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決断

 

「いけるか━━?」


 視線の先には、無防備に背中をさらしている一匹のゴブリン。

 俺が初めてゴブリンと戦ってから、既に数時間。

 その間に、5匹ものゴブリンを倒しており、ゴブリン殺しのコツ?みたいなものを掴みかけていた。


 ゴブリン一匹倒すごとに30魂級が増えるようで、今では既に魂級は300まで上がっている。

 当初の二倍だ。


 身体能力も上がっているようで、道端の石程度なら力をいれれば割れそうな雰囲気だ。

 と、今はそんなことよりゴブリンだ。

 気を抜いちゃ駄目だ。


 後ろから歩み足でゴブリンの背後に迫り━━


「ぎっ……」


 真後ろから胸の部分を一差し。

 直ぐに剣をゴブリンの胸から抜いて、思いっきり蹴飛ばす。

 よろよろと前のめりにゴブリンは倒れる。


 念のため、後ろ首に向かって思いっきり刃を立て突ける。

 こうしておけば万が一生きていたとしても、仲間を呼ばれることはない。

 そうして、暫くの間ゴブリンが生き絶えるのを待つ。


「お?」


 突然、ゴブリンが痙攣したかと思うと光の粒子となって宙に溶けた。そして、俺の体にその光が入ってくる。


「ふぅ……無事に倒せたな」


 安堵のため息を一つ。

 何度も倒しているとはいえ、やはり『この瞬間』は一向に慣れない。肉を抉り、骨を削る圧倒的に生々しい感覚。

 倒して、光粒となって姿が消えても胸に燻る異物感は取れない。


「ほんと、慣れないもんだ」


 眉をしかめて、そう溢す。

 そのあと剣を振って付着した血を払う。

 ………。

 全然取れない。


「ちょっとカッコつけてみたけど、漫画みたいに上手くいかないもんだな……」


 今の見られたら、結構恥ずかしい。

 そんな事を思いつつ、服の裾で血を拭う。

 何度もこんなことをしてるせいか、今ではもう裾が血だらけだ。

 お気に入りの服だったから、残念だ。

 また新しいの買わないとな。


 ………。

 ━━ダンジョンが出来たとは言え、さすがにまだ地上は無事だろう。


 楽観的すぎるだろうか?

 だけど、一応根拠があるのだ。

 この階層、ここを仮に一階層と名付けよう。


 一階層をここ数時間歩き回った結果、分かったことが一つある。


 それは、このダンジョンにも一応出口らしいものがあるということだ。

 出口はここから南の方向にある。


 一階層を探索していたとき、ある通路から太陽の光が差し込んでいたのだ。

 出口なんてないと思っていた俺は、喜んでその通路を進み━━そうして、いつまでも出れないことに気づいた。


 前へ前へ進んでも、全く進んでいる感覚がしないのだ。

 同じ場所でずっと足踏みをしているような、そんな感覚だった。


 そして、それはどうやら魔物達も同じようであの通路から地上に上がることはできないらしい。


 だけど、それは本来ならおかしい。

 だって、神デリウリは言っていた。

 ダンジョンから魔物が出現すると。


 それなのに、ダンジョンから魔物が出れないようにするのはどう考えてもおかしいのだ。

 だから、俺は一つ予想を立てた。

 つまり。


 ダンジョン内部に人がいる場合、魔物は外に出れないのでは?と。


 考えられる理由としては、ダンジョン攻略を阻止するための仕様━━ではないだろうか。

 だって、もし人がダンジョンの攻略をしている最中に、魔物が外に出ていったとしたら、相対的にダンジョン内の魔物が少なくなるということだ。


 つまりは、ダンジョンの攻略難易度が大幅に下がってしまう。

 それを恐れてのこの仕様ではないだろうか?

