテンションで翔太に擦り寄った。


 優奈は気まずそうに、私を見る。

「それはちょっと……」

 そう断りかけたが、祐介が翔太も一緒の方が心強いと、勝手に快諾してしまう。


 優奈は祐介を睨みつけたが、約束を取り付けられたことに大満足で、ただでさえ何も知らない彼は、強張った空気に全く気づく余地がなかったのである……



 なんだか辛かった。

 ユミ先輩と翔太が仲良く楽しんでいる姿を、平然と見ていられるか自信がないよ……

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