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魂級上げ

更新が途絶えてしまい申し訳ありません。

これから少しずつ更新していくのでよろしくお願いします。

「おりゃあぁ!!!」


 火河さんの裂帛の気合いが、魔物を萎縮させる。

 その硬直し、無防備になった体を袈裟斬りにする火河さん。

 魔物は痙攣し、ぐしゃりと無防備に地に倒れた。

 血がじんわりと、辺りに広がっていく。


「……倒せた」


 信じられない、と言った様子でそう呟く火河さん。

 しかし、これは当然の結果だ。

 今戦闘を行った魔物はレッドアントという魔物だ。

 五階層程度の、浅い階層に分布する比較的弱い魔物。


 俺の見立てだと、火河さんの今の実力だと七階層ほどの魔物を倒せるほどの力はあると見ている。


「火河さん、ステータスを確認してください」


 俺がそう促すと、火河さんは「ステータス」と呟いてステータスを確認した。


「うおお、魂級が一気に二倍になってるぞ!」


 歓喜の声を上げる火河さん。

 その言葉を聞いて、驚愕の表情を顔に浮かべる皆。


「たぶん、魂級が上がってるのは火河さんだけじゃないですよ。全員に魂級が等分されてる筈です」


 俺がそう伝えると、皆口々にステータスを閲覧し、そして悲鳴にも似た歓喜の声を上げる。


「……一気に二倍だ」


「しかもなんか身体に力が満ち溢れてるんだけど……」


「ちょっと怖いかも……」


 そう口々に感想を口にする一同。

 どうやら平均的に、全員の魂級が二倍まで上昇しているようだ。

 たかが五層の魔物を倒しただけで上昇する魂級値とは思えないが、これにも理由がある。


 称号:『英雄』の効果だ。


 これは、仲間が取得できるスキルの習得速度の上昇だけでなく、得られる魂級値の補正という効果もあるのだ。


 そのため、全員が一斉に魂級値が上昇する。


 全員に魂級が分け与えられるのかどうかは完全に賭けだったが、どうやら上手くいったようだ。


「さて、次は━━と」


 俺は直ぐ様全員に声を掛け、魔力感知を広げて適当な魔物を探す。


「見つけた」


 この魔力の大きさは、恐らく10層程度の魔物。

 しかも三体。

 これはいい訓練相手になるだろう。

 一匹は俺が倒すとして、残り二匹は五人一組のチームで一匹ずつ相手をしてもらおう。


 そうしたら、チームワークの訓練にもなるしな。


「次は三体、今皆で倒した魔物よりは、少し強いです。一匹は俺が倒しますので、残り二匹は各チームで一匹ずつ倒してください」


 俺がそう指示を出すと、

 緊張を顔に浮かべながらもコクリと頷く一同。

 いや、ハレは微妙そうな表情だ。


 まぁハレは戦闘に参加できないので、遠くから皆を応援するしか出来ないので、複雑な心境なのだろう。

 でも外界に行くと言って聞かなかったのはハレなのだから、そこは妥協してもらおう。


 そんな事を思いつつ、俺たちはまた魔物を倒しに足を進めるのだった。


 ※※※




「見つけました」


 倒壊したビルの影に隠れながら、俺は発見の旨を皆に伝える。

 蛍を先頭にして一同は、魔物の様子を伺う。


 その魔物の姿を見た琴羽は、恐怖を押し殺すようにして口を手で押さえながら、「気持ち悪い……」と嫌悪に満ちた声音でそう呟いた。立花と辻宮さんの表情も優れない。


 これは……女子にはキツそうだ。


 俺たちの眼前にいる魔物は、俺が昔倒した巨大なムカデの魔物だ。

 硬質な黒い、竜の鱗のような表皮が太陽の光を反射して、黒々と輝いている。その連結崑のようにして蠢く細長い身体の下には、昆虫特有のわさわさした無数の脚が生えている。


 ……やばい、よく見たら気持ち悪くなってきた。




 俺は出来るだけ見ないように努力しながら、地を蹴ってムカデに向かって疾駆する。

 俺の接近に気づいた一匹の巨大ムカデは威嚇するように「キシャアア」と声を上げる。その叫び声を聞いて、二匹の魔物はようやく俺の接近に気づく。


「じゃあ、お前に決めた」


 俺の接近にいち早く気づいたその危機察知能力、恐らくこの三匹の中で一番強いのはこいつだろう。


 俺は即座にそう判断し、剣を抜いた。


「キアアァア!!!」


 甲高い悲鳴のような叫び声を上げて、巨大ムカデは口から緑色の液体を俺に向かって発射してくる。

 俺はそれを終凍魔法で固形化させ、剣で砕いて無効化する。

 巨大なムカデのゲジ目が驚愕に見開かれる。


 そのまま隼の脚を発動させて空中を蹴り、無防備になっているムカデの身体をコツンっと軽く叩く。

