訓練開始
数々の誤字報告、本当にありがとうございます。
m(__)m
「それじゃあまずは、チーム分け……っていうのとは違いますが、取得可能スキルに魔法系統があった人達は右側に、無い人達は左側に集まってください。両方ある人は真ん中で」
俺の指示に従って別れる人域拡張軍の人達。
ふむ。
魔法が使える可能性のある人は、全部で10人。
魔法が使えない人達は35人。
両方を兼ね備えた取得可能スキル持ち羽島さんと火河さんと蛍。本当ならここには後、琴羽がいたのだが、ショックで倒れたハレを担ぎに家まで戻っているから、今は不在だ。
しかし、魔法が使える可能性のある人達は及そ3分の1か。
にしても、かなり数が偏ったな。
どこから先にスキルを取得させていくべきか……。
そこで、ある考えが頭に浮かんだ。
取得可能スキルが被っている人も、結構な数がいた筈だ。
なら、一人スキルを覚えた奴がいれば、そのスキルを覚えたやつに、同じスキルを持ってるやつを指導してもらえば、全員が効率的にスキルを習得することができる。
だが、そのためにはサクッとスキルを覚えてくれるだけの要領がなければ……。
「いや、そこで『のびしろ』か」
のびしろ━━言い換えたら才能。
才能溢れる人物に、スキルを早く習得して、周りに指導してもらう。蛍は、のびしろは高いが所得可能なスキルが特別すぎて、あいつと被る所得可能スキル持ちはいなかった筈だ。
だから、火河さんと羽島さん。
狙い目はこの二人だ。
彼らほどの『のびしろ』なら、案外あっさりとスキルを覚えるかもしれない。
「よし、それじゃあ火河さんと羽島さん。二人は、こちらに来て下さい」
「あぁ」
二人は頷いてから、俺の方にやって来る。
「それで、何をするんだ?」
「あなた達には、今からスキルを習得して貰います。火河さんの習得可能スキルは【業炎魔法】【魔力付与】【未来予測】の3つでしたよね、それで得意系統は『炎剣士』」
俺がそう確認を取ると、火河さんはコクリと頷く。
「得意系統が『炎剣士』は火河さんしかいませんでしたが、魔力付与のスキルを取得可能な人達はかなりの人数が居たはずです。火河さんには、この『魔力付与』のスキルを取得したら、その人達にも魔力付与のスキルを教えてあげてほしいんです」
「なるほど、それは了解した。しかし、スキルっていうのはそんな簡単に取得できるものなのか?」
火河さんの皆の心を代弁したかのようなその問いに、皆は「うんうん」と何度も頷いている。
「確かに、取得が難しいスキルもあります。例えば、火河さんの【未来予測】のスキルなんて、取得するのなんて殆ど無理だと思います。ていうか、そのスキルは取得したとしても絶対に使わないでください」
そう、俺も未来予測のスキルを持っているが、そのスキルを発動した瞬間にやって来るのは未来を観測するために必要な、脳が割れるかと思うほど膨大な量の情報量だ。
思考加速を使い、脳の情報処理能力を加速させて、それである。
通常の状態でそれを使うと、恐らく気が狂う。
俺がそう説明すると、火河さんは顔を青ざめさせた。
「わかった。このスキルは取得しない事にする」
そう断言し、
「だが、これが取得しにくいスキルだって言うんなら取得しやすいスキルってのは、どんななんだ?」
「そうですね。火河さんの場合は業炎魔法ですかね。魔法は比較的に覚えやすいですよ」
「魔法……か。何か、俺が魔法使えるって言われても、全然現実感ないな」
掌を閉口させ、火河さんはそう口にする。
だが、ぎゅっと掌を握り締めたかと思うと、
「……だけど、大丈夫だ。これが現実ってのも分かってる。……それで秋、魔法スキルってのはどうやったら取得できるんだ?」
「魔法スキルは、特に説明することはありません。単純にイメージです。ただひたすらにイメージします。火河さんは業炎魔法なので、火属性の魔法です。初めは、指の先に炎が浮かんでいる状態をイメージしてください」
俺がそう言うと、火河さんは「イメージ、イメージ」と呟きながら、瞳を閉じる。
そんな火河さんの様子を、皆は固唾を飲みながら見入っている。
俺は火河さんの魔力の動きを観察する。
魔法を発動させる為には、必ず魔力と呼ばれる体内エネルギーを動かす必要がある。
魔力感知を常に展開している俺には、火河さんが魔法を使えそうかどうかは一目瞭然なのだ。
それによると、火河さんは恐らく後少しで業炎魔法を取得することが出来るだろう。
火河さんを見送り、次に俺は羽島さんに視線を向ける。
「さて、次は羽島さんです。羽島さんの取得可能スキルは【闘力纏術】【隼の脚】【幻影魔法】の3つでしたよね?」
一応確認を取ると、羽島さんは「それであっている」と大きく頷いた。羽島さんに今回習得してもらうのは【闘力纏術】だ。
このスキルは、人域拡張軍の中でもかなりの人数の取得可能スキルの欄に存在していた。
このスキルを羽島さんが習得し、周りに指導すればかなりの短縮化を図れるだろう。
火河さんも同じだ。
魔法と言うのは、どれも根源は同じ。
魔力とイメージ。
イメージに魔力を絡ませて、そのイメージを魔力の力で現象化させるのが魔法だ。
