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にゃんと鳴く虎  作者: とび
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にゃんと鳴く虎 15

隠れていた岩陰から飛び出すと精霊に向かって一気に詰め寄る。

「大海の中の小さな一滴──」

走りながら矢継ぎ早に呪文を唱え、同時に剣を振りかぶる。

「火炎球!」

飛び出した私を牽制するために今度は火の玉が襲ってくる。

使ってくる魔法は当然炎属性。

「──甘露の恵み、」

だが、慌てず呪文を続ける。

サラマンドラの魔法で生み出された火の玉はもう目の前──。

「ウォーティー!」

言葉と同時に振り下ろした私の剣に水の加護が宿り、飛んできた火炎球を真っ二つに切り裂く。

炎と水が打ち消しあい、お互いの魔法効力がかき消され──水蒸気を撒き散らしながら消滅した。

予定では火炎球を切った勢いのままサラマンドラまで攻撃するつもりだったが……ウォーティーの力ではこれが限界か。

もう一段上の水の精霊──雨虎なら今の一撃で片がついたのだろうが……。

「火炎柱!」

──サラマンドラの追撃。

敵を目の前に悠長に考え事をするとは……あの頃の私からは考えられない失態だな……。

私を取り囲むように四方から炎の壁が押し寄せる。

急速に迫り来る炎の壁を前に、防御呪文を唱える余裕は──無い。

私はただ耐える覚悟を決めると目を瞑り──。

「新緑に輝く谷を翔ける一里の風を此処に──吹き飛ばせ、ウインディー!」

遠くから聞こえた声は力強い旋風を伴って足元から空へと駆け抜ける──!

目を開けると炎の壁が消滅していた。

わずかに後ろを振り返るとアリアが術杖を構えて睨んでいた。

「ガル!相手が小物だからって、油断しすぎ!」

────。

あの時の高揚が甦る。

そうだ。あの時もお互いがお互いを助け合った。

目の前に立ちはだかる敵はあの頃に比べると確かに小物だ。

……だが。

相手にとって不足は無い。

「アリア、援護しろ!」

不適に笑うと短く叫び、サラマンドラに向かって再び走り出す。

久しく忘れていた、全身の毛が逆立つような感覚が体を支配する。

「火炎球!」

その場から一歩も動かない私を見て好機と捉えたのか、サラマンドラが再び火の玉を放つ。

対抗するためにたった一言、力強く叫ぶ。

「ウォーティー!」

召喚詠唱無しの精霊呼び出し。

ひょっとしたらアリアは私が召喚詠唱無しに水精霊を呼び出せる事を知って怒っているかもしれない。

だが、この高揚を抑えることが出来なかった。

半ば強制的に呼び出されたウォーティーがサラマンドラの火炎球とぶつかり、無散する──。

まさか呼び出した火の玉が瞬時にかき消されると思っていなかったのか、サラマンドラの怯みが伝わってくる。

「火炎柱!」

動揺する獲物を前に邪悪な笑みがこぼれる。

「ウォーティー!」

再び名前だけの召喚。

天性の属性でも無い水精霊を立て続けに名前だけで呼び出しているのだ。

機嫌を損ねた水精霊は今日はもう私の呼びかけには応えてくれないかもしれないな──。

呼び出されたウォーティーは始めと同じように剣に薄い膜を張り、水の加護を与える。

立ちはだかる炎の壁に大きく剣を振りかぶり──

──振りかぶった剣は振り下ろさずにそのまま体ごと突っ込む。

……信じているぞ、アリア。

炎の壁の熱風に耐えかねて、チリリと髭が焦げる。

戦闘開始前にアリアより授かった水の加護はまだ有効なようだ。

この加護が無ければ全身の毛が焦げる所だ。

「大海の中の小さな一滴──甘露の恵み、ウォーティー」

静かに。だが力強く背後よりアリアの声が聞こえた。

呼び出されたウォーティーが急速に炎の壁を蹴散らす。

「うおおおおぉぉぉぉ!!」

私は雄叫びを上げながら殆ど消滅しかけた炎の壁を突き抜け、唖然とするサラマンドラに剣を振り下ろした──。

ウォーティーの力を宿した大振りな剣が完全にサラマンドラを捉え、二つに引き裂く──。


「見事だ──汝たちの力確かに見せてもらった……」


元々精霊とは実態があってないような存在だ。

目に見える体が引き裂かれたからといって、その存在自体がどうにかなるわけではない。

事実、サラマンドラは見る見る間に元の大きさまで復活を遂げるが、戦いは既に決している。

「もう!何でそんな無茶するのよ?」

アリアが私の元へと駆け寄ってくる。

……どうやら甚くご立腹のようだ。

「アリアが援護してくれると信じていたからだ」

久しぶりに高ぶった気持ちを早々にしまい込み、私は静かに答える。

「私の術が力負けするかもしれなかったのよ?」

「それも大丈夫だと信じていた」

剣を鞘に戻しつつアリアに向き合う。

「……召喚詠唱無しでウォーティーが使えるなら、自分でやれば良かったのに」

やはり隠していた事を怒っているのか。

力ある術者は精霊への賛歌──召喚詠唱──無しに、その名を呼ぶだけで強制的に呼び出すことができる。

「詠唱無しで三度目を呼び出す自身が無かった」

但し天性の属性でも無い者が立て続けに呼び出す場合はたちまち機嫌を損ねて召喚されなくなるのだ。

「だからって……本当に心配したんだから!」

「すまない……反省している」

私はうなだれアリアの前で反省の念を表す。

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