10.一ヶ月
部活前の薄暗い翔太の教室。
そこは深刻な顔をした翔太と、我関せずを決め込んだようなユミの姿があった。
翔太とユミはそもそも付き合っているわけではなく、ユミが一方的に二人の仲を周りに広めているだけだった。
もちろん周りも美男美女の二人の組み合わせに異議を唱えるものもなく、いつのまにか誰もが公認の仲になっていた。
翔太自身はユミに直接告白をされたわけではないし、部活でもちろんマネージャーとしてだが、世話にもなっているので邪険にする理由もなく、ただ周りが噂をしているだけなので、気にするほどのことではないと思っていた。
しかし、実花に変な形でユミとの仲が伝わっているのではないかという事が、翔太にとって本意ではなく、自分の本当の気持ちをしっかりとユミに伝えて、誤解を与えるような行動や言動を控えてもらえるようお願いするつもりだった。
「あのさ、ユミ――」
翔太が口を開こうとしたその時だった。
「私たち、付き合ってるんだよね?」
ユミは予感したのか、翔太にまるで喋らせないように唐突に話し出した。
「ユミ! 俺は、ユミといつ付き合うって言った?」
わざと念を押すように聞いてくる彼女に翔太も言葉を被せる。
「言わなくても分かってたでしょ? 私の気持ちも、周りの反応も!」
翔太は確かに……とも思った。
(俺が悪かったんだろうか?)
「ユミ、聞いてほいしい」
翔太がゆっくり口を開く。
「俺が、ユミとの仲を今まで否定してこなかったのは謝る。ゴメン」
深々と頭を下げた。
「でも、俺は肯定もしていない。実際付き合ってるつもりは全くなかったし、俺たち、自分らの気持ち、確認しあった事もないだろ?」
「………」
ユミは黙りこくる。
「俺、好きな子いるんだ。 その子はもう、俺のこと好きだとか、そういう気持ちはないかもしれない。
でも、ちゃんと向き合って、自分の気持ち、伝えたいんだ」
翔太はユミの瞳を離すことなく精一杯の誠意を伝えた。
「何言ってるのよ……」
ユミの小さく震える声。
「今更何言ってるのよ!! 私と翔太、誰がどう見ても恋人同士に見えるのよ? 私だってずっとそのつもりでいたし、翔太も否定しなかった!」
強い口調で翔太を睨みつける。
「私は翔太が好きなの……」
目を真っ赤にして彼女は言う。
「このままじゃ納得できない。ちゃんと、私の気持ちも感じ取ってよ!」
自分に対しての気持ちがないと分かりきっている翔太の抜け殻に、ユミはすがるように抱きついた。
「お願い、一ヶ月私に翔太の時間を頂戴? 本気で私の想いを受け止めて向き合ってよ! 形だけになっちゃったとしても、一度私とちゃんと付き合ってほしい!」
「ユミ……」
翔太は悩んだ。
ユミとの関係を、今まで否定する事なく流されてきた事。
自分自身はそれでいいと思っていたが、間違っていたのかもしれない……
「分かった。一ヶ月だけの約束なら。ちゃんとユミの気持ち受け止めた上で、俺、自分の気持ちとも向き合うよ。ただ俺の中にはずっと好きな子がいるんだって事も理解してほしい」
翔太は哀し気な表情でユミに訴える。
「翔太さえ真剣に私を見てくれたら、私は振り向かせる自信があるわ……」
ユミは翔太との関係を繋ぎ止めるのに必死だった。
必ず手に入れてみせる……、そんな決意が瞳の中から伺える。
「………」
これが正解だったのか、翔太は心の中をモヤつかせた。
でも、自分の中途半端だった態度に、しっかりけじめをつけたかった。
こうして、ユミとの一ヶ月が始まって行く……