 まぁ、すべては仮定の話でしかないけど。


 ポリポリと頭を掻く。


「だからたぶん、地上はまだ無事だ」


 それに何かの間違いで魔物が外に出たとしても、自衛隊がなんとかしてくれるだろう。


 彼らは俺みたいな一般市民とは違って、厳しい訓練を積んだ人たちだ。間違っても、ゴブリン程度の魔物に遅れを取ることはないだろう。


 そう、今の俺のように。

 今の俺の魂級は300。

 その値で、俺はゴブリンに対して余裕を持って倒せるようになっていた。


 今までは安全のために後ろから不意打ちをしていたが、たぶんこの身体能力なら正面から戦っても圧倒できる。


 そろそろ……次の階層に進むべきだろうか。

 そんな考えが、頭に浮かぶ。

 もちろん、安全を考えるのなら、ここでもう少しゴブリンを倒して魂級を上げるべきだと思う。


 だけど……この一階層には一つ大きな問題があるのだ。


 それは、食糧の問題。


 この一階層には、食べれるものが存在しない。

 魔物の肉は、倒した瞬間に消えてしまうから食べれないし、地面と壁にだって、何も群生していない。

 危険覚悟で光る苔を口に含んでみたが、とても食べれるものじゃなかった。

 だけど、一応希望はある。


 俺は探索をしている途中、下へ━━第二層に続く階段を発見した。その階段の段の部分には、僅かではあるが草が生い茂っていたのだ。そして、その草の大きさは下の段へ行くほど大きくなっていた。


 つまり第二層では果実などの食べれるものが、群生している可能性があるのだ。


 どっちにするべきか、俺は迷っていた。

 幸い、俺の腹持ちはいいほうだ。

 勉強を始める前にお菓子を食べていたのもデカイかもしれない。


 そのお陰か、恐らくあと二、三時間は空腹を感じないで済むだろう。

 だが、それ以降となると話は別だ。

 生きているのなら、食べ物がいるし、水もいる。

 このままじゃ、先がないのは明白だった。


 かといって、ゴブリン程度なら余裕~と調子に乗って二階層に向かって、そこに生息する魔物に殺される可能性がないとは言い切れない。

 安全マージンは取っておきたい。


 非常に悩む。

 俺は、一刻も早く春の元に帰らなければならない。

 かといって、それで先を急いて殺されてしまっては元も子もない。


 ………。


「よし、先に進もう」


 俺はしばし考えて、そう決断した。

 そんで、道すがらに出現した魔物は根こそぎ倒していこう。

 ゴブリンはもう余裕だ、だから少しばかり違う魔物を倒してもいいかもしれない。

 そうしたら、魂級だって今より増えるだろう。

 そうして戦力を増強させながら、下の階に向かう頃には二階層の相手にだって負けはしないはず……。


「かなりのギャンブルだな」


 でもまぁ、ここで居ても先はない。

 多少のリスクを覚悟で、下を目指さないといつまでも帰れない。


 そうして、俺は下の階層に続く道を歩き始めた。

 発見したゴブリンを背後から刺し殺して、酸を吐くスライムを叩き潰し、膝ほどの高さの蜘蛛形魔物を切り殺し、その後何体もの魔物を倒した。

 二階層へ続く道に行くほど、魔物の種類と数が増えていくのを感じた。

 だが、大した苦戦をすることもなく俺は二階層に続く階段へとたどり着いた。


「最後に、ステータス確認しとこう」



 《ステータス》

 名前:樋野 秋

 魂級:550

 加護:時神の親愛

 称号:英雄


 筋力:53

 体力:47

 耐性:30

 敏捷:44

 魔力:34

 魔耐:36


 ユニークスキル:【意思反映インテンション・リフレクト】【早熟】


 ~~~~~~~~~~~


 ん?なんだこの『早熟』ってスキル?

 俺こんなスキル持ってなかったよな?

 こんなのいつ……?


 記憶を探る。


「あっ!」


 思い出した。

 そういえば初めてゴブリンを倒したとき『世界初の~』っていうアナウンスが聞こえてきた。たぶんその時にこのスキルを獲得したんだろう。

 だとすると、スキルっていうのは条件さえ満たせば手に入るものなのか?


 と、それよりこの早熟ってスキルについてだ。

 このスキル、文字から推測する限り早く育つって意味のスキルだよな?


 考えられる効果としては、魂級を獲得してステータスが上昇するときに補正がかかってる……かそんな所だろうか。


 それとも、魂級の獲得値自体に補正がかかっているのだろうか?


 魂級は550。

 よく考えれば大体初めの4倍だ。

 たかが数時間で、こんな力を得るのは少々不思議な話だったのかもしれない。

 知らない間に、早熟のスキルに助けられてたのかも……。

 このスキルがあるなら、俺は既に一階層の適正魂級を大幅に越えているのかもしれない。

 そのスキルは、俺の自身を後押ししているように思えた。

 だから、


「よしっ!」


 ━━これなら、二階層でもなんとかやって行けるかもしれない━━そう思った。


 気合いを入れて、俺は二階層へと下っていく。


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