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第125話「給食対決」

 なんだかただならぬ空気です。

 って、千代ちゃんが頬染めして、

「ねぇねぇポンちゃん!」

「どうしたの?」

「用務員さん、ミコちゃんにプロポーズじゃない?」


「用務員さんもポンちゃんもありがとう」

 今日は給食のお手伝いで学校なの。

 普段は村長さんが作っているみたいだけど……

 村長さんが用事でいないから、ミコちゃんが作っているんです。

 わたしと帽子男(用務員)がお手伝い。

 わたしは料理はさっぱりなので、食器の準備なんか。

 帽子男はラーメン屋をやってたくらいなので、下ごしらえとか。

 調理はミコちゃんが「チャチャ」っとやっちゃうの。

 むー、今日の給食のメニュー、気になりますね。

「ねぇねぇミコちゃん、今日の給食はなに?」

 お鍋は二つあるの。

 ミコちゃん、一方にカレーのルーを入れて、

「今日はカレーね」

「こっちのお鍋はなんなんですか?」

 開けて見ると……さっきのお鍋と一緒です。

 まだルーが入ってないだけ。

「老人ホームの分とか?」

「老人ホームの分は長老さんが作ってるのよ」

「じゃあ?」

「こっちは明日の分の肉じゃがよ」

「カレー入れる以外は一緒なの?」

「こっちにはおでんの素を入れて、冷蔵庫で一日寝かせるの」

 って、ミコちゃんニコニコしながら肉じゃがのお鍋を冷蔵庫にしまいます。

「手抜きでは?」

「ふふ、みんなやってるわよ」

 ミコちゃん微笑みながら言うの。

 手抜きって思うけど……

 でもでもミコちゃんの給食、すごくおいしいんだよね。

 帽子男さん、そんな鍋を見ながら、

「意外だな」

「なにがです?」

「いや、俺はミコちゃんの料理はスペシャルだって思ってたんだ」

「スペシャル?」

「そう、スペシャル、なんていうか、完全手作り」

「手作りじゃないです?」

「いやいや、カレーも肉じゃがも完全手作りじゃないだろ」

「??」

「カレーは市販のルー入れるし、肉じゃがはおでんの素だろ」

「え! それ入れたら手作りじゃないんです?」

「カレーなら香辛料、おでんの素じゃなくて昆布にかつおぶし」

「へぇ、カレーって香辛料なんだ、おでんの素も昆布なんだ」

「そうなんだよ、ちゃんと素材から作ってるって思ってたんだ」

 帽子男、口をへの字にして、

「女ってみんなこんなもんなんだろうかな……俺、騙されてたのかな」

「おいしいんだから、なんだっていいじゃないですか」

「ばーか、バレンタインに市販チョコと手作りチョコどっちがいいよ」

「な、なるほど~」

 帽子男さんの言う通りですね。

 でもでも、ミコちゃんのごはん、いつもすごくおいしいから素でもいいよ。


 今日の給食はカレーとパンとサラダ、デザートはムースですよ。

 ふふ、なんだかすごくしあわせな気分です。

 カレーもいいけどムースもね。

 冷たいデザート、超楽しみ。

 ではでは、まずはカレーですよ。

 ふふ、ミコちゃんのカレーすごくおいしいの。

 でもですね、配達人や帽子男の話だと「あまくち」なんだって。

 わたしはこのくらいがちょうどいいかなって思うからOK。

 ミコちゃんのしか食べた事ないからわからないけど、「からくち」ってどんななんでしょ?

 わたし、からしやわさびは苦手だから、からいのちょっとこわいかな。

 で、帽子男を見れば……食べているけど表情はちょっと微妙。

 なんでかな?

 聞いちゃいましょう。

「どうしたんです?」

「え、あ、うん……なんだな」

「あまくちは嫌いですか? 子供向け?」

「ああ、俺は確かに辛口がいいんだが、この味はなかなかって思うんだ」

 ってわたし達の会話を聞いてミコちゃんも、

「お口に合いませんでした?」

 ミコちゃんの言葉に帽子男の目が厳しくなるの。

 なんでこわい顔するんでしょ?

「ミコちゃん……このカレーはなんだ?」

「えっと、普通にカレーのつもりですけど」

「さっきのルーを入れるのもびっくりだったが……」

 わたし、スプーンが止まりませんよ。

 今日のカレーはおいしいです。

 なのになんで帽子男はピリピリしてるんでしょ?

