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覚醒

ごめん、長いかも

 

 意識が覚醒する。

 泥沼のように深い死の世界から、意識が浮上する。

 瞳を開けて、俺は直ぐに左手に握っていた『放光石』に魔力を放つ。

 瞬間、眩い光が世界を覆い尽くす。


「うわっ……!」


 その声から、時神の大体の位置を割り出す。

 そして直ぐに魔力感知を発動させ、時神の位置を完全に把握する。


「━━っ!」


 場所を把握し、俺は直ぐに背中を向けて逃げ出す。


「……化物だ!」


 魔力感知には、敵の所有している魔力量から大体の強さを把握することができる。

 そして、俺の魔力感知が壊れてさえいなければ、時神の所有している魔力には天井がない(・・・・・)

 周囲に存在している魔力が全て時神に収束されていき、魔力値が無限に上昇していっている。

 こうしている間にも、あいつは周囲の魔力を吸収しステータスを上げている。

 無限に上がりつづけるステータス。

 そんなもの、馬鹿げている。


「……くそっ、騙された! あいつは俺の味方なんかじゃない、敵だ!」


 例え、何かしらの理由があったとしても俺はあいつに殺されたのだ。信用することは、もう出来ない。


 全力で走りつつ、完全収納から『音響石』を取り出す。

 まだ光が収まっていない空間の中、魔力感知により割り出した時神の位置に、魔力を込めて音響石を投げる。


 音響石は『高周波の音波を辺りに撒き散らす』という性質を持った鉱石だ。

 俺は立ち止まって耳を塞ぐ。

 次の瞬間、リィィィィィという高振動音が辺りに撒き散らされる。時神の反応は分からない。

 時神は、始めにいた場所から一歩足りとも動いていないのだ。

 俺の攻撃を楽しむように、腕を組みながらその場で立っている。


「━━『炎龍』『氷龍』いけ!」

 

 今の俺が出せる上限数、計30体の龍達が一斉に時神へと襲い掛かる。

 と、その時。

 放光石が役目を終えて、パリンと砕ける音が響く。

 そして、徐々に世界から光が失われていく。

 光が晴れ、100階層は元の風景へと戻っていく。

 残光を切り裂くようにして、炎龍達は時神へと食らいつこうと鰓を上げて━━━


 ぶんっと時神が無造作に手を払うと、炎龍たちは粒子となって分解される。

 俺は驚きに目を見張る。

 魔法を、魔力へと還元されたのだ。

 通常、魔法は思い描いたイメージに魔力が絡み付き混ざり合うことで事象へと姿を変える。

 しかし、時神がやったのはその全くの逆。

 幾千本にも渡る龍のイメージの魔力をほどき、全てをバラバラの糸へと分解させるような━━そんな無茶苦茶な事をやってのけたのである。


 続き、時神は親指をパチリとならした。

 瞬間、左腕に鈍い衝撃が襲いかかる。

 ゴキリっと生々しい音が体内を走り、そして右腕が内部から弾けとんだ。指は何本か飛んでいき、爪は軒並み剥がれて彼方へと飛んでいく。


「神に魔法は効かない━━それは、この世界が定めた【理】だ」


 独り言を呟くように声を出しつつ、またもや指を鳴らす。

 俺は隼の脚を発動させて、その場から離れようと地を強く蹴る。

 だが、空へと飛び上がった瞬間にまた、右足に鈍い痛みが走る。

 右足が弾け飛ぶ。

 脛はあらぬ方向へと曲がり、足首は捻れ半ばまでちぎれ飛ぶ。

 脳裏に稲妻のような激痛が走る。


「ぐぅぁぁああああ!!!」


 悲鳴が声から迸る。

 そして、左足に続く右足は宙を踏みしめることは出来ず、そのまま地面へと落下していく。


「私は、秋に希望を託していた。だが、このような有り様だと少々失望を隠せない。ほら、早く立ち上がれ。私を殺してみせろ」


 時神は天を仰ぐようにして、大声を上げる。

 俺はその時神を見て、確信する。


 ━━こいつは敵だ。

 倒すべき敵。

 殺さなきゃいけない。

 そうしないと、俺が殺される。

 命の恩人?助けてくれた?

