強く
━━━だれよりも速く。
━━━強く強く強く強く強く……!!
剣を振るう。
骸骨の魔物の頭が砕ける。
振り向き様に、背後から襲いかかろうと機会を失っていた狼の魔物に業炎魔法を放つ。
掌から極大の火玉が出現し、圧倒的な熱量を持って狼を焼きつくす。
狼の叫び声が、第9階層の通路に木霊する。
「うるさいよお前」
狼の声帯を剣で切る。
真っ赤な血が、辺りに飛び散る。
軽く舌打ち。
「失敗した」
一撃で命を刈り取れば、魔物は血液を流すことなく宙に霧散する。しかし、もしそれが出来なかった場合、飛び散った血液に引かれて多数の魔物に襲われることになる。
俺は、周囲に警戒を飛ばす。
スキル【気配察知】に大型の魔物の気配が写る。
確実にこちらに向かってきている。
憂鬱な気分になりつつも、俺は直ぐにまた剣を構える。
直ぐに意識を切り替えて、ただ敵を殺すことだけを考える。
どうすれば効率的に無駄なく敵を殺せるか、必要なのはそれだけ。それ以外のことに気を散らす余裕はない。
そんなことをしていると、殺される。
呼吸を整え、精神を集中させる。
と、その時。
岩影から、のそりと巨体が姿を見せる。
「━━これはすごい」
およそ2メートル程の大きさの虎のような魔物。
しかし、その姿は俺の知る虎とは程遠い。
全身は黒く煌めく硬質な金属で覆われており、身長もこの階層の天井すれすれだ。
ギラギラと異様な光を放つ双貌は、一目見ただけで生物的格差を感じさせる。
でかい、というのはそれだけで相手に威圧感を与えるもので、俺は思わず生唾を呑み込む。
あの魔物の皮膚は、この階層にある恐ろしい強度を持った鉱石。
恐らくあれと同質のものだろう。
ただでさえ、この剣はがたが来ているというのに、あんなものを切りつけたら確実に砕ける。
「━━けど、めんどくさい」
ため息をつく。
しかし、思考は止めない。
限られた手札で、最短効率で敵を殺す道を模索する。
剣は使えない。故にスキル【剣術】も意味はなさない。
使えるのは【業炎魔法】か、【凍結魔法】あるいはもしあの表皮が金属なのだとすると、【腐蝕】のスキルも使えるかもしれない。
俺は思いっきり地面を蹴って、飛ぶように走る。
剣を地面に捨て、右手に【腐蝕】のスキルを発動させる。
このスキルは、第四層の亡者エリアで100体のゾンビを殺した報酬に手に入れたスキルだ。
効果は、触れた相手の防力を著しく下げるといったものだ。
巨虎は、前足にミシミシと力を込め、凄まじいスピードでこちらに飛びかかってくる。
一拍後には、直ぐ目の前に巨虎の牙が見えた。
「━━死ね」
右手に力を込め、思いっきり振り抜く。
俺の拳が巨虎の顔面を捉え、貫き、そして一撃で絶命させた。
また、体から力が溢れる感覚がした。
俺は地上に着地し、直ぐに気配察知のスキルに反応がないかを確認する。
「もうここいらに、魔物はいないか」
気配察知のスキルに、魔物の反応はない。
どうやらこの階層の魔物はあらかた倒し尽くしたようだ。
投げ捨てた剣を拾いに行き、ステータスを開く。
《ステータス》
名前:樋野 秋
魂級:3542
加護:時神の親愛(2/3)
称号:英雄
筋力:368
体力:314
耐性:214
敏捷:365
魔力:421
魔耐:321
ユニークスキル:【意思反映】【早熟】
スキル:【業炎魔法】【凍結魔法】【剣術】【気配察知】
【腐蝕】
~~~~~
「おお、今ので魔力値が400も上がった」
やはり、大型の魔物の魔力値は大きいらしい。
一気に跳ね上がったステータスに満足し、俺は次の階層へ降りる階段に向かう。
……にしても、スキル滅茶苦茶増えたな。
【業炎魔法】【凍結魔法】【剣術】【気配察知】【腐蝕】【早熟】計、6つのスキルを獲得することが出来た。
そして、いくつもスキルを獲得したことでスキルについての認識も深まった。
今のところ、スキルには自己補助系スキルと、魔法スキル、相対者干渉スキル、と言ったような3つのスキル系統があることが分かった。
