逢いたい
軽く夕飯を食べてひと息ついたところで、浩ちゃんからあるお誘いを受けた。
でも、隠しごとをするのも嫌だし、なにもやましいところはないのだから、帰宅後、龍也くんに電話をした。
『久し振り。どう? 調子は』
「うん、調子よくやってる。龍也くんは?」
『仕事の方は大分慣れてきたかな。あと、この辺の地理も解ってきた』
「そう。よかったね。……あの」
『明日、和田と映画に行くんだって?』
「うん。って、え?」
『さっき連絡あったよ。ひとりで行くのもなんだし、海彩ちゃんお借りしますって。楽しんでこいよ』
そうなんだ。浩ちゃん、案外きっちりしてるんだな。よかった。
「龍也くんが相手にしてくれないから、可哀相に思われたのかもね」
ちょっと意地悪が言ってみたくなった。私の悪いところ。
『……ごめん』
……え。
いつもなら笑い飛ばすようなところなのに、そんなに落ち込んだ声を出されると困ってしまう。
顔が見えないっていうことは、こういうことなんだ。
よく考えて言葉にしないと、こちらが意図しない言葉で相手を傷つけたりすることもある。
「そんな、謝らなくていいよ。冗談なんだから。龍也くんはお仕事頑張ってるんだから。ちゃんと解ってるから。……こっちこそごめん」
『3週間』
「え?」
『付き合いだして3ヶ月なのに、逢えなくなってもう3週間も経つんだなと思って』
「そうだね」
『逢いたいよ』
どうしたんだろう。いつもの龍也くんらしくない。なにかあったのだろうか。
仕事も順調そうだし、人間関係も、彼の持ち前の明るさで良好そうだし。
「なんかあった?」
『逢いたいよ』
「どうしたの?」
『海彩ちゃんに逢いたいって言ってんだよ』
「うん」
『海彩ちゃんはどうなの? オレとは逢えなくても平気なの?』
平気なわけがない。でも、こんなに抑えたトーンでこんなことを何度も言うなんて、流石に彼らしくない。
少し心配になってきた。
「逢いたいよ。逢いたいに決まってるじゃん」
『よかった』
「なんかあった?」
『いや、10月に逢えるのを楽しみに仕事頑張るよ』
その後、何度聞いても「何もない」としか答えは返ってこなかった。
凄く気になるけど、彼が話してくれるまで待つほかはないのかな。
10月の連休を楽しみに、私も月末まで仕事を頑張ろう。
なんだか気になるけど……。
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