4.買い物に行きました
朝食を終え、出掛ける準備をする。
これが貴族生活最後のお出掛けになるかもしれない。
エメルダは、殿下と釣り合うようにと精一杯おめかししてくれる。
…でもね、エメルダ…殿下の心は着飾っても手遅れなのよ?だからね、少しはね、
「…くっ…ちょっと手加減しっ…うぐっ!?」
「駄目です。」
無情な返事で、コルセットが締められていく。
「鬼!悪魔!!鬼畜!!!」
「はいはい、まだ文句が言えるほど元気そうですね。もう少し締めても、問題なさそうですね。」
「大有りよ!」
淡々と、きつく締まっていくコルセット。普通の体型から、何処まで細くするの!?泣きたい、苦しい、現代的じゃない。
終わりましたよと言う声に、溜息を吐く。
「殿下がお待ちなので、これで諦めます。卒業パーティを楽しみにして下さい。」
えっ、これまだ締めれるの!?真っ2つに捻じ切る気なの??おめでとう!パーティ回避の目的が1つ増えたよちくせう!!
支度整い、玄関へ行く。
王家の家紋が入った、よく言えば豪華、悪く言えば無駄に派手で目立つ馬車が1台と殿下が待っていた。
「お待たせ致しました。」
ドレスの裾をたくし上げ、深く頭を下げる。
「支度に時間が掛かったね。」
殿下の言葉にピキッとくる。
「お言葉ですが、あらかじめご予定を伝えていただければ、お待たせする必要もありませんでしたよ?」
急に言ってくる礼儀がなってない自分の責任だろ?と示唆する。はははと言う軽快な笑い声で顔を上げる。
「そうだね、僕の責任だ。今日は待ちたい気分だったから丁度いいよ。」
でっ…出た!爽やかにこやか王子スマイル!!まっ…眩しいわ…。
待ちたい気分…ねぇ…。断罪まで時間もないし、着飾る令嬢最後の時間を無駄に過ごせってこと?腹黒殿下よ、貴方の心はお見通しです。
殿下のエスコートを受けながら、馬車に乗るった。
景色が、ゆっくりと変わっていく。
街並みを眺めながら、煉瓦造りの道を快適に進んでいく。
「久々だね。」
揺れる馬車、向かい側から殿下が語る。
久々と言う言葉に、一瞬顔を歪める。
「久々…会う事でしょうか?それとも出掛けた事でしょうか?ゆっくり話をする事でしょうか?」
穏やかに微笑む。
学園で何度か機会はあったはずだ。だが殿下は他の女性にそれらを全て当てていた。つまりこれは嫌味だ。
「それについては」
「ふふっ、テッド殿下もお忙しいですからね。仕方ありませんわ。」
にこやかな笑顔ではあるが、内心は煮えくり返っている。こんなに放って置かれた上に、偽りの罪で裁かれる未来なのだ。多少の嫌味は言いたくなる。
「…ごめんね。」
謝って済むなら家出を計画したりしていない。
「別に、構いませんよ?」
と笑顔を張り付かせる。
煮えくり返っているが、未練はない。殿下に対するアクアだった私の感情は義務で、前世を思い出したの私は推しへの崇拝。元々そこまで恋愛感情はない。ゲームのアクアとは、おそらく恋愛感情の差が違いのだろう。
断罪さえされないのであれば、両手を叩いて感動の物語として受け入れる。
その後は静寂。会話らしい会話もなく、買い物を淡々とこなす。ドレスや化粧品…あぁ、スピネルへのプレゼント選びね。殿下が横にいる手前、堂々と家出の準備ができないのは残念だ。
最後に、宝石屋に入る。卒業パーティに合わせる物を買うのだろう。
「どれがいいと思う?」
どれ…って、それを私に聞く?
「…そうですわね…これはどうですか?」
彼女の落ち着いた黒髪似合うような、緋色の宝石が付いたバレッタを手に取る。
「緋色…。」
「でも黒髪でしょ?」
一瞬頰を染めたが直ぐに殿下が顔を歪める。赤系はダメでしたか。
「…ダイヤの方が映える…いえ、パールで大人の雰囲気を…落ち着いたエメラルドで整えて」
「君はバレッタが気に入ったのか?」
「ええ。これなら普段使いできるでしょ?彼女、飾ったものより、使えるものの方が好むわ。」
「…君は使ってくれる?」
「私?ええ、使うわよ。」
これからは自分で髪を弄るんだから。宝石かガラスかまでは気にしない。実用性第一!
「…じゃあ、そのバレッタを君に。」
「私に?…ああ、今日のお礼ですね。お気遣いありがとうございます。」
ニコニコとプレゼントしてくれる。流石王太子殿下懐が大きい。
そっと、バレッタを髪につけられる。風になびかせていた髪が1つにまとまる。
「勘違いしないで欲しいなぁ。」
背後から耳元で囁かれる声に、身を固める。
本命はスピネル、これはただの餞別…そう言う意味だろう。
「ええ、分かっています。」
短く、にこりと微笑んだ。
テッド「何か噛み合ってない気がする。」
殿下視点とかも書きたいなぁ。