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にゃんと鳴く虎  作者: とび
24/24

にゃんと鳴く虎 24

初投稿から約6年。お話の完結?が大変遅くなり申し訳ありませんでした。


「にゃんと鳴く虎」はここまでが第一章で、実は第二章以降でガルの過去が少しずつ明らかになり、やがてアリアの過去とキセノの父親、アーサディンとの関係が複雑に絡み合い――

と言う妄想がありますが、作者の生産能力が低いため、そこまでお話が広げられるか解りません(笑)


完結させる自信が無いので、新たに二章を起こすのではなく、あとがきに第二章の一話目を載せてみます。

この続きは一体いつになることやら……


皆様からの応援が多ければ、作者のモチベにもつながるので、もしもっと読んでみたいなとかありましたらコメントいただけると励みになります。(もしかしたら二章の完成が早まるかも?)


最後になりますが「にゃんと鳴く虎」に長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。

また機会がありましたらどこかでお会いしましょう。

──あの子を必要とする人間がいる、という事をあの子に教えてあげてください。


ラッドの言葉が再び脳裏を過ぎった。

ひょっとするとラッドは何処かでこういう日が来るのを待っていたのかも知れない。

「僕、一緒に行くからね!!」

……意志は固いようだ。言いくるめることは恐らく無理だろうな。

ぴしゃりと言い放つと、足早に入り口から私とアリアの間に移動し、桶の湯を頭からざぶざぶとかぶる。

勢いよく跳ねた水飛沫が私の髭や鬣を濡らす。

少年よ……私が濡れる事が嫌いなことを知っていて、わざとやっていないか?

ひとしきり湯をかぶり終えたキセノは、おもむろに立ち上がると呆気に取られているアリアに向かって口を開いた。

「絶対だからね!」

有無を言わさず、それだけ言い切るとかける言葉の見つからない私と呆然とするアリアを残し、風呂場を出て行く。

扉が閉まり、すっかりキセノの姿が見えなくなってからずぶ濡れの私を見て、アリアは口を開いた。

「ガルに扱いきれるかしら……」

……仕方がない。自分で蒔いた種だ。


「ねぇ……ガル?」

すっかり夜のしじまに包まれたサラマンドラピーク。

部屋に唯一のベッドに横たわった私の隣で一糸纏わず、ふかふかの布団に首までくるまったアリアが声を上げた。

「……?」

私は寝返りを打ち、彼女に向き直ると彼女の顔を見下ろした。

巨躯である私と小柄なアリアが同じベッドで眠ると、どうしても彼女の顔は私の胸辺りに来るのだ。

「……本当にキセノ君を連れて行くの?」

私の逞しい胸板を撫でながらアリアが静かに問う。

「アリアは……不満か?」

私はアリアを抱きしめ、彼女の頭を大きな掌で撫でる。

「出来れば、キセノ君を私の戦いに巻き込みたく無いから……本当はガルだって私の戦いには巻き込みたくは――」

アリアの言葉を遮ったのは私の唇。アリアに覆い被さる様に体の位置を変え、しばらく無言で獣の様に口づけを交わす。

「……ガル」

唇が離れると彼女は不満げな声を上げた。

どうやら話の途中で唇を奪われた事にちょっと怒っているようだ。

「聞きたくない言葉だったから……黙らせた」

「もうッ!真剣に話してるのに――」

「私だって真剣だ。アリア――私にはお前が必要だ……」

果たして彼女には私の気持ちは伝わっているのだろうか?

