††陽ヲ穿ル陰ノ劔††
気がつくと,少年は薄暗い森の中にいた。
何故このような場所にいるのか、そもそもここはどこなのか、彼には一切の心当たりがない。ただ、そこが普通の森ではないことだけはすぐに理解できた。
他の人間の気配はおろか、他の生物の気配すら感じられなかった。
少年の頭にはこの不気味な森をいかにして抜け出すかということしかなかった。辺りを見回し、微かに見える陽光を目指し、足を踏み出した瞬間、彼の目の前に突然“それ”は現れた。
少年が“それ”に対して抱いた印象は一瞬毎に上書きされていく。 形も色も、存在しているのかどうかさえも確信が持てなかった。そのことが少年にとっては気持ちが悪くて仕方なかった。そして、気づいたときには彼はもう逃げ出していた。方向もわからず、彼はただただ走る。
もう息が上がっていた。かなりの距離を走ったつもりだった。しかし、景色はほとんど変わっておらず、むしろ、より薄暗さが増したような気もした。確実に迫っている恐怖と、恐怖の対象を把握できていないことの違和感とが入り混じる。木陰に腰をおろすと、彼の理性は現在自分の身に起きていることを冷静に整理しようとする。しかし、彼の感情はそれを拒絶する。そして、“それ”は再び現れた。
少年は身動きが取れなかった。人の形をしているように見えた“それ”が彼に襲いかかる。
――死ぬ!
そのとき、彼の恐怖に怯える目が、視界に人影を捉えた。一瞬の閃光とともに、“それ”は消えた。目の前には、大きな剣を持った青い髪の少女の後ろ姿が現れていた。
「助けてくれたのか…?」
「あなたはここで死んではいけない人間」
こちらを振り向いた彼女は凛とした表情を変えることなく続ける。
「あなたは†刄滅ヲ魔焔スル鎧ノ調べ†(ダークネス・スカーレット・ディストピア・カタストロフィ・ソードエッジ)に選ばれた」
「†刄滅ヲ魔焔スル鎧ノ調べ†…?」
状況を全く把握できていない少年に、彼女は追い打ちをかけるように続けた。
「あなたはこの世界の†救世主†になれる」
少年は声を強めの口調で言った。
「ちょ、ちょっと待って!いきなりそんなこと言われてもわからない。君は一体誰なんだ?さっきのは一体なんなんだ?ここは一体どこなんだ?」
「ごめんなさい。少し落ち着いたほうがいいわね。私はキリィ。キリィ=トカーナよ。」
気付いたときにはもうすでにこの森にいて、ずっと逃げることだけを考えていた。しかし、キリィの緩んだ表情を見たことで、少年は自分と彼女が同年代であると認識できる程度には落ち着くことができた。
「あなたの名前は?」
冷静になった途端、新しい恐怖と違和感が彼を支配する。
「何も、覚えてないんだ…」
「草」
最近私の母校がコンクリの海に沈みました。なお沈まない。