 そんなの知るか。

 道徳も、博愛精神も『今』はもう要らない。

 そんなものは生き残るにはただの障害だ。

 

 この世界は弱肉強食。

 生き残るのは常に一人で、負けたら死があるのみ。

 そんな単純で、綺麗な世界だ。


 俺は完全収納から、回復石を取り出す。

 それを砕く。

 瞬間、緑色の淡い光が俺を包み込む。

 患部から、煙が上がり徐々に傷が直っていく。

 砕けた骨は欠片ひとつ溢さずに接合し、抉れた肉は復元される。

 俺は、出来る限りの怨嗟の声を出して━━━



「━━あぁ……いいさ。殺してやるよ」



 スキル:臨界突破オーバータイム


 ぶわり、と紅のオーラが全身を包み込んだ。

 筋組織の一つ一つに電流が駆け巡り、身体機能を限りなく上昇させていく。全身を走る電流に髪の毛が一斉に逆立ち、目の端から血が止めどなく溢れていく。

 全身を走る電流は、俺の全身を刺激し、傷つけることによって身体機能を上げているのだ。

 このスキルは諸刃の剣。

 ステータスが上がり、身体機能も増大するが代償として全身が傷つき浅くない後遺症が残る。

 だから━━━


「なるほど、回復石を使い臨界突破の欠点を補っているのか」


 時神の瞳が僅かに驚愕に見開かれる。

 次に、愉悦を禁じ得ないとでも言うように仮面に空いた口元がニヤリとつり上がる。


「その覚悟、さすがは秋だ。やはり君は、この世界の希望にふさわしい!」


 楽しげに、愉快そうに時神は笑い声を上げる。

 全身を走る電流に脳を揺さぶられつつ、俺は時神へと剣を向け、宣言する。


「1つ言っておくが━━俺はこの世界の希望になんてなるつもりはない。俺はどこにでもいる普通の高校生だ。その役割は、ちと荷が重い。俺が求めるのは春の幸せ、それだけでいい」


 視界が点滅しだす、もう理論的な思考を保つことはできない。

 だから、最後にこの言葉だけは言ってやりたかった。

 その何でもお見通しとでも言いたげな瞳を、揺らしてやるために。


「だから、俺は世界なんか救わない」


 会話の内容から、この時神が俺を救世主にするために加護を与えたのは簡単に推測できる。

 俺がそう宣言した途端、時神から初めて笑みが消える。


「━━それは、どういう意味だ?」


「文字通り、そのままの意味だ」


 はじめの意趣返しとしてそう言い放つと、時神は呟く。


「まぁ、それでもいい。秋がこの私を倒すには、スキル【意思反映】それに目覚めるしか道はない。私は秋が【意思反映】にさえ目覚めればそれでいい。後は全て━━━」


 と、時神は指を鳴らし、また不可視の攻撃を仕掛けようとする。思考加速と五感強化を発動させ、その攻撃の出所を探る。

 コンマ一秒でも見逃せない!

 この攻撃を攻略しない限り、俺はこいつに勝てない!

 集中力が加速度的に増していく。

 深く深く深く深く深く━━━っ!!


 閃光のような煌めきが網膜に焼き付く。


 そして、時神は指を鳴らし終える。

 視線を身体に向け、時が止まったのかと錯覚するほどの時間の中観察を続ける。

 すると突然、ぼわりと透明な風船のような魔力が右腕に浮かび上がった。


「これが、あの魔法の起爆剤か!」

 

 右手を勢いよく振り、魔力を払おうとするが一向に離れない。

 どうやら『樋野秋の右腕』を座標として、設定し爆発させるのがこの魔法の特性らしい。

 なら━━、


「なにっ!?」


 時神の焦ったような声が聞こえる。

 俺は魔力を右腕に集中させ、時神の魔法に干渉する。

 次いで、魔法を『解析』する。


 ~~~~~


 スキル【意思反映インテンション・リフレクト】により発生した意思力の塊。防御不能の属性を持つ。


 ~~~~~


 これは、俺の持つスキルと同じ……?

 右腕にどんどんと魔力を溜まっていく。

 爆発まであと少しと言ったところか。

 剣の柄に力を込めて、落とさないように握り込む。

 そして、さらに思考を加速させる。


 考えろ。

 今こそ、本気で考えるべき時だ。


 このスキル意思反映は、何だ?


 どんな力を秘めている?