こういう時、自分の気持ちを繊細に言い表せない獣人が恨めしい。

恨めしいが、無いものをねだっても仕方がない。私はまっすぐに彼女の目を見つめ、続ける。

「あの日。お前を拾った日から覚悟は決めていた……全身全霊をかけてお前を守る――と」

私に出来ることは全てやる。

後悔だけはしないように。

彼女を守るために利用できる物は全て利用する。得られる限りの力を得る。

「キセノの力もいずれ必要になる……」

そして――恐らくキセノにはこの戦いの行く末を見届ける義務があるのだ……。

獣の勘が私にそう告げる。

「だから、お前は私や――キセノにもっと甘えてもかまわない」

私は彼女を優しく抱きしめた。

「ありがとう……」

小さく呟いた彼女の声は本当に弱々しい。

「今日は本当に疲れたね……ガルはまだまだ元気みたいだけど……」

そう言って少し照れくさそうに苦笑いを浮かべるアリア。

子猫の様にしなやかな彼女の温もりを体の下に感じる。

こうやって彼女と肌を重ねるのも随分久しぶりだ。

「ガル……怖い顔になってる……」

月明かりに照らされたアリアが、恥ずかしそうに囁く。

「獣の性が疼くからな……」

彼女の頬をネコ科特有のザラザラとした舌で舐める。

風呂場では彼女に主導権を奪われたが、柔らかく乾いたシーツの上では話が別だ。

「怖いよ……」

私にどうしろと言うのだ?

そんな私の困惑をくみ取ったのか、アリアが口を開く。

「そんな顔して……本当は解ってるくせに……」

……背に腹は代えられない。

「にゃ~ん」

いささか迫力に欠ける私の雄叫びで、深夜の戦いの火蓋は切って落とされた。







――To be Continued


竜を狩る獣 1


深い深い闇。見る者の心を悠久の牢獄へ突き落とすかのような、暗い闇が広がっていた。

微かな希望を胸に大空を見上げるも、優しく辺りを照らし出す月の姿は見えない。

月明かりすら無い夜――。新月。

古に伝わる伝承では、神に嘲られた狼がその力を見せつけるために空に浮かぶ月を呑み込んだとされている。

月を呑み込んだ狼が一体どれほどの力を持つかは知らないが、これから戦うべき敵もかなり手強いと聞いている――。

「ビビってんじゃねぇぞ?」

頭上から声が降り注ぎ、言葉と同時に肩に大きな掌が乗せられた。

突然の事に僕はほんの一瞬身を強ばらせる。

「べ……別にビビってなんか――」

後ろを振り向き上を見上げる。

深い闇の為、視界はかなり狭いが、それでも人の悪そうな笑みを浮かべたトライデンが僕を見下ろしているのが見て取れる。


――僕と同じく虎獣人のトライデン。


彼の場合は僕と違って薄い黄色に漆黒の縦縞――。

深い闇に包まれた今は、黒の縦縞が溶け込み黄色いラインだけが浮かび上がって見える。

「へぇ、そうかい……」

トライデンは僕に向かってわざとおどけたような顔をしてみせる。

「まぁ、子猫ちゃんは大人の後ろに下がってな――」

そう言うとトライデンは僕の首根っこを掴むと片手で軽々と持ち上げた。

「うわぁ!?」

突然のことに目を白黒させる。

視界が大きく揺れ、世界が傾く。もちろん深い闇の中、それほど視界が効くわけでないが――。

「……無駄に騒ぐな」

静かな叱責はトライデンのさらに後ろから聞こえた。

濃い闇に包まれた世界では存在そのものを認知する事さえ困難だ。

「そう怒るなよ、ドラグレン……」

トライデンが僕を下ろし、後ろを振り返る。心なしかトライデンの耳がしょんぼりと垂れている様に見えるのは僕の気のせいだろうか?

