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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【序章】 それは突然にやってきた。
1/168

それは突然にやってきた。

付き合い始めて1ヶ月。

それは突然にやってきた。


遠距離恋愛の果てに待っているのは……。

 それは突然にやって来た。



「オレ、転勤決まった」


「え」


「オレ、転勤することになった」


 転勤って……。


 周りは一瞬手を止めて私達を見る。

 昼下がりのオフィス、午後からの仕事が始まったばかり。突然私のデスクの前にやってきて、何も気にする様子もなく彼は大きな声で言い放ったのだ。当然みんな席についているので、私たちの会話に聞き耳を立てている。

 勿論私に彼が、しかも社内に付き合っている人がいるなんて誰も知らない。

 皆の視線が痛い。


「ふーん、大変ね」


 わざと平静を装って、そう答えるのが精一杯だった。その返答でようやく彼も気付いたようで、


「う、うん」


 そう言って、彼は多少はひきつりながらも、にっこり微笑んでその場を後にした。


 それと同時に何事もなかったかのように、また慌ただしいオフィスに戻る。


 転勤か……。


 うちの会社はとある自動車メーカー。大きな本社工場の中に本社ビルが建っている。2人は部署こそ違うが同じ本社勤務。彼が国内営業部で私は総務部。

 オフィスは同じフロアーで隣同士だが、どちらも人の出入りが頻繁で、普段なら私達が話していても仕事上の話と、誰も気にする者はいない。だだっ広い空間にひしめき合うデスク。黙々と仕事をこなしている社員。慌ただしく行き来する人々。


『もしかしたら』と彼はチラッとほのめかしてはいたが、まだ確定ではなく僅かな望みを繋いでいたのに、いざ転勤が確定してしまうと頭の中が真っ白になってしまう。


 きっと彼も同じように動揺して、私に一番に知らせに来たに違いない。それなのに私ったらあんな態度をとってしまって……。

 彼に申し訳ない気持ちで一杯になった。

 でも私の彼だとは誰にも悟られてはならない。仕方ない。仕方ない。そう自分に言い聞かせていた。

 もし社内恋愛なんてしてるって解ったら、すぐに噂が広まる。仕事がやりにくくてしょうがない。


 それに誰だって『私、彼いま~す! 社内恋愛です♡』なんていうバカはいない。




 

 転勤するんだ……。


 じわじわと込み上げてくるものがある。


 どうして、どうして彼なの! 鼓動が激しくなりとても仕事どころじゃない。

 それにいつから? 場所は? 聞きたいことは山ほどある。


 まだ付き合い始めて1ヶ月、本当なら一番甘くて楽しい時期。

 昨日は楽しかったデート。今日も帰りに食事の約束をしているが、少し気が重い。


 彼に会えること自体は嬉しい。凄く楽しみ。と同時に転勤すると知った今では、そのデートを素直に楽しめないであろう自分に気づく。


 彼に会えることは嬉しい。話をするだけで楽しい。

 ついさっきまで待ち遠しかったアフターファイブ。


 今は……。


 転勤の内容について詳しく知りたい。でももしも私たちにとってあまり良い知らせではないのなら聞くのが怖い。

 嫌なことは早く済ませろって言うけれど、この件については、私はなるべく先延ばしにしたい。


 そんなことをしたって時間は過ぎてゆくのだし、彼が転勤することに変わりはないのだから、ウダウダ考えていてもしようがないってことは重々承知なのだが。

 今の私にはまだ受け入れがたい事実に、ただただ戸惑うばかり。




 はあ~。と、気がつけばため息ばかりついている。デスクに両肘をつき、重ねた手の甲にあごをのせて想い出してみる。

 そう、あれは3ヶ月前……。



お読み下さりありがとうございました。


次話「出逢い(1)」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
立場上、転勤や異動は承知済みなのですが、いざ辞令が来たと聞くと、知らずに涙がでますよね。でも、がんばってよ!Fight!
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