 倒すとしたら、この力以外に道がないのは明白だ。

 

 分かってる。


 解明だ。


 無理だ。分からない。


 なら、推測しろ。


 推測?


 そう推測だ。


 まず、

 この体内から爆発する

 魔法、これは意思反映のスキルに

 よるものだ。


 なら、

 この意思反映

 のスキルなら、時神と同じ魔

  法が使える?


 思考が飛び飛びになる。

 頭が、麻薬のような全能感に侵食されていく。

 臨界突破の弊害だ。

 それでも、俺が思考を纏めようとしていると、

 右腕に衝撃が走った。


「━━━━ぁッ!」


 肉が弾け、骨が剥き出しになる。

 即座に二つ目の回復石を砕く。

 覚悟していたとはいえ、この激痛はちと耐え難い。


 巻き戻しのように再生していく右手を尻目に、俺は隼の脚を発動させ、迅雷のごとき勢いで疾駆する。

 脚に収束していく魔力が、藍色のスパークを発生させる。

 それすらも巻き込むようにして、俺は前へと進む。

 

 僅か二歩で、百メートル以上の距離を詰める。

 狙ったのは魔法の再発動までのクールタイム、どんな魔法でも立て続けに魔法を連続使用することはできない。

 その魔法に対するルールを突き、俺は全力で剣を振るう。


 その際、スキル【剣ノ王】が俺の意思に答えるように、鋭い白光を放ち発動する。

 スキル【剣ノ王】は、剣術が進化した先の上位スキルだ。

 剣術への尋常でない補正と、俺自身の魔力に干渉し『全てのものを立ち斬る』という無限破壊の属性を持っている。

 この剣ノ王の強力無比な性質と、剣自体の持つ爆破の属性を合わせると、その効力は累乗的に増していき触れた相手を必ず殺す、【必死】の属性へと昇華される。


 キィンッと冷たい音が、第百層に響き渡る。

 時神は、俺の全力の一撃をその右手に握る剣でガッチリと受け止めたのだ。

 その事実に、俺は驚愕を隠せない。

 今の攻撃を受け止めきった剣の性能に対してもそうだが、それ以上に時神の持つ剣術の練度に驚いた。


 俺は、続けざまに剣を振るう。

 右上から、左上から、あるいは視角をついたり、下から地を這うように━━。

 だが、その全てを嘲笑うかのように美麗な剣捌きでいなしていく。その剣技は、まるで夜空に輝く星々のように美しく、かつ流麗であった。


「駄目だ。まだ弱い」


 仮面の奥から光る赤眼から、並々ならぬ強固な意思を感じる。

 そのまま、時神は力任せに剣を横凪ぎに振るう。

 剣を押し出し、受け止めようとするが圧倒的なステータスから繰り出される一撃は、俺の必至の抵抗を踏みにじり、俺の身体を吹き飛ばす。


 だが、俺の上昇しているステータスは吹き飛んでいく身体を空中でバランスを取り、隼の脚でその衝撃さえも反動にして剣を振るう。俺の凄まじい剣速が音の壁を突破して、耳元でピイィという共鳴音のようなものが響いた。

