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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【第1章】 お互いの気持ち
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偶然にもほどがある

 違和感のある『友達』との関係に、終止符ピリオドを打ちたいと思っていたある日……。




 お昼休みにちょっとしたお菓子を買おうと、本社内の売店に行ってみた。売店といっても駅にあるような小さなものではなく、パン、おにぎり、お菓子類、お弁当から飲み物、雑誌、文具に雑貨……。と、店内も広くコンビニ以上の品揃え。そんな売店が全工場にはあり、ここ本社工場には、本社、工場内、別棟の事務棟と、3カ所にある。


 新入社員歓迎ボウリング大会から、そろそろ半月も経とうとしていた5月も下旬。その日は暑かったので、アイスクリームを買うことにした。お目当てのアイスを探し、ケースの中のアイスを取り出そうとしたとき、同じアイスを誰かと同時に掴んだ。


「あ!」


「え!」


 お互いに「すみません」と、アイスから手を離して相手の顔を見上げると。


 あ……。


「おう、奇遇だな」


「ホントに」


「なに、アイス買うの?」


「うん、今日は暑いから」


「奇遇だな」


「同じアイス買おうとするなんてね」


「じゃ、お先にどうぞ」


「ありがとう。じゃあ、またね」


「おう、またな」


 普通な感じの同期くん。新入社員歓迎ボウリング大会で出逢ってから2度目の「偶然にもほどがある」だ。

 

 前回はボウリング大会の翌朝、オフィスから飛び出したところでぶつかって。

 そして今日。

 でもまだ名前は知らない。

 しつこく誘ってくることもないし、あっさりした性格なのかな?

 他の人とはちょっと違う、そんなところに少し好感が持てた。

 


 その日の帰り、3度目の「偶然にもほどがある」がすぐに訪れた。

 急に降り出した雨に、傘を持っていなかった私は、本社1階の出入り口で途方に暮れて激しく落ちてくる雨粒を見つめてたたずんでいた。すぐに止めばいいけど、このまま降り続いたらどうしようかな。傘もささずに走るには雨量が多すぎる。


 これから例の『友達』と帰りにご飯を食べる約束をしている。待ち合わせに遅れてしまう。あまり気が進まない待ち合わせに、憂鬱だな、なんて考えていると……。


 え?


 急に目の前に出された大きな傘。


「傘、ないんでしょ。これ使って」


「いえ、大丈夫ですから」


 そう言って、目の前に出された傘の持ち主の顔を見上げた。


 するとそこには『普通な感じの同期くん』が優しく微笑みながら立っているではないか。

 な、なんということ! 3度目の『偶然にもほどがある』だ。


「遠慮しないで。はい」


 そう言うと『普通な感じの同期くん』は、私に傘を持たせて自分は大雨の中走って行ってしまった。


「あ、あの、待って!」


 私の声が届いたのか、振り向きはしなかったが軽く右手を挙げて走り去って行く彼。


 ああ、あんなに濡れちゃって。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 こういうさりげない優しさって素敵だな、なんて思ったりした。



 さあ、私もこの傘をさして、少し憂鬱な『友達』との食事に行こうか。


 そして……。


 

お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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