 って、そんな帽子男の隣で食べてたレッドがゆすってます。

「ねぇねぇ!」

「……」

「ねぇねぇ!」

「……」

 レッド、空気読めてませんね。

 でもでもちょっと面白いかも。

 どうなるんでしょ?

 レッド、カレーの具ののったスプーンを帽子男に見せながら、

「きょうのカレーはおおあたりゆえ」

「……」

「なるといりゆえ、ぐるぐるゆえ」

「……」

 レッド、言うだけ言うと食べちゃいました。

 帽子男プルプル震えています。

 って、千代ちゃんがレッドに、

「うふふ、私のにはちくわが入ってたよ」

「ふわわ、ちくわ、あなあきすてきー!」

「レッドちゃんのも入ってない?」

「あるかな? あるかな?」

 なんとなくわたしも気になりました。

 ちょっと掘ってみましょう。

「あ、わたしにも入ってた、ちくわ」

「ポン姉いいなぁ~、ちくわ、いいなぁ~」

 って、わたしのちくわ、レッドにあげちゃいましょ。

 わたしのカレーにはちくわ、何個も入ってるもんね。

 って、帽子男、食べるのを止めて……ミコちゃんの手をとりましたよ。

 びっくりするミコちゃんにかまわず、引っ張って行っちゃいました。

 なんだかただならぬ空気です。

 って、千代ちゃんが頬染めして、

「ねぇねぇポンちゃん!」

「どうしたの?」

「用務員さん、ミコちゃんにプロポーズじゃない?」

「は?」

「なんだかいつもと感じが違ってた」

 千代ちゃんわくわく顔で言うの。

 確かにいつもと感じが違っていたけど……

「どっちかと言うと殺気だってなかったですか?」

「ミコちゃん級にプロポーズするなら緊張するんじゃない?」

 千代ちゃんわたしの服を引っ張りまくり。

 しょうがないですね、ちょっと様子を見に行きますか。

 わたしと千代ちゃんで廊下に出て見ると……階段の前で対峙する二人。

「ねぇ、やっぱりプロポーズじゃないような……」

 近寄ってみると……帽子男が言ってるのが聞こえるの。

「あのカレーはなんだよ、オイ」

「え? 美味しくなかったです? ダマ入ってました?」

「なんで『なると』や『ちくわ』が入ってるんだよ」

「え?」

 詰め寄る帽子男にミコちゃんはポカ~ン。

 わたしだって首を傾げちゃうの。

 帽子男、ミコちゃんの肩をゆすりまくって、

「カレーにねりもの入れるかよ、バカっ!」

 なんていうか、帽子男が怒りまくってるせいでミコちゃんどうしていいかわからず微笑んでばかり。

 わたしと千代ちゃん、二人に近寄って、

「あのー、帽子男さん、なに怒ってるんです?」

「おお、ポンちゃん、カレーに『なると』を入れるの変だろっ!」

「おいしいですよ」

「カレーに入れるか、普通」

「入れるんじゃないですか?」

「バカーっ!」

 帽子男、ミコちゃんを放してわたしをゆすりまくり。

 ちょっと困りましたね、千代ちゃんに振ってみましょ。

「ねぇねぇ、千代ちゃんの家のカレーはどうなの?」

 千代ちゃん、愛想笑いしてます。

 そしてミコちゃんの横に立つと、

「おばあちゃんの作るカレーには『ちくわ』入ってる」

「な、なにーっ!」

「ほら、ちくわ、入れちゃうんですよ」

「絶対入れないって!」

 って、そこに長老現れました。

 帽子男の服を引っ張りながら、

「どうしたんですか?」

「おお、じいさん、カレーにちくわを入れるかどーかだよ」

「なるほど……今日のカレーには入っていたわけですね、卑弥呼さまお手製」

「おうよ……そしたら千代まで入れるって言い出しやがった」

 長老、肩を揺らしながら、

「千代ちゃんの家ですか……おばあちゃんが作るんですよね?」

 そんな言葉に千代ちゃんは頷くの。

「では……勝負したらどうでしょう?」

「!!」

 長老、なにをいきなり言い出すんでしょ!

「明日の給食もカレーにして、どっちがおいしいか勝負するんですよ」

 帽子男の目が厳しい輝き。

「おい、じいさん、今日カレーで明日もカレーだったら勝てないじゃな……」

「ほほう、勝てないと」

 長老の言葉に帽子男の背後で稲光。

「やってやろうじゃねーかよ、おいっ!」

 帽子男、ミコちゃんを見て、

「本物のカレーってやつを見せてやるっ!」

 むー、ミコちゃんのカレーよりおいしいのってあるのかな?