 だが、それも鮮やかに防がれる。

 何度吹き飛ばされても。

 何度完璧に防がれても。

 愚直に突進を繰り返すが、その剣が届く気配はない。

 臨界突破にさらに魔力を注ぎ、ステータスを高めるがまるで結果は同じ。

 考えてみれば当たり前だ。

 あいつの魔力値は、ステータスは、今こうしている間にだって上がり続けている。



 俺の剣術は、どう足掻いても時神には遠く及ばない。



 無駄な攻撃を繰り返す俺の様子を見て、時神は瞳に失望の色を覗かせる。


「秋、お前が剣術で私に勝てることはない。魔法もだ。何度言えば分かる! 私を倒すには、そのユニークスキルを使いこなすしかないんだ!」


「黙れよ! そんな事を言ったって、俺には使い方が分からないんだよ! そんなに殺されたいなら、さっさとやり方を教えろ!」


 吠えり、俺は荒々しく剣を振るう。

 幾万にも及ぶ剣の応酬は、俺の身体に重い疲労を落としていた。

 だが、剣を振るう事を辞めるのはできない。

 それをした次の瞬間には、首が飛んでいると確信できるからだ。

 だから愚直に、何度も、仮説と検証を繰り返し、実践する。

 奇剣、豪剣、実剣、ありとあらゆる方面からアプローチをかけるが、その全てを全く同じ力で、全く同じタイミングで返される。

 間に魔法を挟んでみても、それは変わらない。

 全く同じ魔力量で、反発属性の魔法を繰り出し消滅させられる。


 全くの互角かと思えば、暇潰しのように繰り出される指パッチンで俺の身体に重いダメージを与えてくる。

 完全に遊ばれていると気付き、思わず空笑いをしてしまった。

 そして、それを見て時神はまた失望をその目に映すのだ。


「悪いな、それはお前が自分で気づき、『想い』を乗せねば発動しない。お前の『想い』はお前だけのものであり、他の誰にも分かることはないからだ……! その力の本来の使い方に気づけ、そして願え!」


「願うって! んなこと出来るかよ! いつだってこの世界は残酷だ! 願って祈って、そうして立ち止まっていることが出来る世界は終わったんだよ! 自らの力で未来を掴んで、足掻く努力をしないと、簡単に人は死ぬ!」


 ━━俺だって、もう既に二回死んだ。

 あぁ、そうだ。

 手をこまねいて、『俺じゃない誰か』を待つ時代は終わった。

 俺が俺の意思で、俺の誓いで前に進まないといけない。

 そうしないと、春を守ることも、ましてや生き残る事だってできない。

 願いなんて、あやふやなものに頼ってなんていられない……!


「馬鹿が! そんな考え方じゃ秋は必ずいつか潰れる! 自らが下した決断の、その代償に心を苛まれ、そうして壊れる!」


 時神の剣が、俺の右足を貫く。

 激痛に、振るう剣の動きが鈍る。

 それを見逃す時神ではない。

 頭上から濃厚な死の臭いを放つ極剣が振り下ろされる。


「あぁぁぁ━━!!」


 反射的に、左手で半分に折れたゴブリンの剣を完全収納から取り出し、剣の軌道上に掲げる。

 パリンッと乾いた音を立てて、ゴブリンの剣はさらに半分に両断される。勢いはそれで緩まる訳もなく、ほとんどそのままの勢いで、俺の身体を胸から左足にかけて走る。

 全身を包む激痛。震える左手で、最後の回復石を砕く。

 これで、もう回復石はおしまい。

 


 そして、馬鹿な俺は命綱とも言える回復石を全て犠牲にし、そうしてようやく分かりきった結論へと至る。


 それは、『樋野秋は時神に剣も魔法も及ばず、勝ち目などない』という残酷な現実。

 

「秋、お前は初めから気づいてたはずだ! 私には、時神には、剣も魔法も効かないと。それはこの『今』での【ルール】だ。【人は神に勝てない】それは【理】だと、そう何度も言った! にも関わらず、なぜお前はこんな無駄な事をする!」


「それ以外に、道はないんだよ! 俺の今持ってる手札は全部切った! 剣も魔法も、俺が持つ全力をぶつけた! だが、お前には━━届かない。後数センチの剣先が、遠くて遠くて仕方がない! 俺が血を吐く思いで練り上げた魔法も、お前が片手間に作り上げる爆破の魔法に及ばない! ━━俺じゃお前に、届かない!」


 ━━これが、現実。

 分かりきっていたことだ。

 現実はいつでも冷静で、そして無慈悲に裁決を下す。

 怠惰を貪る人間には敗北を、努力を糧に前に進む人間には勝利を。

 俺は、どこにでもいる普通の高校生だ。

 それはいくら力を手に入れたって変わらない。

 ほんの少し妹が大切で、シスコンだが、俺は本当に普通の高校生なのだ。

 特に特別な訓練を受けた訳でもなく、ましてや必死に打ち込める何かがあったわけでもない。

 そんな、つまらない人間なのだ。

 

 こいつが期待するような、英雄や希望には程遠い。


 そんな人間が、神なんかに勝てる訳が無いだろう。


 呻くように、内心でそう溢す。

 そんな俺の弱気に攻めいるように、時神の剣閃は速度を増していく。まるで閃光のように、早く早く早く━━、増していく。

 だが、わかっている。

 これは錯覚だ。

 魔力感知を持っている俺には、しっかりと分かっているのだ。

 剣のスピードはさほど変わっていないし、新しい剣技を繰り出しているのではない。

 だが、確実に、まるで確定された未来があるように、俺は自身が『敗北』へと吸い寄せられているのを感じた。


「気づけ秋━━━!」


 時神が絶叫し、剣を振り下ろす。

 俺はそれを受け止めようとする━━が、疲労が蓄積し、重くなった右腕は一向に言うことを聞いてくれない。

 迫り来る死の予感、それをどこか他人事のように待ちつつ、そうして時神が発した言葉について考える。


『気づく━━?』何に?

