拠点
「情報伝達組織のトップに、会わせて欲しい……ですか」
「あぁ、少し話をしたい。たぶん、俺のこの力は国にとっても使える筈だ。なんなら、俺が人域拡張軍に所属して人類の生存域を広めるのに、力を貸してもいい」
一介の高校生が、何を言っているのかと自分でも少し馬鹿馬鹿しくなるが、恐らくこの話は通るだろうという確信があった。
ハレと琴羽からの話を聞くところ、今の日本の領土の殆どが、魔物によって奪われている。
より正確に言うなら、近畿地方以外の全てが魔物の手に落ちているのだ。
これは国のトップからしたら恐ろしい話だろう。
領土を直ぐにでも奪還したい筈だ。
そんな時、ダンジョンから帰還してきた人物が領土の奪還に力を貸すと言っているのだ。
日本がこの先も国として続いていくためには、
その話に乗るしか道はない。
それは、ハレにだって分かっているだろう。
ハレはしばし考えてから、俺の目を真っ直ぐに見据える。
「分かりました。情報伝達組織のトップ━━陸花 和馬との会談、私が責任を持って取り付けさせて貰います」
「頼んだ」
俺がそう言うと、ハレは重々しく頷いた。
この様子だと、話は通ったと見て間違い無さそうだ。
俺が軍のトップ━━その、陸花和馬さんと話をする目的は、妹である春の行方を探して貰うためだ。
そのための交渉材料もいくつかある。
それは、俺自身が力を貸すというのが一つ。
もう一つは、俺の錬成のスキルにより作り出した数々の便利アイテム。
これを交渉材料として、
春の捜索に情報伝達組織の力を貸してもらう。
それが俺の目的だ。
「それでは樋野さん、私達の拠点へとご足労頂けませんか?
迷宮攻略でのお疲れもあるでしょうし、食事の提供もさせていただきます。お風呂もありますし、是非お願いします」
琴羽が、俺の様子をおずおずと伺いながらそう言葉を出す。
さっきから思ってたけど、琴羽はどうやらまだ俺の事が怖いらしい。ハレは、話をしていたらだんだん緊張が解けてきたのか殆ど素に近い感じだったけど。
まぁ、いつかは俺の事にも馴れてくるだろう。
にしても、風呂か……。
それは心惹かれる。
ていうか絶対行きたい。
というより断る理由がない。
「━━行きます」
そう返事をすると、ハレはくすりと笑みを漏らした。
どうやら、ハレはもう俺への警戒を完全に解いているようだ。
琴羽はまぁ、まだ警戒してるけど。
その事実に少し傷つきつつ、俺はハレに疑問を投げる。
「それで、拠点っていうのはあの壁の事なのか?」
俺が指をさし、そう訪ねるとハレは驚きに顔を染めた。
「は、はい。あちらの方角であってますけど、もしかして秋さんは拠点の場所が見えているのですか?」
「ん?まぁ、ステータスがヤバイことなってるし、あれくらいの距離なら普通に見える」
「秋さんのステータス……。ちょっと気になりますね」
「良かったら見てみるか?」
そう言うと、ハレと琴羽は信じられないとでも言うような顔でこちらを見る。
「だ、駄目ですよ樋野さん、そんな気軽にステータスを見せようとしたら! ステータスには貴方の全てが記載されているんですよ!? 言うなら、自らの手札を全てさらけ出しているのと同じです! 絶対にそんな危険な真似しちゃだめです」
琴羽が、
ステータスを見せることの危険性をもの凄い勢いで捲し立てる。
その勢いに、少し戸惑いつつも俺は言葉を出す。
「いや、いいよ別に。見られて困るものでもないし、これで俺の力について知ってもらえれば、馬鹿なこと考えるやつもいなくなるだろ」
そう言うと、ハレは眉を寄せて思案する。
「……確かに、秋さんの場合はそうした方が賢明かもしれません。秋さんを利用しようと近づいてくる人たちへの抑止力にもなりますし……。それに、私も秋さんのステータス気になりますし」
「ちょっ、何言ってるのハレ! ステータスを見せるのがどれだけ危険な行為か分かってるの!?」
その琴羽の意見に、ハレは噛みつく。
「琴羽さん、秋さんが私達にステータスを見せる意味を考えてください」
そう冷たく言い切ると、琴羽は「ぐっ」と言葉に詰まった。
━━なんか、悪いなぁ。
そう素直に、琴羽に思った。
琴羽は俺の身を案じて、ステータスを見せるのは危険だと言った。
だが、俺の目的はまさにハレの言った通り。
俺のステータスを見て、その化物っぷりを実感してくれれば利用しようと考えるものも減るだろうと考えたからだ。
しかも、この二人は二人とも軍関係者。
