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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【第1章】 お互いの気持ち
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来るまで車で

晴れ晴れとした気分とまではいかないが、少なくとも胸のつかえはとれて、

これからは、また平穏な日々が送れると思っていたのに……。


 あれから電車を乗り継ぎ、やっとの思いで家に着いてポストを見ると、そこには1通の手紙が入っていた。

 住所もなく消印もない。ただ名前だけが記載されている封筒。そう、私の名前だけが。

 少し気味悪く感じながらも、差出人が書いていないかと封筒の裏に目をやる。

 一瞬、背筋がゾクッとして、我が目を疑った。


 『友達』からだ。


 妙にドキドキするのは何故だろう。ときめきとは違う。一種の恐怖感とでもいおうか。


 私が電車で1時間かけて帰るあいだに、彼は車で先回りして家まで来て、手紙をポストに入れたのだろう。

 気づいたのが私でよかった。もし家人が先に目にしていたら、きっと心配をかけただろうから。


 手紙を持って玄関の扉を開ける前に、大きくひと呼吸ついた。



「ただいま!」


 大きな声で、できるだけ元気よく努めた。


「おかえりー」


 母のいつもの優しい声が返ってくる。その声にホッとした。


 いつもと同じようにリビングに顔を出し、しばらく母と雑談をする。

 たわいない話だが、大好きな母の笑顔を見ていると、ほっこりと安心感が全身を包み込む。

 幸せなひととき。


「おなかすいた~」


「もうすぐ夕飯できるわよ」


「ふふふ。いい匂い。バッグ置いてくるね」


 しばらく話してからそう言ってリビングを出る。

 トントントンと勢いよく階段を駆け上がり、私は2階の自室へと向かう。

 


 部屋の灯りをつけバッグを床に置き、ベッドに腰かけた。


 あんな啖呵たんかを切ってまで、私を置き去りにして車で帰って行ったのに、何を今更手紙に書くことがあるのか。普通はあの時点でもう『さよなら』だと思うのだが。

 百歩譲って何か用事でもあるのなら、電話なりメールなりいくらでも方法はあろうに。

 わざわざ手紙を、ましてや自宅のポストに直接入れにくるなんて。恋人からなら嬉しくてときめくであろう行為も、嫌なヤツからならただ鬱陶しいだけだ。もっと言えば気持ち悪い。


 どうしよう。中身を見ないでそのまま捨ててしまおうか。

 名前だけが書かれた封筒を見る。

 嫌だけど、何を書いてあるのか確認しなければ。どうするかはその後で考えよう。


 どきどきしながら恐る恐る封筒を開け、中の手紙を開いた。


『今日のことはもう気にしていない。明日、会社の帰り迎えに行くから。いつもの場所で車で待ってる。来るまで車でずっと待ってる』


 来るまで車で? ここで吹き出してしまったのは不覚だった。ダジャレのつもりではなさそうだけど、ダジャレにしか見えない。恐怖の手紙であるはずなのに、あまりの文章力のなさにあきれる。この手紙をわざわざポストに? 開いた口がふさがらないとはこのことか。

 ダメだ。嫌なヤツからの手紙だからか、ただ滑稽でしかない。


 しかし何という強引さ。私の都合も聞かずに明日の帰りに待ってるだなんて。残業や用事があるかも、とは思わないのだろうか。その上、今日のことはもう気にしていないってどういうこと? 意味が解らない。来るまで車でずっと待ってるって言われても……。ふっ、ダメだ、また笑ってしまう。


 会社の正門を出てしばらく歩いた先で、いつも待ち合わせをしていたのだが、電車で帰るにしてもその道は必ず通る道だ。

 嫌だな、もう会いたくない。手紙に気づかなかったふりをして、他の門から出て違う道から帰ろうか。


 はあーっ。


 もう、ため息しか出ない。


 つい1時間前には、晴れ晴れとした気分……とまではいかないが、少なくとも胸のつかえはとれた。

 と思っていたのに、また憂鬱な時間が始まった。


 これからは、また平穏な日々が送れると思っていたのに……。



お読み下さりありがとうございました。

次話「会議室にて」もよろしくお願いします!

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