「思考は現実化する」だったか、どこかの偉い人がそんな事を言っていた気がするが、魔法についてはそんなイメージで居てくれたら良いだろう。
そして、魔法スキルは一度所得してしまえば、イメージさえ出来ていたら失敗することはないスキルなので、教えるのも比較的簡単だ。何せ、自分が踏んだプロセスを他者に説明するだけで良いのだから。
次は、羽島さんだ。
「それで、羽島さんには今回【闘力纏術】のスキルを覚えて貰います。ちなみに、このスキルを羽島さんが覚えたら周りの人━━同じ【闘力纏術】のスキルを持っている人にも教えてやってください」
火河さんと同じようにそう言うと、羽島さんは頷く。
「あぁ、分かっている。俺も早く、次のステップに進みたいのでな。それに俺━━いや俺たちも、いつまでも魔物にやられっぱなしじゃ気に食わないのだ。手っ取り早く強くなれるというのなら、協力させてもらう」
そう獰猛に口元を歪める羽島さん。
その鬼気迫る雰囲気に少し押されつつも、俺は「お願いします」とそう言った。
「それでは、まずは魔法系統のスキルと違って通常系統のスキルはややこしいので、説明させて貰います」
「あぁ、頼む」
憮然とした表情で頷く羽島さん。
「この【闘力纏術】と言うスキルは、体内に存在する魔力という非物質エネルギーを、闘力という物質エネルギーに変換するスキルです」
「……んむ? すまん、よく分からん。もう少し分かりやすく説明してくれ」
「そうですね……。闘力っていうのは、いわば質量を持たない筋肉のようなものなんです。重みもない、目には見えない。ですが、そこに確かに存在しています。闘力と呼ばれる、質量を持たない筋肉を纏う事によって、身体能力を跳ね上げる。【魔力纏術】の終着点は、ここです」
分かりにくかったかも……?
少し不安に思ったが、羽島さんは一言一言呟き、まるで俺の言葉を咀嚼するようにして理解しようとしていた。
「ふむ、つまり身体強化に似たようなスキルと言うことだな?」
「イメージはそんな感じオッケーですけど、身体強化のスキルのおおよそ三倍程度の恩恵が受けれると考えていてください」
俺の言葉に、羽島さんは大きく目を見開く。
「三倍……だと? 身体強化のスキルは1.5倍身体能力を上げる筈……。ならば身体強化と平行して使用した場合、身体能力は6.75倍まで膨れ上がるのか」
そのすさまじさに、瞳を震わせる羽島さん。
実際、ダンジョンの中でも闘力纏術のスキルを所得していた魔物はいたが身体強化のスキルとそれを、二つ所持していた魔物は見たことなかった。
加えて、羽島さんは五感強化のスキルも所持している。
それら全てを同時に使用した場合……恐らく、羽島さんは上位の魔物をも殺せるだけの力を得ることができるだろう。
「よし、ならば早くその【闘力纏術】を教えてくれ」
取得方法……。
俺は【闘力纏術】のスキルを持っていないから、取得方法とかはわからないが……大体予想はつく。
そもそも、スキルとは取得可能だからスキルを得るわけでなく、スキルが及ぼす現象を行えたから、スキルとして表示されるのだ。
だから、スキルをステータスに表示させるには、一度自らの力でスキルを発動させなければならない。
つまり、ここからは自力だ。
自力でスキルの効力に気付き、意識することでその現象を起こすしかスキルを獲得することはできないのだ。
だから、俺が出来るのはその『気付き』の手助けだけだ。
「まず、魔力を感じる訓練をしましょう。全てはそれからです」
「魔力を感じる……。少し、やってみよう」
目を閉じて、集中する羽島さん。
俺は腰を下ろしその様子を見守る。
魔法が取得可能スキルの欄にあった人達は火河さんの様子を見守り、通常系統のスキルが取得可能スキルの欄にあった人達は羽島さんを見ていた。
蛍は、食い入るようにして羽島さんを見ている。
暫くして、
「よっしゃ出来た!」
火河さんの歓びの声が周囲に響いた。
その指先には、小さいが、確かに火が灯っていた。
「「「おおおー」」」と感嘆の声が火河さんに浴びせられる。
「火河さん、これで無事【業炎魔法】を取得できた筈です。ステータスを見てください」
火河さんは言われた通りにステータスを確認し、また声を上げる。
「おお、本当だ! スキルに【業炎魔法】が追加されてる……」
信じられないように呟く火河さん。
俺は感嘆の声を上げている皆に向かって、声を上げる。
「このように、新たなスキルを覚えることはそう難しいことではありません! 今のほんの少しの間で火河さんはスキルを覚えました。皆さんも、すぐ新たなスキルを取得することが出来る筈です! スキルを覚え、強くなることで、1ヶ月後に控える『領土奪還作戦』の生存率を可能な限り高めましょう!」
俺がそう発破を掛けると、俺のその演説を聞いていた人達は、皆一斉に猛り声を張り上げる。
「「「オオオオオオォ!!」」」
と、そこで羽島さんがゆっくりと瞳を上げて、口角を上げる。
「魔力の感触を、掴んだ」
また、歓声が上がった。
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