素質閲覧
「さて、それじゃあ適性検査を始める」
眼前で列を成し、整列している人域拡張軍の人達に向かって、俺はそう声を上げた。
※※※
あの会談の後俺は、火河さんに1ヶ月後に控える領土奪還作戦に参加する旨を伝えた。
火河さんは俺の参加を快諾してくれた。
そして、一通り領土奪還作戦の内容について説明を受けた。
それは本当にシンプルな作戦だった。
外界に壁を作り、その壁内にいる魔物を殲滅すること。
それだけだ。
重要になってくるのは壁を作る能力を持っている『壁部隊』を魔物から防衛すること。
ゆえに、最短効率で出来るだけ魔物からの危険性を避けながら壁を作り上げなければならない。
その結果、壁部隊は人域拡張軍の通常メンバーと五人一組のチームを組み、それぞれに割り振られた場所から時計回りに壁を作り上げることになる。
そうすることによって、魔物からの敵意を分散させ壁を作り上げるための難易度が格段に下がる。
だが、それも全て襲い来る魔物を倒し、壁部隊のメンバーを守れるだけの力がなければ意味がない。
現に、これまで幾度となく行われてきた奪還作戦は全て、魔物から壁部隊のメンバーを守りきることが出来なくて、失敗した。
だから俺は火河さんに、人域拡張軍の皆を俺が鍛えると提案した。それが単純で、一番効果的な作戦成功率を高める方法だからだ。
で、冒頭に戻るというわけだ。
※※※
「さて、それじゃあ適性検査を始める」
眼前で列を成し、整列している人域拡張軍の人達に向かって、俺はそう声を上げた。
俺が今からするのは、真実の瞳による素質の把握。
それによりチームを分けて、より効率的に成長させる。
そうしないと、間に合わない。
「それじゃあまずは俺から頼む」
どうやら一番最初は人域拡張軍のリーダー火河さんかららしい。
火河さんは緊張した面持ちで、こちらを心配そうに伺っている。
「わかりました、いきますよ」
実は俺もこのスキル使うの初めてなんだよな。
そんな事を思いつつ、素質閲覧を発動させる。
━━《対象者:火河 啓二》━━━━
所持スキル:【剣術】【体術】【回避】【身体強化】【闘力利用】取得可能スキル【業炎魔法】【魔力付与】【未来予測】
得意系統『炎剣士』
『のびしろ』4.23
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ふむ。なるほど。
所持スキルと適正スキル、得意系統にのびしろ。
素質閲覧ではこの四つの項目を閲覧することができるのか。
所持スキルというのは、文字通り火河さんが所持しているスキルだろう。で、取得可能スキルというのは自分を鍛え上げたら、自力でスキルを手に入れる事ができるスキルだろう。
俺が【剣術】やらのスキルを覚えてたのはそれらがこの取得可能スキルだったからだろう。
逆に、【業炎魔法】とか【解析】とかのスキルは取得条件を満たして手に入れる事ができた。
恐らくスキルには自力で取得可能なものと、条件を達成しないと所得できない、二種類のスキルがあるのだろう。
そして、得意系統の欄。
火河さんの場合は得意系統『炎剣士』と表示されている。
文字からイメージすると、炎を操る剣士と言った所か。
だとすると、恐らくこの得意系統とは、対象者にとって一番向いている闘い方を示していると思われる。
火河さんは、炎と剣を使って戦う魔法剣士スタイルというわけだろう。
そして、次ののびしろの欄。
のびしろ━━つまり才能みたいなものか?
スキルを得ることの出来る上限?
それとも魔物を倒したときに得られる魂級の多さ?