 こいつは俺に、何に気づいてほしいんだ?

 自問する。

 そんなの、意思反映のスキルの使い方に決まってる。

 こいつは俺がそうすることを望んでる。

 だが、分からない。

 何に気づけばいい?


 俺は、時神と出会ってから今この瞬間までの会話をもう一度洗い直す。

 特に意味はない。ただ、この訳の分からない神様を少し知りたいと思ったのだ。

 思えば、こいつは初めからおかしな事を言っていた。

 そうだ━━。


『━━はは、そう心配するなよ秋。私はお前の味方だよ』


 これが、あいつと俺の初めての会話だ。

 ━━自分は『味方』だと、あいつは言った。

 意味がわからない。なら、なぜ直後に俺を殺した?

 いや、それは分かってる。

 俺に【意思反映】を目覚めさせるためだ。

 そして次に、


『今じゃまだ、落第点だよ━━』


 そう言った。

 この時神の目的が、俺に意思反映を使わせるためだと考えてみれば、不可解だった時神の行動にも納得がいく。

 そして、なぜ俺に意思反映のスキルを使いこなさせようとしたのか、それはこいつのこの台詞から明らかになる。


『それは、君だけが(・・・・)このゲーム(・・・・・)を終わらせれるから(・・・・・・・・・・)だ』


 このゲーム、つまりは12月25日以降の世界。

 それを終わらせる。

 つまりは、俺だけが全てのダンジョンをクリアする事ができる……ということか?

 たぶん、きっとそうだろう。

 

 それは何故か。

 そんなの、あいつが執着してる【意思反映】それを俺が持っているからに決まってる。

 そして最後になぜあいつはあぁも俺に殺されたがっているのか━━、


『まぁ、それでもいい。秋がこの私を倒すには、スキル【意思反映】それに目覚めるしか道はない。私は秋が【意思反映】にさえ目覚めればそれでいい。後は全て━━━』

 

 それもやはり、【意思反映】を俺に覚醒させるため。

 殺されたがっているのではない。



 自らの命を犠牲にして、俺に神殺し(・・・)をさせようとしている。


 その事実に気づいた途端、今までの不可解だった点が全て理解できた。

 俺を一度殺したのは、自分に殺意を抱かせるため。

 何度も何度も意思反映を目覚めさせようとしたのは、世界の定めた(ルール)、【人に神は殺せない】それを無視しえる力が、【意思反映】だから。

 そして、こいつが望むのはゲームクリア。

 12月25日以降へと、世界が流転すること。

 つまり、


「俺に【創造と破壊の神デリウリ】を殺させる。それが、お前の目的か━━?」


 か細い声でそう結論づける。

 しかしその声は、時神の耳に入った。


「━━そうだ。それが、私の目的だ。このゲームをクリアするには、主催者であるデリウリを殺さねば終わりはない。いや、殺したとしても『エンディング』が訪れるかはわからない。だが、もうそこに━━お前があの『怪物』を殺すことに賭けるしか、もう道はないんだ。━━やっとそれに、気づいてくれたか……」


 喜悦に震え、その有り余る感情の濁流に時神は剣先を外してしまい、剣は深々と地面へと突き刺さった。

 俺は命拾いをしたと、肩から力が抜けるのを感じたが、次にやって来たのは深い怒りだった。


「なんでお前は、その目的を初めから俺に素直に伝えないんだ!もし素直にそう言っていたら、俺は【デリウリの殺害】にも協力していた! なぜお前は、こんな回りくどいやり方をする! 初めから事情を説明していれば、俺とわざわざ剣を会わせることもなかったはずだ!」


 怒鳴るが、その怒りは時神には一向に届かない。

 むしろ、喜んでいる気配さえする。


「理由はあったんだよ! 私は【制約】に縛られて、過度に君に干渉することはできない。だから、私の意図に、願いに、秋が気づいてくれるしかなかったんだ! そして、秋は私の願いに気づいてくれた! やはり、秋は最高だ━━」


 制約やらなんやらと、気になることはあるがそれ以上に気になる事がある。


「前々から気になっていたけど、俺とお前はどこかで出会った事があったか?」


「さぁ? それはどうかな?」


「それも、制約とやらに含まれるのか?」


 否定も肯定もしない。

 つまり、正解だということだろう。

 しかし、なら。

 俺はこいつといつ出会った?