僕の位置からではトライデンの後ろは完全に闇に紛れて定かではない。

「俺たちは既に奴の縄張りに潜入している――月すら見えない闇が何よりの証拠だ」

深い闇は彼の姿を覆い隠すための目隠し。その途方もない力が露呈するのを防ぐ。

彼の征くところ常に深い闇が付きまとう。

「あるいは――この闇そのものが既に奴の一部……」

闇に紛れたドラグレンが静かに語る。

「だが――闇は敵にも味方にもなる。闇に紛れるのは奴だけの特権と言うわけではない」

いつの間にか音もなく僕の前に立っていたドラグレンは静かに僕の頭に手を乗せる。

見上げた僕の視界に彼の白と黒の美しい縞模様が飛び込んでくる。

僕と同じ白と黒。白雪のように何処までも純白に澄んだ美しい白と夜陰よりも深い黒のコントラスト。

「闇を味方に付けるも敵に回すもお前次第――足手まといになるなよ?」

誤魔化すように乱暴に撫でられる頭。


――その手は微かに震えていた。


気を引き締めなければ。

今までの狩りとは獲物の格が違うのだ。

闇の王と呼ばれし竜。

それが――今回の獲物。

乾いた唇を舌で湿らせる。

「極度の緊張は失敗を招く」

そんな僕の様子を見ていた隻眼の虎――ゼルドランが声をかけてくる。

「本来の力を出し切れずに敗れる事程悔しい事は無いぞ?」

多くを語らない彼の素性は殆ど解っていない。

彼の言葉に重みがあるのはひょっとするとその言葉に彼が隻眼となった背景が隠れているから……だろうか?

「あれは――」

そう言って、恐らくドラグレンがいる方向を指さし――

「――あれで一応俺たち天虎団のボスだからな……」

そして言葉を切るゼルドラン。

多くを語らない彼の言葉は子供の僕には難しすぎる。

「……?」

助けを求めトライデンに顔を向ける。

「解らなかったのか?」

小声で助け船を出すトライデン。

「うん?」

「つまりあれだ……俺たちのボスは俺たち全員の命を預かっている」

依頼を引き受け、獲物を狩り、報酬を得る。

怪しい依頼、信用の於けない筋からの依頼もある。

獲物だって自分たちの力量で倒しきれない可能性もある。

仮に倒せたとしても苦労に見合うとは限らない。

「つまり、俺やお前は自分一人分の命の重みだけ考えて行動すればいいが――ドラグレンは自分の命を含めて6人分背負ってるって事だな。単純計算で俺やお前の6倍、慎重にならざるを得ないわけだ」

自分の判断ミス一つで仲間を死に追いやるかも知れない。

常にそんな極限の選択を迫られいているドラグレン。

彼の手の震えは敵と戦う事への恐怖ではなく――仲間を失う恐怖の表れだったのだろう。

重い沈黙が辺りを包む。

先程までの軽々しい喧騒がまるで嘘のように夜のしじまが辺りを覆い尽くす。

その沈黙は暗い闇と重なり、より一層重苦しく周りを包み込む。

虫の音すら聞こえない闇。

当然だ。この闇は奴によって作られた闇なのだから――。

この闇の中に自ら足を踏み入れる愚か者など、腕に自信のある虎から小さく震えるだけの虫の一匹に至るまでこの世は存在しない。

それほどまでに完成された闇。

聞こえるのは自らの荒い吐息と足音のみ。

沈黙に耐えかねた僕は俯いていた顔を上げ、ドラグレンのいる方を見る。

何も見えない。

次いでトライデンのいる方を見る。

やはり何も見えない。

この世界に、ただ一人だけでいるような感覚に襲われる。

暗く孤独な世界は年端もいかぬ子供の心など手玉にとるように簡単に狂わせてしまうだろう。

――エレン。

僕は突然、不安に駆り立てられた。

そう言えば先程から彼女の声が全く聞こえない。

僕より更に2歳程幼い彼女。この暗闇で心が参っているのではないだろうか。

彼女は隊列のどの辺りにいた?僕より前だったか……?

急に立ち止まり――立ち止まった僕に気づかず、後ろのトライデンが僕にぶつかる。

「ん?どうした?」

不審そうに上から僕を覗き込むトライデン。

「エレンは……?」

我ながら弱々しい声で尋ねる僕をトライデンはどう思ったのだろうか?