俺のステータスについて広めてくれれば、軍からの圧力も受けないで済むだろう。
そう考えた結果、この二人にステータスを見せようとしたのだが……真剣に俺の心配をしてくれた琴羽には、かなり悪い事をした。
「━━それじゃあ、二人ともステータス見せるぞ」
《ステータス》
名前:樋野 秋
魂級:285500
加護:時神の親愛(1/3)
称号:英雄
筋力:27850
体力:30821
耐性:28980
敏捷:56210
魔力:78520
魔耐:42570
ユニークスキル:【意思反映】【早育】【真実の眼】
EXスキル:【完全収納】【魔力感知】【剣ノ王】【極炎魔法】【氷終魔法】【腐蝕ノ腕】【隼の脚】【錬成】【解析】【思考加速】【五感強化】【弱点看破】【急所確貫】【強者の威圧】【未来予測】【臨界点突破】
「「━━え」」
二人は、俺のステータスを見た途端にピクリとも動かなくなった。俺のステータスに並ぶ数値を一つずつ数えている。
そして、たっぷりと眺めてから、
「これ、壊れてないですよね……?」
震えた声で、琴羽がそう訪ねてくる。
俺がもちろんと返したら、琴羽の瞳に動揺の色が広がる。
恐らく、目の前の数値が信じられないのだろう。
だが、これは俺のれっきとしたステータスだ。
もちろん壊れてなんていない。
俺の初期のステータスが10代前半や後半だったから、たぶんこれは一般と比べたら桁違いのステータスだろう。
試しに、二人のステータスを解析で見てみる。
悪いがこれも保険だ。
琴羽が俺の事を信用していないように、俺もまたこの二人を信用などしていないのだから。
解析。
《ステータス》
名前:桐生琴羽
魂級:385
加護:なし
称号:潜む者
筋力:21
体力:32
耐性:45
敏捷:42
魔力:39
魔耐:34
EXスキル:【隠密】
スキル:【遠見】【短剣術】【急所発見】
~~~~~~~~~~
琴羽は……スキルから見て、暗殺者のような立ち位置か。
隠密で後ろから忍び寄って一撃で急所を貫く。
俺には魔力感知があるから、琴羽が俺を殺そうとしてきても脅威にはなり得ないな。
次はハレ。
《ステータス》
名前:灯尻 春
魂級:105
加護:なし
称号:なし
筋力:8
体力:11
耐性:14
敏捷:12
魔力:14
魔耐:8
スキル:【思念伝達】【蓄音】
~~~~~~~~~~
ハレに至っては論外。
恐らく、勝負にもならない。
先程の説明では、思念伝達持ちの人材は重宝されると言っていたため、恐らくハレ自身がまともに魔物と戦ったことも殆どないのだろう。
魂級から見ても、それは伺える。
この二人は、俺の驚異にはなり得ない。
裏切られたとしても、特に何の被害も被らないだろう。
それがわかり、安心する自分にほんの少しの嫌悪感を抱いた。
俺が二人のステータスを覗いていたのにも関わらず、ハレと琴羽はキラキラとした目線をこちらに向ける。
「凄いですね! 秋さん。世界で一人しか持てないユニークスキルを3つも持つ上に、EXスキルに至っては17個。普通なら、2つスキルを持ってたら上出来だというのに、秋さんに至っては……! これが迷宮攻略者、凄まじいですね!」
「はは、ありがとう」
乾いた笑いを浮かべ、俺はハレにそう返す。
遠回しに人外と言われて傷ついてるのでは決してない。
と、ふと琴羽の方に視線を向けるとハレとは対象的に琴羽は酷く静かだった。
疑問に思いつつ、俺はステータスをしまう。
ハレが残念そうに「あ……」と声を漏らしたが、もうおしまいだ。
十分俺のステータスを満喫しただろう。
「それじゃあ、そろそろ拠点に連れていってくれよ」
俺が琴羽にそう声を掛けると、琴羽は俯いていた視線をゆっくりと俺に向ける。
「━━っ」
俺は琴羽の瞳に写っていた感情に、
胸を掻き乱されるような感覚に陥った。
琴羽は、ひどく怯えていた。
俺に恐怖していた。
それは誤魔化しようのないほどにはっきりと。
その衝撃が俺の表情に出てしまったのか、琴羽は直ぐにその感情を納めて、俺に向かって乾いた笑みを浮かべた。
見ていられなくなり、俺は琴羽から視線を切る。
「それじゃあ、行きましょう」
ハレの元気な声が、青空の下をこだまする。
ハレを先頭に、ハレ、琴羽、俺の順番で歩き始めた。
ビルの屋上を降り、荒廃したビルを乗り越え、俺たちは歩き続ける。
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日間24位になってた・・・
信じられん・・




