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にゃんと鳴く虎  作者: とび
16/24

にゃんと鳴く虎 16

「おほん!」

私とアリアのやり取りの全てを見ていたサラマンドラの咳払いが割って入った。

大きな虎獣人が線の細い人間の女性に諌められている姿をみてどう思ったのだろうか?

「汝たちの力、しかと確かめさせてもらった……。

古き契約により汝らに力を貸す事を此処に誓おう──」

これで当初の目的であった精霊との契約は終了である。

「ところで……あの……」

アリアが遠慮がちに声をかける。

「ん?」

「私たち、ドラゴンを探しているのですが……ご存知ですか?」

「このサラマンドラピークには腕の立つファイアドラゴンが三匹ばかりいるが……」

……この際、腕はなるべく立たないほうがいいのだが。

困惑した表情を浮かべたアリアが助けを求める視線を投げかけてきた。

「なるべくなら話し合いが出来る者がいいのだが……」

「ふむ……ならばグレンがいいだろう。まだまだ若いドラゴンだが、それゆえ、古の考え方に囚われずに人とも接しやすいだろう……」

アリアが一歩前に出る。

「それで、そのグレン……さんは今どこに……?」

サラマンドラが微かに笑った──ように見えた。

「わしらの戦いが気になって見に来たのか、お前さん達のすぐ後ろにおるじゃろ」

──!?

私とアリアは同時に、音が聞こえそうなほど勢いよく振り返る。

アリアは術杖を構え私は背の大剣を抜刀し──。そこで動きが止まる。

振り返った我々の目に、真っ赤な鱗が飛び込んできた。

──近い。

もしもドラゴンが本気で我々を消しに来ていたのなら、この瞬間に決着がついていただろう。

決して油断していたわけではない。

「気配を断って近づいた非礼には詫びるから、その物騒なエモノを仕舞ってもらえるかな?」

ファイアドラゴン──グレンがドラゴンらしからぬ軽い……実に軽々しい口調で口を開く。

グレンの言葉を聞き、アリアが心配そうに私の顔を見つめる。

従うしか有るまい。私は肩を竦めると、無言で剣を鞘に仕舞う。

アリアも私に倣って構えていた杖を降ろす。

「ありがとう。武器を構えることより、下げることの方が勇気が必要だと言うのに。

君達はなんの躊躇も無く下げるとは、勇敢なんだね」

褒められているのだろうか……?どうにも上から見下ろされている感がぬぐえない。

私でも釈然としないものを感じているのだから獣人より繊細な心を持つアリアなら尚更だろう。

「……ところで僕の事を噂していたみたいだけど……僕に何か用かな?」

「実は──」

アリアがキセノに纏わる顛末を事細かに説明する。

口数の少ない獣人の説明などとは比べ物にならないほどわかりやすく、キセノを助けたいと言う感情が籠もっている。

私ではあんなふうにうまく説明することは出来ない。

……出発する時はアリアを置いてくればよかったか……などと考えていたが、アリアがいなければ間違いなく途方に暮れていただろう。

「いいよ。僕の鱗なんかでよければ……1枚と言わず2枚と言わず。持って行っていいよ。

まぁ、全部持っていかれたり、逆鱗を抜かれると困るんだけどね」

全てを聞き終えたグレンは実に拍子抜けするほどあっさりとそう言った。

「……ゲキリン……ですか……?」

聞きなれぬ言葉に戸惑うアリア。

「あぁ。逆鱗ってのはね、顎のちょうどこの辺──」

そういいながらグレンが自ら首をそらし──首から腹にかけて生えている乳白色の鱗がよく見える──顎の下辺りを指差す。

「──に体の流れとは逆方向に沿って生えてる鱗の事」

「逆鱗を触られた竜は激しい痛みに襲われ、その痛みによって見境無く暴れ、触った者を殺してしまうと言われている」

私の呟きに大してグレンは爆笑する。

「あぁ、それは格好つけた竜が言った言い訳だね、人間達の間ではそれが定説になってるらしいけど……」

ひとしきり笑ったグレンは真顔になると言葉を続ける。

「本当は逆鱗を触られると竜は触られた者に恋をするのさ。

でも誇り高き竜が──そうだな、触ったのが仮に人間だとしたら──人間……つまり別の種族に恋をする事になる。

そんな事、他の竜の一族にバレたら、それこそお笑いモノにされた挙句、一族を追われるのがオチさ。

だから、触った者を消す──」

「恋した相手を手にかけるなんて……竜も、殺される人もかわいそう……」

アリアがぽつりと呟く。

「ま、僕は相手を殺したりはしないけど、そうなると君に恋をすることになる……でもそれだと君の隣の殿方が黙っちゃいないだろ?」

「……」

ドラゴンとはもっと寡黙で有るべきだと思うのは私だけであろうか?

「話が随分逸れてしまったけど、僕の鱗でよければ持って行って、構わないから。

……ただし、竜の鱗を与えた事によって少年──キセノ君だっけ?

彼に何が起きても僕は責任取らないからね」

「それはどういう……」

怪訝そうな顔で竜を見上げるアリア。

「教えてあげたいのは山々なんだけど、竜には色々と制約があってね……

種として繁栄の危機を招くような情報はあまり口外できない決まりなのさ」

まぁ、確かに鱗が与えられない仔竜は死ぬと言う事実だけでも強大な力を持った竜からすれば唯一無二と言っていいほどの弱点を晒していることになる。

これ以上彼が竜の種としての弱みを暴露することに抵抗を感じていたとしても不思議ではない。

「それじゃ、お言葉に甘えて……」

そういうとアリアはグレンの前脚の鱗を掴み──。

「ガル……手伝って」

まぁ、ドラゴンの鱗をか弱い人間の雌が素手で取ろうと考える方が無謀だと思うが……。

「失礼する」

そういうと私は可能な限り素早く抜刀し、竜に向かって一閃させた。──俗に言う居合い抜きの要領だ。

硬質な音を立てて、竜の鱗が一枚、宙を舞う。

「へぇ……正直、君達を見くびっていたよ。──僕に傷一つつけられないんじゃないか、って……ね。

機会があれば一度、君達と手合わせ願いたいな」

グレンから笑みが消えている。ここにきてドラゴンの本性が垣間見えたか。

「せっかくの誘いだが遠慮しておく。己の力は己が一番わかっているつもりだ。

ドラゴンを討てる等と自惚れるつもりは無い」

地面に落ちた竜の鱗をアリアに押し付けながらドラゴンを一瞥する。

「わぁ……凄く軽い……」

ドラゴンの鱗を受け取ったアリアが驚嘆の声を上げる。竜の鱗は羽根の様に軽く、ダイヤモンドのように堅い──。

そのため、実力のある冒険者は好んでドラゴンの鱗を用いた防具を装備する。しかし希少価値が高い品故、市場に出回る事は稀有であり、例えアリアが鱗を知らなかったとしても仕方の無いことだ。

「先を急ぐのでこれにて失礼する」

そういうとグレンに背を向けて元来た道へと引き返す。

一刻も早くグレンの前から去るべきだ。──本能がそう告げる。

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