友人の悩み事(4)
坂を上って、車は高台の駐車場に止められた。
ここだと車に乗ったまま充分見晴らしの良い景色を堪能できる。
しかし折角ここまで来たのだからと、車を降り辺りを散策してみようと話はまとまった。
眼下には紅や黄に化粧された秋の彩り。
澄みきった高い青に少し冷たい空気。透明な寒さを感じる。
「高台はやっぱ冷えるね」なんて言いながら少し歩いてみた。
少しして浩ちゃんは言いにくそうに顔を赤らめて言う。
「海彩ちゃんにちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「うん。いいよ」
「あー、やっぱ恥ずかしいな」
「なに? 言ってみ。お姉さまが何でも答えてあげるよ」
「あの……さ。俺、付き合ってる彼女がいたんだけど、もうずっと連絡とってなくって」
え?
なんだ、仕事のことかと思えば、悩みってそんなこと?
「それが悩みごと? っていうか、彼女いたんだ」
「うん、まあ」
「なんで連絡とらないの?」
「もう好きじゃないっていうか」
「じゃあ別れれば?」
「言いにくいし、なんとなくそのまま」
どうやらもう数ヶ月、お互い連絡を取り合っていなかった彼女がいたらしい。本人は元カノだと思っているようで。なぜなら、相手からも連絡がこなくなったから、自然消滅したのだと思っていたらしい。
彼女のことは好きだったけど、仕方ないとやっと心の整理をしたところに、彼女から連絡があって、一度会って話がしたいという。
でも、今では彼女のことを前みたいに好きでいられなくなって、もしまだ彼女が恋人のつもりでいるのなら別れたい。……けど言いだせない。
やっとの思いで忘れたのに、そんなことを急に言われてどういうつもりなのか、女性の気持ちが解らないと。
「それで、会うことにしたの?」
「少し考えさせてほしいって言ったんだけど」
「まだ好きなの?」
「いや、今はもうなんとも」
「もう好きじゃないのに、ズルズル引き延ばす方が傷つくよ」
「そうだよな。でも、どう言ったらいいのか」
「他に好きな人でもできた、とか?」
適当に言ったつもりだけど。
「え、なんで解ったの?」
「なになに? 誰かに恋でもした?」
「っていうか、すごく気になる人ができて」
「えー、そうなんだ。彼女かわいそ」
「でも、ホント何ヶ月も連絡取ってなかったから、もう自然消滅のつもりでいたんだけど。俺だってやっとのことで忘れたんだよ。もう前に進もうと思って」
「好きだったんなら連絡すればよかったのに」
「その時はしつこく連絡して嫌われたくなくて」
「好きな人からの連絡は、どんな時でも嬉しいもんだよ。どんなに忙しくても、辛いことがあっても応えたいし、また相手を想って優しい気持ちにもなれるんだから」
ヘンなところでヘンな気を使う浩ちゃん。
男の人ってみんなそうなんだろうか。
私だったらこまめに連絡してほしいな。
一方通行は嫌だもん。
そりゃあ、相手からの連絡が途絶えがちになったら彼女も気を使うよ。
嫌われちゃったんじゃないかって、不安にもなる。
でも、そんなこと言葉にだして聞けないし。
自分ばっか連絡するのにも、だんだん切なさが込み上げてきて辛くなっちゃうんだよね。
「そっかぁ。なんか悪いことしたな」
「あのね。男性の方からなんでもしなきゃだめだよ。ちゃんとリードしなきゃ」
「そうなんだけど」
「たとえ口の立つ女子でも、心は乙女。大事にされて嫌なわけないでしょ?」
「今後の参考にします」
「よろしい。一度ちゃんと話し合った方がいいかもね」
「そうだな。それと……」
え、なに?
まだなにかあるの?
お読み下さりありがとうございました。
次話「友人の悩み事(5)」もよろしくお願いします!




