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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【第1章】 お互いの気持ち
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本題

 妙に緊張しながらも、楽しい時間をお互いに過ごせた。

 食後のコーヒーが運ばれてきて、いよいよ今日の本題だ。


 妙に緊張しながらも、楽しい時間をお互いに過ごした後、食後のコーヒーが運ばれてきた。

 いよいよ今日の本題だ。



 目の前のコーヒーカップを見つめながら少し緊張が走る。お互い何から切り出せばいいのか。2人とも無言のままコーヒーを一口含む。カップをソーサーに置き、どちらともなく声を発した。


「あの……」


 お互いの声が重なり、また口をつぐむ。


 しばらくコーヒーカップを見つめたまま、また沈黙の時間ときが過ぎる。



 意を決した様子で彼が口を開いた。


「オレ、今日正式に転勤が決まった」


「うん」


「今回は大規模な研修という名の転勤で、日本国内に47名。そう、各都道府県に1名ずつ派遣される」


「そっか」



 未来の幹部候補育成か。47名も派遣されても全員が出世できるわけではない。転勤先の上司に絶えず評価されるのだ。適性を見極められ、向いていないと判断されれば1年。もう少し成長を見てみたいと思われれば2年。見込みがあると期待されれば3年間の研修というカタチになる。


 どの段階で本社に戻れるかは、正直行ってみないとわからない、ということらしい。


 やはり今日のあの会議は研修に関するものだったらしい。


「それで……いつから」


「いろいろ準備期間があって、9月からかな」


「あと1ヶ月とちょっとだね」


「そうだね」


 そっか。あと1ヶ月か。

 でも47都道府県っていうことは、場所によっては近くですむ場合もある。自宅から通える場合だって。


「場所はまだ解らないんだ。これからそれぞれの希望を聞いて決めるらしい。まあ、希望に添うことはないだろうけどね」


 そう言って笑みを浮かべた彼の顔は少し寂しげだ。


「あ、でも海外じゃなかったから、それだけでもよしとしなきゃ」


 慰めにもならない言葉でも、明るく振る舞って言いたかった。


「そうだな。国内だったらどんなに離れていたって海彩みいちゃんが近くに感じられるし、会いたくなればいつだって会えるよ」


 そうだ、本当にそうだ。

 日本国内、どんなに離れていてもどんなに忙しくても、会う気になればいつだって会える。


 時間がない、時間がないと人は言うけれど、時間は見つけるものではなくて、作るものだ。

 その気になればいくらだって作れる。時間がないというのは、時間を作らないだけにすぎない。


 彼はいつだって前向きだ。少々のことがあっても決して弱音は吐かない。

 そのくせ私が辛い時、寂しい時なんかはいちいち口には出さなくても、ちゃんと気づいてくれて、そっと優しい言葉をかけてくれる。

 私は彼のそういうところに惹かれたのかもしれない。


 龍也くんはひとりで頑張っちゃうところがある。たまには私にも相談してほしい。弱音だって愚痴だっていくらでも聞くのに。

 これからは自分ひとりで頑張らないで、もっと頼ってほしいと思う。話を聞くぐらいしかできないかもしれないけれど。でも誰かに話すだけで気が晴れることだってあるし、何より気持ちを分かり合うことはできると思う。

 まだ付き合いが浅いからムリなのかな。そう考えるとちょっと寂しい。


 いつかそう言ってみよう。

 ……いつか。


 



「……だよね」


「え」


「あれ、話聞いてなかったの?」


「ううん、そうじゃないけど。もう1回言って」


「オレたちの始まりのころって、偶然が多かったよなぁ」


「ホントそうだよね」


 あの3度の『偶然にもほどがある』のあとも、2度の偶然があった。

 4度目の偶然は……。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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