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ため息  作者: 新山桜
11/37

11.偽りのキス

 七月最後の日。

 じっとりとした湿気が体に纏わりつく。


 暑さからか、教室の中に入った瞬間の熱気は、これから始まる夏休み本番のワクワクを予感させる。



「よう!!」

 突然肩を叩かれ振り向くと、告白以来久しぶりに顔を合わせた孝太に、なんだかきまずくなり下を向く。


「よ、よう!!」

 ぎこちない私の返事が心の中を晒しているようで、なおの事恥ずかしくなる。


「今日の委員会、午後だって。実花、弁当持ってきたの?」


「持ってきてないよ〜。どうしよう、今日売店開いてないもんね」

 私、自然に話せてるかな……?


「俺、パン余計に持ってきたから、恵んでやろっか?」

 しょうがないなーって顔で、私の目の前に差し出す。


「ホント? ありがと! もう、孝太だいすき!!」

 と、つい、冗談が口から滑ったって思った時には遅く……


 ハッとした表情の孝太。

「お、おいおい、やっと俺様の優しさに気づいたかっ!」

 冗談めかしに空気を変えようとお互いに必死になってる様に、なんだかおかしくなって、いつのまにか二人で笑いあっていた。



「お前ら、ホント羨ましいわ……」

そんな私達を見ていた祐介は、ボソッと嫉しそうに言い放って去っていった。






 午後の図書室は返却された本が山のように溜まっていた。


「……ったく、夏休みの当番、何やってたんだよ!!」

 ブツブツ文句を言いながら俺は返却の処理を始める。

 ふと、目線を上げた先に映り込んだ彼女の姿は、いつもの如く、サッカー部の練習に目をやっていた。


「………」

 突然襲ってくる不安に、捗らない返却作業。

 ただただ、時間だけが過ぎていく……






 返却処理が終わった頃には一部の運動部を除いて、殆どの生徒は下校を終えていた。




 日も落ちて暗くなり始めた空を見るなり、途中まで送ると孝太は言い出した。

 二人でゆっくり歩き出す。


 校門近くにきて、自分たちの前にカップルのような男女が何やら話していた。

 揉めてる様にも見えたが、よく見ると会いたくない組み合わせの二人だった。


「あれ? 狭山と、ユミ先輩?」

 孝太が呟いた。


 そして、その瞬間、ユミが目の前で翔太にキスをする。


 時が止まったかのように、全身動かなくなった。

 恋人同士なんだから、キスくらい当たり前だよね……


 でも、こんなにも目の前であからさまに見せつけられると、さすがに動揺が隠せなかった。



「実花……!」

 翔太が私に気づいた。


「ゴメン! ラブラブなとこ邪魔しちゃたね! 行こう、孝太!!」

 下を向いたまま孝太を引っ張る。



「実花、実花!!」

 孝太は私に引っ張られる様に翔太とユミを追い越していく。

 無我夢中で駅まで歩いた。



 翔太のことになると私ホント弱い……

 逢えただけでも十分だったのに、関わりを持った途端、欲が出てくる。


 翔太は私の物なんかじゃないのに……

 ほんと、情けない……!!



 孝太は何も言わずに私の後をついてくる。

 駅の階段の下でふと止まり、もう限界まで我慢していた涙がボロボロとめどもなく頰を流れた。





 必死になって涙を拭うグシャグシャになった実花の顔を見て、俺は彼女が誰の目にも触れない様、自分の胸に引き寄せていた。


 側に誰もいなくなると、彼女をそっと優しく抱きしめた。

「今だけは、俺が守ってやるから、思う存分泣け!」




 私は孝太の言葉に甘えて、思う存分泣いた。

 小学校からずっと片思いをしている相手に、絶対的に敵わない相手がいた……

 どうやって翔太のことに諦めたらいいのか……全くわからない……





 そうして、抱きしめながら、俺は確信していた。

 彼女が思いを寄せている相手は、自分ではなく狭山翔太だって事を……



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