 お前は誰だ?


「その仮面取れよ。もしかしたら、思い出すかもしれない。思い出したら、お前に対する信用も上がる。素直に、お前のやり方に従ってやるよ」


「それはできない」


「それも制約か?」


 正解。

 どこか喜悦を含んだ瞳が、俺にそう訴えかけた。


「━━なら、もういい。さっさと俺に意思反映のスキルを教えろ。それなら、別にお前を殺す理由にはならないはずだ」


「━━? 不思議だな。それは私を生かすということか?

 私は秋を殺したんだぞ? 殺されても文句は言えない。私に恨みはないのか?」


「あるさ。あの恐怖と絶望感を味合わせてやりたいくらいさ。だけど、お前が俺に神さえ殺す力をくれるというのなら、話は別だ。一回死んだことくらい水に流すさ」


「……なるほど、秋はそういう人間だったね。最も重要なのは力。君はそう考えてる」


「そうだよ。力がなくちゃ何も守れない。失っていくだけだ。それは、死ぬことよりも恐ろしい。だから、一回死んだことくらい許す。早く俺に力を与えろ」

 

 睨み付け、時神にそういい放つ。


「何度もいうが、それは出来ない」


 剣をくるくると弄びながら、時神はそう言った。

 

「この力の使い方に気づくのは君だ。君の『想い』は君だけのものであって、君の『願い』も君だけのものだ。━━あいにくと、私は自分で掛けた制約にがんじがらめで、ヒントを出して上げることしかできない」


「自分の願いに、想い━━」


 それが鍵なのか?

 俺がスキル【意思反映】に目覚める。

『願い』と『想い』。

 俺の願いは春の幸せ。

 大切な妹が幸せに生きていくことだ。

 そのために、どんなものを犠牲にする覚悟なら、とっくの昔に出来ている。

 それは俺の『想い』

 俺は春の幸せを想っている。

 それが樋野秋の根源━━━


「違う。秋、そうじゃない。そんな難しく考えるな。

 先を見るな。今から目を背けるな。君は今どうしたい」


 鈍色に煌めく剣を突き付け、時神はそう俺に問い掛ける。


「俺は今、どうしたい?」


 今、どうしたいだって?


「今俺は、力が欲しい。この世界を生き抜いていくだけの力を。この先どんな絶望からも春を守れる力を」


「なら、それを『願え』。祈って『想え』━━私が君に干渉できるのはここまでだ。これでも、かなりギリギリを攻めたんだ、頼むぞ秋、私は君こそがこのゲームを終わらせるべき人だと思っている」


 時神は俺の目を真っ直ぐに見据えて、そう断言する。

 その誠実に光る赤眼を見て、俺はようやく悟る。

 遠回りして、勘違いして。

 だけど、始めにこいつは言っていたのだ。

 俺の味方だと。

 それは嘘じゃなかった。

 仮にここに時神が居なかったとしたら、俺は神デリウリを殺し、真のゲームの終わらせ方に気づくことはなく、延々と死ぬまで『地獄のような世界』で生き続けなければならなかった。

