にゃんと鳴く虎 5
サラマンドラピークを訪れる旅人は少なくない。
奥深い山々に囲まれ、決して開けてるとは言いがたい小さな村だが、雄大に構える山々は全て活火山であり、温泉が沸いている。
水質が良くミネラルも豊富に含むため、湯池として訪れる旅人が後を絶たない。
人が集まれば通りが出来、通りにには商店が並び、宿ができ──そして酒場ができる。
村に下りてみるとその手の娯楽施設が数件目に止まった。
さすがにこんな昼下がりから営業している店は無いようだが。
想像以上に大きな村のようだ。
「ガル……」
アリアが心配そうに私に声をかけ、私にぴったりとくっつく。
まるで怖がりの子猫だな……。
「案ずるな」
安心させるためにわざと尊大に応えてみせる。繊細に振舞うのは苦手だが、尊大に振舞うのは得意だ。
私はアリアを落ち着かせるために、しっかりと抱きしめる。
微かに、彼女の震えが伝わってくる。
アリアが心配していることは何となく察しがつく。
獣人である私を気遣っての心配が一つ。
我々獣人種族、特に肉食の獣人も人間の事をとやかく言える立場ではないのだが、人間は人間同士でも争いの耐えない交戦的な種族だ。
そんな人間達が住まう町に突然、獣人が現れた。当然、人間と獣人である私との対立が起きる──。
恐らくアリアはそう考えているのだろう。
だが、この町は旅人が作り上げた町だ。旅人は人間だけにあらず。
むしろ道のりが険しい程、獣人の旅人が増える傾向に有る。獣人はひ弱な人間と違い、頑丈に出来ており、人間にはおよそ不可能な旅も軽々とこなす為だ。
「駄目……私やっぱり……」
やはり、そちらの方が駄目なのか……。
彼女が感じている恐怖は──アリア自身が久々に獣人以外の人間と接する事への不安。
無理もない。あの日、彼女は同種である人間に裏切られたのだ──。
四年経った今でもその傷は癒えていない。
「アリア……」
私は逡巡する。同族から裏切られた彼女に何と声をかければ良いのか──。
「あー!虎さんだ!」
アリアを抱きしめたまま、思案していた私の耳に少年の声が飛びこんできた。
アリアを抱きしめたまま顔だけで振り向くと、木刀を構えた人間の少年が眩しそうにこちらを見つめている。
「サラマンドラピークを狙う悪者めー!このキセノ様がー……えーっと……成敗してくれるー!」
おもむろに木刀を構えると飛びかかってくる。
私はアリアを抱きしめているため身動きがとれない。
これが真剣ならばアリアを突き放してでも身構えるのだが、相手はたかが木刀を手にした少年だ。
木刀が振り下ろされた一瞬だけ体中に爆発的な力を込め、木刀の一撃を耐える。
思ったとおり、腕力も技もたいしたことはない。
そもそも本気を出していない。
……子猫がじゃれあうようなものか。
「なんて奴だ……聖剣エクスかリバーの一撃に耐える何て!?」
私は困って自分の頬を軽く掻きながら、アリアを離し少年に振り返る。
少年が今まで私の影になって見えていなかったアリアを目ざとく見つけ叫ぶ。
「化け物めー。姫を放せー」
たった今、離した所では無いか。
「姫様ぁー!勇者キセノが現れたからには、もう安心です!」
サラマンドラピークを狙う悪者と言うシナリオがいつの間にやら姫様を救出する勇者の話に書き換えられたようだ。