「エレン……?前にいるんじゃねぇの?俺の後にいるドラグレンが殿(しんがり)なんだから」

トライデンの言葉を頼りに隊列を思い出す。

僕の後ろにはトライデン、その後ろはリーダーのドラグレン。

僕の前にはゼルドラン、先頭は術者のグライゼンだ。となると、エレンはゼルドランとグライゼンの間。

前から2番目の位置にいるはず。

慌てて前のゼルドランを抜き、そこにいるはずの彼女に静かに声をかける。

「エレン……?」

「今にも泣き出しそうな声でどうしたの?怖くなった?」

微かに零れる苦笑と共に、彼女は僕の様子をそう評して見せた。

きっと彼女がこの暗闇の中、不安を感じているに違いない……そう思っていたが、不安を感じていたのは他でもない僕の方だったのだ。

深い暗闇の中、声と匂いを頼りに彼女の近くに寄る。

この世の全てを見通すかのような鋭い目つき。黄色地に黒の斑点。僕達と比べて小さな顔と体。

ほっそりとした四肢は女性らしさよりも幼さが先立っている。

天虎団の中のにあって最も幼く、唯一の豹獣人であり、紅一点。

それが彼女エレン。

「べ……別に不安なんか……」

「そう?なら別にいいんだけど……みんなの迷惑にだけはならないようにね」

僕より幼い彼女はまるで小さい子供を相手するかのようにぴしゃりと言い放つと、呆然と佇む僕を置いて行ってしまう。

「フられたな」

いつの間に聞いていたのか、トライデンが真後ろからすっかり固まった僕に声をかけてきた。

「お姫様は弱い雄には興味無いんだとよ」

わずかに笑いを零しつつ、僕の背中を叩く。

「僕は弱くないぞ!?」

売り言葉に買い言葉。咄嗟にトライデンに言い返す――。

「その言葉、頼りにしているぞ」

隊列を乱した僕とトライデンを追い抜いたゼルドランが去り際に僕の肩を叩く。

たった6人。

僕達は竜を倒す為にここに来た。

頼れる者は他にいない。

たった6人だけが、お互いを救える力となる。

今更ながらに、信頼の重みを感じた。

「お姫様にいいとこ見せるチャンスだからな……ま、せいぜい頑張れよ」

相変わらずトライデンは軽口を叩く。

彼だってこれから戦う相手がどれほど危険な奴か解っているはずだ。

いつも明るく脳天気に振る舞う彼は怖いと感じたことは無いのだろうか?

勿論、直接は聞かない。

――トライデンは恐怖を感じたこと無いの?

そんな事聞こうものならまた馬鹿にされるに決まってる。

「……あるに決まってんだろ」

ぼそりとトライデンが呟き、僕を置いて行ってしまう。

「ったく、考えてること丸分かりだっつーの」

それでも。いつもらしく振る舞う彼は本当に強き者なのだと思う。


再び静寂が訪れる。誰も一言も喋らない。

足音も立てず。静かな進行を続ける。

闇が一層深みを増す。

いよいよ彼の領域が広がっているのだ。

――と、先頭を歩くグライゼンの歩みが止まった。

縦一列だった隊が自然と横一列に並ぶ形となる。

「……近いですね」

優秀な術者である彼の手にかかれば暗闇など有って無いに等しい。

「どこだ?」

最後に追いついたドラグレンがグライゼンの肩に手をかける。

「右手の奥……大股で走って30歩程の距離です」

からからに干からびた喉がごくりと音を立てる。

「奇襲をかけるのは無理か」

トライデンが静に呟く。

「既に此方の様子をうかがっています」

「……」

エレンは口を真一文字に結んでいる。

僕はそっと彼女の手を握る。

彼女は一瞬、驚いたような表情を作り、そのまま僕の手を握り替えしてきた。

――その手は微かに震えていた。

勇猛果敢な虎と違い、豹はそれほど争いを好む種族ではない。

虎である僕達がこれほどまでに緊張しているのだ。強く振る舞ってはいるが、彼女の心が平常で有るはずがないのだ。

「……名前ぐらい聞いておいてやろう」

尊大な声が投げかけられた。

竜の姿は未だ見えないが、間違い無く竜は此方を見ている。緊張感が最高潮まで高まる。

「天虎団」

ドラグレンが短く応える。

「最期に言い残すことは自分たちの名前だけで十分か?」

ずるり、と何か巨大なモノを引っ張る音がする。

長々と横たえていた体を持ち上げたのだろうか?

