ほいほい
夜遅く、龍也くんから電話が入った。
『もしもし、海彩ちゃん。連絡遅くなってごめん』
「ううん、龍也くんも疲れたでしょ? ムリしなくていいよ。忘れずに今日中に電話してくれただけで嬉しいよ」
『そう言ってくれると、オレも嬉しいよ。明日は荷物が入るから、片付けでバタバタしそうだしな』
「近かったら手伝いに行けるのにね」
『いや、海彩ちゃんが来たら手より口の方が動いてそうだし』
「え、バレてる」
なんかこうやって笑い合うのっていいな。楽しいひととき。
『来週はこっちでの初出勤だよ。あー、なんか緊張する』
「龍也くんでも緊張するんだぁ」
『どういう意味だよ』
笑いながらそう答える彼。
「そのまんまの意味ですけどぉ」
ちょっと冗談っぽく言ってみた。
『やっぱりさ、最初が肝心だからな。なめられないようにガツンと一発かましてくるよ』
「やっる~。第一印象って大事だよね。今後の仕事に関わってくるし。なめられるとヘンな用事ばっか回ってくる」
『海彩ちゃんも言うねぇ』
「それと、歓迎会やらなんやらで飲み過ぎないように!」
『はい、気を付けます』
「それから、飲み会に誘われても何回かに1回は断ること」
『え、どうして?』
「知ってる? あんまり毎回毎回、誘われる度に参加してる人のこと、陰でなんて言われてるか」
『知らないなぁ』
「ほいほい」
『なんじゃそれ』
「いつでもどこでも誘えば『ほいほい』ついてくるっていう意味だって」
『へぇ、上手いこというなぁ。初めて聞いた』
「男子の陰口の方が陰湿なのかな。ウチの部署にも絶対に断らない人がいるんだけどさ、陰では『人数合わせにほいほい呼ぼうか』とか、『あいつはよっぽどヒマなんだろう。可哀相だから呼んでやろうか』なんて言われてるんだよ」
『そりゃひどいな』
「本人はそんなの知らないから、好かれてて誘われてると思ってる。そんで、そういう悪口は男性同士じゃなく、男性社員がわざわざ女子社員に言いに来るのよ」
『え、それもキツいな』
「でしょ! だからほいほいついて行っちゃだめだよ。何回かに1回は断ってね」
『はいはい』
あー、心配して言ってるのに、話半分に聞いてるな。
「解ってるの?」
『ほいほい』
絶対に人の話聞いてないよね!
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