 それに気づかず、思考を停止させて、殺されて妄目的に彼は敵だと勘違いして。

 自分が恥ずかしい。


 俺はゆっくりと剣を構える。

 何度も何度も何度も何度も━━。

 時神は教えてくれていた。

 自分を信じて、願えと。

 だが俺は自分が信じられなかった。

 当たり前だ。俺は以前何もしてこなかったのだ。

 ただ何となく毎日を生きて、本気を出して何かに打ち込んだこともなく、ましてや結果を出したことも、一度もなかった。

 そんな自分を信じるなんて、できやしない。

 だから、自分を信じられなかった。


 そして、俺は知っている。

 願っても手に入らないことの方が多くて、望んでもそれは踏みにじられることの方が多いことも。

 特段、何かいじめとかを受けてた訳でもない。

 ただ毎日を生きていれば、そんなことは否が応でも分かってしまう。

 そして、願っても祈っても、叶わなかった人たちを見たことは何度もある。


 願いは叶わないことの方が多いことも、俺は知っていた。

 だから怖くて、『願え』なかった。


 だけど、今は違う。

 今の俺に失うものなど何もない。

 俺は、少し前までほんの少しの偶然で手にいれた力を自慢げに振るい傲慢に浸っていた。

 何が90層の守護者も余裕で倒せた、敵はなかった、だ。

 俺がそんな出来た人間じゃなかったことは、他ならぬ俺が知っていた筈なのに━━。


 だけど、その枷も打ち砕かれた。

 空っぽの俺を満たしていた『些細な力』は時神が踏み砕いてくれた。ねじきってくれた。

 プライドも、何もかもへし折ってくれた。

 何度向かっていても勝てる気さえ起きなかった、

 そんな『本物の力』を見せてくれた。


 だから俺は━━、



 今ようやく、本当の意味で【意思反映】を使うことが出来る。



 時神が、俺を失うもののない『空っぽ』にしてくれたお陰で『願い』を恐れずに済んだ。

 強く、『想え』た。


 胸が強く打ち震えた。

 心臓が高鳴り、新たな力が全身を駆け巡るのを感じた。

 今ならなんにだってなれる気がした。



「やっとだ!やっと目覚めた………!

 秋の全てを踏みにじって、踏み越えて、そうして出来た『気付き』! 秋はそれを見逃さないでくれた!

 これで、私の役目は終わる! 私の『想い』は消えた!

 ようやく、ようやく……私の英雄が目を覚ます……!」


 時神が歓喜に震え、歓びの絶叫を上げる。

 仮面の奥の瞳からぼろぼろと涙を溢す。

 そうして、感動に身を震わせて━━


「秋、さっきの言葉を撤回しろ。

 それは『私を殺さない』と言うことだ。

 私は、今ようやく秋に向かって本気で挑める。

 だから、戦おう!死合おう! あぁ、そうだ!

 世界には限りなく正解に近い、一つルールがあるはずだ! それは、生まれた頃から続く、永劫不変の理!

 それは、【常に勝者は一人】! 最後に立っているのは、『敵』を倒したどちらか一方のはずだ! 俺は今っ!お前の味方を辞めよう━━!」


あぁ(・・)分かった(・・・・)


 言葉を交わす必要はもうない。

 俺は俺の『意思』で『誓い』で前に進む。



『想い』描くのは揺るぐ事のない勝利のイメージ。

 この【意思反映インテンション・リフレクト】のスキルに最も重要なのは、決して揺るぐ事のない強固な想像。


『【次の一閃で、時神を討ち滅ぼす】』


 その鋼のごとき強固な『願い』は、意思反映のスキルを媒介にして、現実世界に干渉していく。


『【それは現実、確定された未来】』


 揺るぐ事のない『想い』は手繰り寄せた『勝利のイメージ』に向かって収束していく。

 願いと想いが、意思反映を通して俺が勝利する未来を作り上げる。

 それは【人は神を殺せない】という理を砕いた事実に他ならなかった。

 万に一つもなかった【人が神に勝利する】未来━━そこに向かえと、俺は願った……!


 時神の剣から、黄金色のオーラが立ち上る。

 分かる。時神も今、俺と同じように【意思反映】を使い確定された勝利の未来を『願って』いるのだ。

 いわばこれは、想いと願いと━━そして意思のぶつかり合い。

 この一撃で勝った方が、本当の意味での勝者だ。


「行くぞ━━━」

「あぁ」


 静かに、彼我の距離は縮まっていく。

 緩やかに流れるように俺たちは距離を積めた。

 互いに脳裏に浮かんでいるのは【一撃】ただ一つだった。


 そして、互いの剣は振るわれ━━━━


読んで頂きありがとうございました!

でもごめん、自分でもこれは長いと思った……。

次からはもうちょっと分量を減らしていきたいと思います。


少しでも面白い

続きが読みたいと言う方はこの後書きの下にある評価とブクマお願いします!


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