マイナス1-04
一年後。
枠沢は地球の玄希大学の教授を続けながら
ラーグ星を往復。
さらに自らの研究も
例の洞窟内で続けるという
ハードスケジュールをこなしていた。
リドニテスだから
できた事かもしれない。
そしてラーグ星人による
リドニテス(ルーゼル)研究は
すでに最終段階を
迎えようとしていた。
各国の大学、研究所も多数加わり、
今や枠沢。
いやラーグ星人のイーレスの名は
誰も知らぬ者がいないほど。
イーレスの生い立ちはもとより、
何もかも洗いざらい
マスコミは書き立てていた。
“やはり行方不明者で
しかもこのような研究をしていた者の中から
選んだ人物を使ってよかった。
身よりもない人物を。
そうでなければ-----。
本物のイーレスは-----
数年前に亡くなっているはず。
その顔写真を元に-----。
そして-----。
リドニテスが遂に完成した。
枠沢は希望に-----胸を。
まず-----ボーレムが錠剤状のそれを飲んだ。
数十分後。
リドニテスに。
他の教授たちも。
協力者たちも。
枠沢は飲むふりをした。
枠沢はすでにリドニテスだったのだから
問題はない。
そして全員リドニテスに変身。
彼らは空も飛べる。
巨大化も、武器も。
しかしカテゴリーは“1・+《ワン プラス》程度。
枠沢がその程度に抑えておいたのだ。
まあそれで充分だろう。
しかも亜空間移動はできない。
しかし変身時間も期間も
全く関係ない。
リドニテスのままでいようと
本人が思えばいつまでもというわけだ。
それにリドニテスはモノを食べる必要もない。
リドニテスの完成を知った人々は。
マスコミは。
私もなりたいという者が殺到していた。
テレビカメラの前で。
ボーレムが合図を。
研究員の一人がリドニテスに。
そして巨大化。
空を飛び、腕からは生物レーザー。
BB線も。
「後は-----」ボーレム。
「全人類を」別の教授。
全員希望に燃えている。
しかし枠沢は。
「少し全人類をというのは待った方が」
「どうして。
もうすぐ例の-----DNA注入生物も
完成するんだし」ボーレム
枠沢はこの一年で少し-----。
一時の浮かれ気分もおさまり-----
不安がその胸を去来しつつあった。
「ヒトというのは」
「巨大な力を持つと。
という君の持論かね。
しかし-----。
それはあるかも知れないが、
全人類を一度にルーゼル化するのだし。
心配ないよ。
それに人類はそんなに愚かではないよ」
ボーレムは自信たっぷりに。
「その通りだよ」
他の教授や政府関係者も。
「しかし-----君のこのDNA注入生物というのは
素晴らしい考えだよ。
顕微鏡にしても分子合成装置にしても
大変なものだったが」
「そうだよ。
羽根が生えていて
空を飛んで人に接触し
直接DNAを体内へだからね」
「まあ、蚊のように人を刺さない分。
いや、そんなことはどうでも。
それの人に接触した途端、
そいつは数十に分裂し
さらに別の人に感染かね。
取りついてルーゼルのDNAを
人に注入していくんだろう」政府関係者。
「はい。
正確には人のDNAをルーゼルのDNAへと
変える事にできる酵素の集合体を
ヒトの皮膚に接触することにより
皮膚から吸収させるのですが。
それに他に問題も。
人に接触すれば
数分で一匹が十数匹に増えます。
という事はそのまま増えるとしますと
半日かからずラーグ中、
その生物で埋まってしまいます。
かといって分裂能力を落とすと
全人類をルーゼル化できるかどうか。
ですから一度ルーゼルになった者には
二度と接触しないようにしてあります。
それなら大丈夫でしょう。
人に接触しなければ
増えませんし。
寿命も短いですので」枠沢。
数週間程度だ。
「-----」
「それなら問題ないのでは」
「ですが」枠沢。
「まあ-----とにかく素晴らしい。
君もその成果を見てみたいだろう」
「しかし本人の意思は」枠沢。
「それも心配ない。
国民投票を行うしね。
その結果待ちだよ」
「しかしまあ。
マスコミの事前の世論調査でも
九十パーセント以上が
それを願っているしね。
投票率も百パーセント近いんじゃないかね」
「ですが反対の人は」枠沢。
やはり不安なのか。
「反対の者はDNA注入生物の
種としての寿命の尽きるひと月間の間
どこかへ隠れていればいいんだし。
その為のシェルターも用意してあるし。
その点は君の意見も充分に
聞いたつもりだよ」
「それは-----。
ありがとうございます」枠沢。
「イーレス君は心配性だから。
心配ないよ」
ボーレムも笑った。
枠沢は地球へ。
地球にも用事が。
「まあ、国民投票が行われる
ひと月後までまだ間があるか」
世界各国ほぼ同時期に
それを予定しているようだ。