 その瞬間、ムカデの身体は糸が切れたかのように無防備に地面へと叩きつけられる。


 本来、即死の属性を得たこの剣ならこの戦い方が一番正しい戦い方なのだ。

 なにせ、触れただけで殺せるのだから。


 他二匹のムカデたちは、仲間に何が起こったのかを理解できず、未だ困惑している様子だ。


「皆さん、今です!」


 俺の号令に従い、蛍や琴羽、火河さん達が一斉に飛び出てくる。

 迫ってくる一体の巨大ムカデの牙をかわしながら、俺はその巨大ムカデを蛍達に向かって蹴り飛ばす。


 と、その瞬間にもう一体の方の巨大ムカデからの噛みつきが。

 隼の脚の効果時間が残っていたので、もう一段階空へと飛ぶ。


 そして、上空から全体の様子を観察する。


 ふむ、樋野隊のメンバーは俺の意図を察したようで、皆諸々に武器を構え、その巨大ムカデに対して身構えている。



「行って!」


 蛍が火河さん達に、今俺が相手取っている巨大ムカデと戦闘をするように指示をする。

 火河さんは、動揺したように「お、おお」と頷き、蛍の指示に従ってメンバーを引き連れ、俺と巨大ムカデの方へ向かってくる。


 俺はその火河さんの情けなさに少し呆れつつ、火河さんたちと入れ替わるような形で身を引いた。


 隼の脚で空を蹴りながら、俺は後方で様子を見守っているハレの隣に降り立つ。


「ハレ、大丈夫か?」


「はい、怪我一つありません。……情けないことですが」


 俯き加減にそう答えるハレ。

 だから言ったのに……、とその言葉は胸の奥に閉まっておく。 ハレは悔しそうな表情で、巨大ムカデと戦う蛍、琴羽、立花の背中を見ている。


「……にしても、これは結構予想外だな」


 三人の戦いっぷりを見て、俺は思わずそう溢す。

 三人の成長具合が著しい。

 今は防戦一方だが、琴羽はなんやかんやで致命的な攻撃は交わしているし、立花は……ていうか、立花が一番活躍している気がする。


 見ていて気づいたのだが、立花はスキルに対しての理解が深いように思える。

 土操作による足場崩しや、形状操作での貫通攻撃。


 それを的確なタイミングで入れるものだから、巨大ムカデはひどくやりづらそうだ。


 と、そこで蛍の例のスキルが発動する。


 特別な動作が起こるわけではない、ただ静かに、蛍自身も自覚していない【勝負師】のスキルが発動した。

 何が発動鍵(キー)になっているのかはわからない……蛍の動きが変わったから俺がそう推測しただけだが……。


「━━きた」


 蛍は巨大ムカデの突進に向かって、真正面から剣を振るう。

 普通は、そこで剣を振るうのはあり得ない。

 魂級の差に、質量の差。


 どこからどう考えても、その選択は失敗の未来しか見えない。


 ━━だが、蛍が無造作に振った刃は、巨大ムカデの頭鱗━━その剥離した部分を貫き、首を刈り取る。


 蛍はその攻撃で巨大ムカデを殺した。


「……また羽島」


 不満顔でそう呟く立花。

 琴羽も、どこか納得していない表情だ。

 しかし、その感情も納得がいく。

 なにせ蛍は、今まで行った幾度の戦闘で一度しか剣を振るっていない。


 だがその刃は神がかり的な確率で急所を貫き、一撃で仕留めてしまう。

 立花や琴羽が必死で動き回り、獅子奮迅の活躍をしていたのにも関わらず、だ。

 恐らく蛍自身が、勝負師のスキルの効果に気付き始めてる━━そういう事だろう。


「なんか、ごめん」


 申し訳なさそうに二人に謝罪する蛍。

 その無害そうなのほほんとした表情に、二人は毒気を抜かれたのかはぁとため息をつくだけだった。


 と、そんな事をしているとき、遠くでもう一匹の巨大ムカデが倒れる音がした。

 視線を向けると、火河さんが倒した巨大ムカデの上に乗りガッツポーズをしている。


 辻宮さん達は、そんなリーダーの姿を見て呆れるような表情を浮かべていた。

 俺は苦笑しつつ、


「それじゃあ次に行きましょう」


 先を促した。

 日が暮れるまでは、外界で魔物を狩り続けるつもりだ。

 そしてそれが、皆の為にもなるはずだ。

 力をつける、それが1ヶ月後の『領土奪還作戦』で生き残る確率を上げる、唯一の方法なのだから。


 そうして、俺たちは日が暮れるまで魔物を倒し続けた。


 夜が来たら拠点に戻り、飯を食べて泥のように眠る。


 そして朝が来たら、別のチームを引き連れて魂級を上げる。


 何日も何日もそれを繰り返し━━━



 気づいたら、1ヶ月が経っていた。


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