いや、恐らくそれら全てを統合した結果が、この『のびしろ』だろう。
……この事は、あまり公言しない方がいいだろう。
もしこののびしろについても言ってしまったら、色々と面倒な事になりそうだ。
そう思い、俺は火河さんには取得可能なスキルと、炎と剣を両立させた戦闘方法が向いている、とだけ伝える。
火河さんは、真面目な表情で思案して、「やってみよう」と快く頷いた。
その後も、どんどんやっていく。
人域拡張軍のメンバーはおおよそ50人程度。
そう時間はかからない。
所得可能スキルと、得意系統。
それだけを伝えればいいだけだし。
と、何人かを捌いた後、やって来たのは━━
「お前か」
いきなり俺を変態扱いして殴ってきた猫みたいな少女。
少女は俺の顔を見るなりに、「うへぇ」と顔を歪めた。
おっと、なんだいその反応は。
少し、カチンとした。
「なんだ? そんなに俺が気に入らないのか? ていうか、何でお前そんなに俺の事嫌いなんだよ」
我慢ならず、今も嫌そうに顔をしかめている少女に向かって、そう言い放つ。
すると、少女はゆっくりとこちらを見た。
「……っ。なんだよ」
その少女の、何もかもを見透かしているような瞳に俺は少し気圧された。
そんな俺の内心とは裏腹に、少女はペコリと頭を下げた。
「まず、今度会ったら初対面の時に言った無礼を謝ろうと思っていた。━━あの時はごめん。琴羽は友達だったから、帰って来て嬉しくて、気が動転してた……」
少女のその殊勝な態度に、俺は鼻白む。
てっきりまた噛みつかれると思っていたからだ。
俺は安堵のため息を溢す。
「あぁ、いいよ。俺も━━」
「でも、やっぱりあなたの事は嫌い」
悪かった。
その言葉は、不意を突かれた悪意の言葉に、胸の奥に引っ込んでいった。
「あなた、見ていて苛つくのよ。皆の為に皆の為に、そう言って惜しみ無く力使って。何をいい人ぶってるの━━私、あなたの事が空っぽに見えて仕方がない。それに私、人を見る目だけはある。あなたは、とても黒い。怖いくらいに」
空っぽとか黒いとか、そんな事は何も思わなかった。
その通りだと思ったからだ。
でも、前半は違う。
俺は、いい人ぶってなんかない。
そんなはず、ない。
別に他人から良いように思われたいからとか、そんな事思ったことはない筈だ。ただ俺は、春の為に力を尽くしているだけ……。
本当に?
そんな疑問の声を、もう一人の俺が肩に手を置いて、馴れ馴れしく語りかけてくる。
この少女の言うとおりなんじゃないか?
そもそも、相手の約束なんて守らなくてもいいじゃないか。
無視して、利用するだけ利用して後は逃げたらいいじゃないか。
そうしたら無駄な重荷を背負うことなく、幸せを謳歌できる。
それが本当の意味で、春の為……だろ?
━━違う。
春は、そんな自分だけが助かるような結末、望まない。
でもそれは……。
黙れ。
駄目だ。
もうこれ以上この少女と話すのはマズイ。
色々と、考えてしまう。
「わかった……。わかったから、スキルを掛けるぞ」
「勝手にどうぞ」
飄々とした様子で、そう言う少女。
その態度に旨を抉られながらも、俺は素質閲覧を使う。
━━《対象者:立花 和穂》━━━━
所持スキル:【土操作】【コーティング】
取得可能スキル【形状操作】【鉱物変換】【錬成】
得意系統『土魔術師』
『のびしろ』1.23
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極めて普通のステータスに、のびしろ。
いや、のびしろに至ってはこの中では下層に当たる具合だ。
恐らく戦力になっているかどうかも怪しい。
蛍と同じく壁操作のスキルを持っているということは、壁部隊━━ということだろうか。
まぁいい。
俺はこいつと関わりたくないし、立花も俺と関わりたくない。
なら、もう話すこともないだろう。
「終わったぞ」
俺がそう言うと、無言で立花は去っていく。
俺たちのやり取りを見ていて人たちは、立花のその態度に眉をひそめる。だが、何も言うことはなかった。
その雰囲気から、立花は前々から、こういう事を平気で言う奴なのだと理解した。
気を取り直し、次を待つ。
次にやって来たのは━━。
「昨日ぶりだな、樋野秋」
羽島さんだ。
彼は初めて会った時と変わらない、気難しそうな顔をして、こちらを見ていた。
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