にゃんと鳴く虎 4
「ガル──?」
アリアの呼び声で我に帰る。
どうやらかなりの時間、回想に耽っていたようだ。
「珍しいわね、ガルが回りも見えなくなるほど物思いに耽るなんて。
──旅をするときは片時も気を許すな……ってガルの口癖じゃない」
「そうだったな」
この四年間。彼女が旅をするために必要なことを教えてきた。
しかし、心のどこかで本当に旅をする日が来るのかどうかを疑問に感じていたのもまた事実だ。
出合ったばかりの彼女はあまりにも世間知らずで、か弱く、およそ考えうる限り最も旅とかけ離れた人間だったからだ。
それがたった四年で変わったものだな──。
「何考えてたの?」
アリアが私と交わり、淫らに喘いでる姿を思い出していた。
……などと言えるはずが無いではないか。
「いや、たいしたことではない」
獣人の細かな表情は人間には読まれにくい。しかし四年を伴侶として共に過ごしたアリアなら私の照れている表情を読み取り、私が何を考えていたかに、思い当たるだろう。
私は静かにつぶやくと、表情を読まれるのを防ぐために立ち上がった。
「あれから四年が経った……私は強くなれたのかな?」
私を見上げながらおずおずと口を開く。
「アリア、お前の術者としての腕は十分実践で役立つレベル──」
「術もそうだけど──」
言いかけた私をさえぎり、アリアが続ける。
「──心の強さとか、内面も含めて……ね」
私は目を細めアリアを見つめた。
「……猫」
アリアがポツリと呟く。
「猫ではない。白虎だ……」
虎獣人を前に怯えなくなった。冗談も言えるようになった。
この四年間で彼女は『守ってもらうだけの』『弱い人間』から『自分の力で生きていこうとする』『強い人間』になっていた。
「でも……」
そういうと彼女は草むらから狗尾草の穂を一本引き抜くと私の目の前で軽く上下左右に振る──。
不規則に揺れる狗尾草を獲物を狙う鋭い目つきで暫く見つめ、それではアリアの思うつぼだと感じ、慌てて目をそらした。
「手、出なかったんだ?」
正直、我に返るのが一瞬遅ければ手が伸びていたかもしれない──が、もちろんそんな事を正直に話すつもりもない。
「誇り高き白虎だからな……」
「猫の方が可愛いのに……ねぇ。にゃ~んって……」
……またアリアのおねだりが始まった。
アリアと暮らし始めた当初、どうしてもアリアが私の事を怖がっていたので、仕方無しに猫の真似をしてやった。
これがアリアにウケた様で、以降私の事──虎獣人──を恐れなくなったのだが。
事ある毎に猫の真似をおねだりするようになってしまった。
猫の真似をするのは当然と言えば当然だが得意だ。
しかし──。虎としての誇りが……。
「お願い、ガル、にゃ~ん……」
アリアが無邪気な笑顔で私を見つめる。
私はその顔に弱いのだ。
念のため周りに誰もいないのを確認し、私は一声、鳴いた。
「にゃ~ん」