自己補助系スキルは、俺の持つ剣術がこれに当たる。
この剣術のスキルはスキルを得た瞬間に剣の扱いが上手くなると言ったようなものではなく、あくまでも自分の剣術に、ある程度の補正がつくと言ったものだ。
つまり、いきなり10の力が手に入るのではなく、1の力に9の力を加算させる手段を手に入れたということ。
無論これも、使えば使うほど習熟度があがり、より大きな力で剣術を補助してくれるようになるのだ。
後、気配察知と早熟もこの自己補助系スキルに当たる。
次に魔法スキル。
これは業炎魔法と凍結魔法が当たる。
このスキルも、本質的には自己補助系スキルと同じだ。
ただ少し違うところといえば、この魔法スキルは魔法を使用するための切欠を作るだけ、と言うことだ。
自己補助系スキルのように、魔法の制御等を補助してくれる事はない。あくまで、魔法を使えるようになるだけ。
修練をし続けて魔法の練度を上げる以外に、このスキルを強化する方法はない。
相対者干渉スキルは【腐蝕】のスキルに当たる。
この腐蝕のスキルは、触れた瞬間に相手の防御力を著しく下げる効果を持っている。
自分の力を高めるのではなく、あくまで相手の力を下げるのだ。
これは自己補助系スキルと対照的な位地に存在しているスキルだ。恐らく、まだ俺は手に入れていないが相手の精神や五感にに干渉するスキルなどもあるだろうと俺は睨んでいる。
ゲームでいう、【弱体化】の効果を持つスキル、これが相対者干渉スキル。
今のところ、俺が発見したスキルの種類はこの三つだけ。
だが、恐らくもっと多数のスキルが存在しているだろう。
それこそ、俺の想像すら及ばないスキルがあるかもしれない。
そして、そんなスキル持ちに襲われた場合でも圧倒できるような力が必要だ。
結局の所、力がいる。
どんな理不尽にも負けない力が。
その結論に至るまで、大して時間はかからなかった。
だから俺は、これより上層2から8層までに存在する魔物を一匹残らず殺し尽くした。
出来るだけ最速で、最短効率で死のリスクを背負い殺し尽くした。そのお陰で今の俺の魔力値とステータスは、人外の域に達している。
そんな事を考えている内に、下層へと続く階段へと到着する。
ぽっかりと口を開ける洞穴、その壁に等間隔で松明が設置されているのを確認する。
それはゆらゆらと風もなしに揺れており、まるでこの先へ進む挑戦者を歓迎しているようでもあった。
掌を閉口させ、感触を確かめる。
「少し疲れてるが、まぁ問題ない。━━行こう」
身体を包む倦怠感は、鉛のように俺の足を引っ張る。
頭の奥で熱を訴える痛みは、今もなお疼き続けている。
疲労で身体は、今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
だが、そんな事はどうでもいい。
今必要なのは【力】。
この理不尽なダンジョンを攻略し、春を守るだけの力だ。
そのためには、多少の無理はしなきゃいけない。
しなきゃいけないのだ。
目眩にふらつく身体を押し、俺は階段を下る。
松明を横切った瞬間に、辺りを仄かに照らす炎が赤から青に変る。ボッボッと音を立てて、炎は変色していく。
嫌な予感が胸の奥を焼き付ける。
例えようもない悪寒が、背筋を這い回っているのを感じた。
階段を降りきると、そこには今までとは毛色の違う巨大な門が存在していた。
俺の身長を優に越す巨大な銀門。
その外縁には巨大な二匹の蛇がお互いの尾を喰らいあっている装飾が施されていた。
その壮美な装飾と、今までとはまるで違う雰囲気から、俺はひとつの考えが浮かんだ。
「これ、あれか。ボス戦か」
ここは10階層。いわばひとつの区切りとも言える場所だ。
そこに待ち受けるのは、今までのような並の魔物ではなく、ダンジョンを守護するに値する力を持つ強敵。
俺は剣を強く握り込む。
「まぁ――どんな相手でも関係ない。この世界は等しく平等で、殺すか殺されるか、それだけの単純な図式だ」
生き残るのは、常に一人。
それは、俺がこの極限の状態で得た答えであった。