もも
お爺さんは光る実を捥ぎ取り、一口嚙る。
「…うまい…何だこれは?」
噛んだ瞬間に極上の香りが広がり、その美味さは想像の遥か上をいった。
すると心臓の鼓動が早くなり、浮き出た血管が微かに光り始めた。
体がブルブルっと震え始めたかと思うと、震えは次第に収まり、腰痛や肩の痛みが和らいだ。
めっきり悪くなった視力も徐々にハッキリと見える様になった。
「こりゃ…凄い…婆さんにも食わせてやろう。」
お爺さんは来た道を駆け足で戻りお婆さんに実を見せた。
「わぁ!何ですかそれは?」
「桃みたいに甘い実だ!凄いぞ!見ろ体の痛みが無くなった!」
お爺さんははぴょんぴょんと跳ねた。
「あらまぁ!」
二人は仲良く光る実を食べた。
お爺さんは村の頼まれ事や光を纏った子供の事を話した。
そして寝床に着いたお爺さんは思った。
「もしかしたら、村人たちの力になれるかもしれない。」
翌朝、法眼は目を覚ますと体の異変に気づいた。
筋骨隆々に若返っていたのだ、顔をペタペタと触るとシワ一つ無い。
股間に違和感を感じ、触ると顔が赤くなった。
隣を見ると、初も若返っていた。
法眼は見惚れて思った。
「出会った頃の初だ…。」
すると初が目を覚まし法眼の様子に驚き腰を抜かした。
「おっ…おま…おまえさん…?何事ですか?」
若返った二人は大喜びだ。
法眼は庭を飛び跳ね斧を振り回し、初は洗濯桶をクルクルと指先で回している。
初が法眼に掴み掛かり、二人は組み合いを初めた。
「転けた方が洗濯当番です!」
「ぐっ…くそっ!負けるか!」
二人は草花の生い茂る、坂に倒れ込む。
「ハァ、ハァ。」
「ハァ、ハァ。」
二人の吐く白い息は遠くへ流れてゆく。
法眼がムクッと起き上がる。
「これなら村を守れるかもしれない。この体ならきっと人の役に立てるはずだ。」
「でも、村の人たちは信じてくれるでしょうか?実を食べて若返ったなんて。」
「それもそうだな…じゃあ、村人にあの実を食べてもらおう。」
二人は、実の成る木へ向かったがそこは雑草が生い茂るだけだった。
「⁉︎…そんな馬鹿な!」
「本当にここに有ったの?」
法眼は昨夜見かけた小さな子供を思い出していた。
このままだと、老夫婦を殺した若い夫婦だと思われる。
それはまずいと思い、別の山へと移り住む事にした。
夫婦は太郎の墓に「また来るから」と別れを告げ荷物を背負いその場を後にした。
暫くすると、二人の間に玉のような赤ん坊が生まれた。
子供の名前は光る実から取って「桃」と名付けられた。
桃は二人の愛に包まれすくすくと育った。
だが…桃は万人とは異なる、とある特徴を持っていた。
二人はどうして良いものかとほとほと困り果て、山で好きに遊ばせる事はあっても
麓の村へは連れて降りる事は無かった…。