にゃんと鳴く虎 12
──しかし、成り行きでサラマンドラピークを徹夜の登頂となったわけだが……。
考えてみればアリアは置いてくる方がよかったかもしれない。
体力的にも、依頼の内容的にも旅を始めたばかりの冒険者にはハードすぎる。
そんな私の表情を読み取ったのかアリアはニ、三歩早足で歩くと私の隣に並び、口を開く。
「そんな心配そうな顔しなくても、どうせ目的地は最初からサラマンドラピークなんだし、精霊契約のついでにドラゴン退治が増えるだけでしょ」
……アリアよ、本当に大丈夫か?
簡単にドラゴン退治と言うが……そう簡単に退治できる相手ではない。
それにドラゴンは退治するのではなく、鱗を少し分けてもらうだけでいいのだぞ?
「ドラゴンを先に見つけたのなら鱗の事を話す。ドラゴンより先に精霊が見つかったら精霊と契約し、精霊を使役し、ドラゴンを呼ぶ……でしょ?」
私の心配そうな表情を呼んだのか、アリアが言い直す。
解っているのなら最初からそういえばいいものを……。
隣にいるアリアに顔をやり──。
「……私ね……最初は本当に怖かったの……」
突然足を止めて、静かな口調で呟くアリア。
「──?」
私も彼女にあわせて足を止め、彼女の方をへと振り向く。
丁度月が陰り、深い闇が彼女を包み込んだ。
「四年前のあの日。私は最も信頼していた家臣に裏切られた。
そのときから──私は人間が怖いと感じるようになっていたの……。
表面上はどれだけ親しげに、好意を示していても、その内面までは解らない……」
「……」
あのときのアリアは心を閉ざし、この世の全てを憎んでいた。
「それは四年経って、この町にやってきたときも同じだった──」
──駄目……私やっぱり……
アリアの言葉が脳裏を過ぎる。
「でもね……。キセノ君とガルのやり取りを見てて人間の暖かさを思い出したの……。
確かに人間は自分勝手で傲慢で愚かだわ……だけど、そうじゃない人も沢山いる。
だから、もう一度信じてみようって……そう思わせてくれたキセノ君を助けたいの……。
もちろん熟練の冒険者であるガルから比べたら私なんて足手まといにしかならない事も知ってる……。
でも、だからって待っているだけなんてしたくない……
……ごめんなさい……私が我が儘なばっかりに……」
雲が切れ、翳っていた月が明るさを取り戻す。
月明かりに照らされた彼女は──
──静かに泣いていた。
「……」
「──ガル?」
私は一歩アリアに近寄るとそのまま無言で抱きしめた。
こんな時、人間なら何と声をかけてやるのか?
獣人である私には人間ほど繊細な心は持っていない。
しかし、抱きしめるだけで伝わる愛情が存在するのもアリアとの長い付き合いの中で知っている。
だから。私はただ、無言でアリアをきつく抱きしめた。
「どうしたの、ガル……こんなに強く……苦しいよ……」
……彼女を守ってやる。
全ての災厄からどんなことがあっても守ってみせる。
そう、誓っていたはずだ。
それが、その誓いが。いつの間にか彼女の心の重荷になってしまっていたようだ。
私は……彼女を守っているつもりで、彼女を傷つけていた──。
「大丈夫だ、アリア……お前は足手まといでは無い──アリアは術者としてよく頑張っているし、そして何より私はお前といるだけで幸せだ──」
私に愛と言う言葉を教えてくれたアリア。
好きとは異なる、もっと熱く猛る想い──。
そんなアリアを足手まといだ、などと思うはずが無い。彼女が生きることで私に見せてくれた“何か”の一つ。
それは──愛だった。
「ありがとう……ガル……」
暫くアリアを強く抱きしめていが、キセノの容態は一刻を争う。
渋々アリアから離れると、再び険しい山道を歩き始める。