「冥竜帝ウェルザス!貴様を倒して世界を守る!!」

牙を剥き不敵に笑うドラグレンの横顔が怖くもあり、頼もしく思えた。

「薄汚いネコの分際で……身の程をわきまえるがいい!」

竜が荒々しく吼える。

「飛べ!」

同時にゼルドランが叫ぶ。

ゼルドランの声に押されるように6人が竜を中心に広がる。

――刹那、直前まで6人が立っていた辺りを仄暗い悪しき力の本流とも取れる"何か"が勢いよく通り抜ける。

"何"が通り過ぎたか定かではないが、恐らく禍々しき冥竜の力の奔流だろう。

「遥かなる深淵まで響き渡る汝の名よ──罪深き現世から汝の名を呼ぶことを許し賜え──我が求めるは──汝の光、ホーリー!」

グライゼンが祝詞を紡ぐ。流石に早い。

グライゼンの呼びかけに呼応するかのように突如として現れた光が深い闇を切り裂く――。

光の向こう側に現れたのは漆黒の竜。

自身を覆う漆黒のベールを剥がされた闇の王は怒りに震え、その形相はこの世の全てを恨む為に生まれて来たかの如く醜く歪んでいる。

「グライゼン!ホーリーを召喚したままフェニックスとスレイプニルを――ゼルドランはフェンリルを!」

「了解」

静かに押し殺した声でゼルドランが応える。

「紅蓮の業火に包まれし者──、荒ぶる力を具現し賜え──」

グライゼンは早くもフェニックスの詠唱に移っている。

同時に3匹の精霊を呼び出し使役するなど、本当に一握りの優秀な術者しか為し得ない偉業なのだが、グライゼンはそれを事も無げにこなしている。

「ドラグレン――」

「解ってる。レヴィアサンは任せとけ」

すぐ隣で落ち着き払った声が聞こえた。

ホーリーの光がウェルザスの影になり、よく見えないが、どうやら背中に背負った巨大な戦斧を両手に構えているようだ。

「エレンは落ち着いてヨルムンガルドを!」

「……」

彼女からの答えは無いが、既に呼び出す為のトランス状態に入っているようだ。

「いつも通りに集中すればできる。ガルーダは任せた。落ち着いてやれよ、ガルディオン!」


――ガルディオン。


「ガルディオン……ガルってば!!!」

蒸し蒸しとした熱気がぬるぬると体に纏わり付く。

口の中が相変わらずジャリジャリと砂っぽい。

覚醒した瞬間に自分が砂漠の街サンドリオにいることをまざまざと思い起こさせる。

思いの外熟睡していたようだ。

うっすらと目を開けるとアリアが上から私を見下ろしているのが見えた。

「大丈夫?なんだか苦しそうだったけど……?」

「あぁ……ちょっと昔の夢を見ていたようだ」

そう答えつつ、不安げな彼女の腰にいつものように手を回す。

そうやってベッドの中に引き込もうとした瞬間――。

「……ガル?」

私の手をぴしゃりと叩き、アリアが半眼で私の名を呼ぶ。

「ん?」

「キセノ君が見てる」

アリアの言葉ですぐ隣を向くとキセノが目をキラキラさせて此方を見つめているのが目に入った。

「……」

こう言うとき人間はどんな顔をして取り繕うのだろうか?

「虎さん……?」

少年よ、頼むからその屈託のない瞳で私を見るのをやめてくれないか。

「お姉ちゃんとプロレスごっこしてるの?」

今からアリアをベッドに引き込み朝から獣のようにまぐわろうとしていた。

……などと言えるはずが無いではないか。

「そうだな。旅をするには体力が必要だから、朝からプロレスごっこで体力を付けているんだ」

「……」

アリアの視線が痛い。

繊細な人間の心を持たない私でもこの言い訳が苦しいことくらい理解している。

だから、お願いだからそんな顔で私を見るな、アリアよ。

――と。

「……ふふっ」

アリアが笑った。

「さぁ、今日も暑い一日が始まるわよ」

横たえた体を起こす私を見ながらアリアが続ける

「日が登りきる前に急いで支度をしましょう」




――竜を狩る獣 To be Continued

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