マイナス1-03
数週後。
枠沢は再び惑星ラーグ上にいた。
この間、十数個の知的生命体のいる
惑星を回ったが
どれも地球と似たようなモノ。
枠沢の研究など全く相手にされなかった。
しかしこの惑星ラーグなら。
枠沢の夢が実現出来るかも知れない。
そう思ったからだ。
枠沢の夢。
全人類をリドニテスに。
そして。
妻ももういない。
必要ならラーグ人として
今後の余生を送る事まで考えていた。
資料を渡したボーレム教授はじめ、
各大学の人々の動きは全て掴んでいる。
一応検討してくれてはいるようだ。
インターネットを通じて流した
分子合成装置や顕微鏡にも
アクセスが多数あった。
これならひょっとして。
枠沢は分子合成装置と顕微鏡を、
手に入れたラーグのコンピュータ用に改良を加え、
ここへ持ち込んでいた。
コンテナに詰め込み、
後はリドニテスの力を使えば
たやすいことだ。
枠沢はミルド国のワード国立大学の
ボーレム教授を再び訪れた。
ボーレムはすぐに現れた。
「やあ。イーレス君。
捜していたんだ。
どうしても連絡が取りたくてね」
「それはどうも。
それであの資料は-----検討して-----」枠沢。
「それだよ。
それに-----インターネットでも-----。
さらに詳細に流しているらしいね。
その件だ。
それで連絡を取ろうと-----失礼だが。
ギーメル国のドレグ大学へも
連絡を入れたんだが-----」ボーレム。
枠沢はゴクリ。
その情報は-----一応。
「ドレグ大学によると-----。
イーレスという教授はいないそうだ。
どういう事かね。
まあ、そんな事はどうでもいいが」ボーレムは気を使いながら。
「いえ-----。私は。
学会から追放処分の身で-----。
本当の名は名乗れないので-----。
そのように言うしか」枠沢は言葉を濁した。
「学会から。
それで偽名を」
「はい。
それでギーメル国内の研究所にも-----
当たったのですが。
どこも相手にされなくて。
このような方法を」
「そういう事か。
とにかくこちらへ」
ボーレムも納得したようだ。
研究室へ。
「いや。
あれから検討したんだがね。
インターネットを含めて-----」
ひょっとして素晴らしい発明かと思ってね。
ここに設計図もあるが-----」
コンピュータを操作しながら。
「それは-----ありがとうございます」
枠沢も-----内心-----。
「それで実物を是非見てみたい。
そう思ったんだが-----どうかね。
DNAの解析にしても
実際にモノがなければね。
設計図だけでは。
部品図もあるし造れるが。
それまでの時間が惜しいしね。
それは今どこに。
ドレグ大学?
いや、あそこは。
ギーメル国かね。
出来ればこれからすぐにでも行きたい」
枠沢にしても
自らの発明で
このような扱いを受けたのは初めて。
“これなら大丈夫かな。
いやしかし-----”
警戒はしつつも。
「実は、装置は今このミルド国内に。
必要とあればいつでも-----」枠沢。
「このインターネットの写真にある奴かね」ボーレム。
「はい」
「どこに」
「このワード市の南の砂漠の中に。
コンテナに詰めて」
枠沢たちはそこへ向かった。
ボーレムの自家用車で。
そして。
数日後。
大型の輸送トラックをチャーターし。
それをワード国立大学へ。
さっそくDNAの解析にかかる。
機器の説明、操作方法は
枠沢がメモを見ながら教える。
ラーグ星のコンピュータの操作には
まだ慣れてはいない。
その上メモの文字がミルド語のため-----。
まあ何とかなる。
DNAの解析情報が。
コンピュータの画面に。
「なるほど。
それでこっちは」ボーレム。
分子合成装置を。
巨大だ。
実際、操作して分子を合成してみせる。
それを顕微鏡で。
「なるほど-----」
ボーレムは感心したように。
「これはラーグ-----。
いえ。人の-----」
ラーグ人がラーグ人を
ラーグ星人と呼ぶのも妙だ。
そう気付いて慌てて言い直した。
「ヒトのDNAです。
このデータを元に
分子合成装置で」
ラーグ星のコンピュータ用の
メモリーチィップを取り出しコンピュータへ。
「もう人のDNA解析も」ボーレム。
「はい、一応」枠沢。
「まあ-----そうなるのか。
ではこのデータを元に
第二周期ではなく
第三周期、第四周期へと変換も-----」ボーレム。
「もちろん可能です。
しかし他の周期に変えるにしても
そのままでは」
「なるほど」
「それに空を飛ばしたり、
巨大化したり、
光線兵器を撃ったりも-----
出来ませんし。
このままでは」
「それは-----もちろんそうだろう。
インターネットのデータによると-----。
相当困難をともなうらしいね」
「はい。怪獣なら簡単なのですが。
ルーゼルとなりますと-----。
何年かかりますか」枠沢。
ルーゼルとは-----。
このラーグで今人気の
巨大変身ヒーローだ。
十数年前にテレビで流行ったモノの
リメイク版だ。
「それに人類全てを
そのルーゼルかね。
そうするには-----」ボーレム。
「賛同が得られますか」
「大丈夫ですよ。
後はどうやって人類全員をルーゼルに。
やはり薬にして全員に配るしか」
「ウイルスのような形で-----」枠沢。
「その手もあるか」
「しかしウイルスや細菌を使用する場合でも-----。
媒介するものがいりますし。
例えば蚊やノミ(もちろんラーグ星にいる地球の蚊やノミに相当する生物を指している)
などを使うにしましても」枠沢。
「その点の研究も必要か。
ぜひ協力を-----。
いや、こちらこそ君に協力を申し出たい」ボーレム。
「こちらこそよろしく」枠沢。
枠沢にしてみれば
全てクリアーした技術。
いつでもできるモノばかり。
これでやっと私も-----。
少し有頂天になり過ぎていたのかも。
とにかく-----。