 次の日~

 そして緊迫の給食時間。

 わたし、気になって今日も給食に強制参加なの。

「何なに? 給食勝負って事だけど……」

 村長さんも同じ島で給食が来るのを待ってるの。

「昨日、カレー勝負って事になって」

「用務員さんもミコちゃんに勝負を挑むなんて無謀ね」

 村長さんはミコちゃんに一票みたいですね。

 そんなわたし達の島には長老もいるんです。

「村長さん、まだ食べていないのに判断するのは早いですよ」

「あら、長老さんはミコちゃんが負けるとでも?」

「あの男(用務員・帽子男)、殺し屋であると同時に……食へのこだわりもたいしたものです」

「長老さん……」

「あの男の打ったそばはなかなかですし、ラーメンもしかり」

 長老の言葉に村長さんも急に真顔になって、

「そうねぇ、たまに給食作ってもらうけど、なかなかなのよね」

 そんな事を言っていると、千代ちゃんがカレーを持ってやってきました。

 わたし達の前にトレイを置いて行くんだけど……

 ま、真っ黒なカレーです、すごく黒いの。

 そんなカレーに子供達も静か。

 なんだか食べる前から辛そうだし……

 教壇にみどりとポン太が立って言います。

「手を合わせましょう~」

「いただきます……」

 みんなの声もちょっと不安そう。

 わたし、スプーンでカレーを一すくい。

「なんかすごそう……」

 でもでも、隣に座っているレッドは、

「おお、まっくろ、つよそう」

 レッドが真っ先に一口。

 教室じゅうの視線が集中するの。

 一瞬レッドの頭からなにかが噴き出した……みたいに見えました。

 耳まで真っ赤になるレッド。

「レッドレッド! ちょ、ちょっと大丈夫ですか?」

「おお、なに、このあじ!」

「え?」

「ちょううま、からいけど!」

 ふむ、レッドがおいしいと言うならおいしいんでしょ。

 わたしも「ぱくっ」。

「か、辛い……でもおいしい!」

 帽子男のカレー、具は何も入ってなかったけど、すごくおいしかった。

 こ、これが本物のカレーなんでしょうか?


 今日は……子供達と一緒に体育なの。

 体育はサッカー。

 広いグランドを走り回ってボールを追っかけるんだよ。

 ちょっと喉、かわきましたね。

 ボール追っかけるの一時中断してベンチに水飲みに行きましょ。

 あれれ、ミコちゃん、ベンチにいますよ。

「ふふ、ポンちゃん頑張ってるわね」

「どうしたの、ミコちゃん」

「うん、老人ホームの配達の帰りよ」

 ミコちゃんわたしに水を出してくれながら、

「レッドちゃんの声が聞こえたから」

「ああ、レッド……なかなかボールに触れないみただけどね」

 レッドはまだ小さいから、みんなでサッカーするとどうしても……ですね。

 さっきから「まてー」ってボール追っかけてるの。

 ちょっと面白いです。

 そこに……帽子男登場!

 そうでした、帽子男、今は用務員として働いているんです。

 リヤカーに草を乗せてやって来ると、ミコちゃんをにらんで、

「おう、昨日、学校にいなかったな!」

「カレー、おいしかったですよ、老人ホームでいただきました」

「逃げたかと思ったぜ」

「まさか~」

 二人の視線、火花散らしてます。

 むう……どっちのカレーがおいしかったでしょ?

 わたし……ミコちゃんに味方したいけど、帽子男のもGOOD。

 でも、どっちか選ばないといけないの。

 どっちを選べばいいのかな。

 子供達もどっちを選ぶんでしょ。

 勝った方はいいかもしれないけど、負けた方は……

 帽子男が負けたら、しばらく荒れそう……

 ミコちゃんが負けたら……なんだかこわいかな?

 すると今度は長老と配達人がやってきました。

 二人とも何か大きな荷物を抱えているの。

「今日はみんなサッカーですか」

「長老、それはなに?」

「ええ、せっかくいい天気ですから外で昼ごはん」

「おお!」

 配達人がブルーシートを敷いている間に、長老が荷物の中から……

 ミコちゃんと帽子男のバックに閃光。

 長老が声をあげます。

「みんな、給食の時間です」

 って、子供達、ダッシュでやってくるの。

 そんな子供達に長老はパックのごはんとレトルトのカレー、牛乳パックとおしぼりを手渡すの。

「いただきまーす!」

 すぐさま食べだす子供達。

「おかわりー!」

 パックのごはん、どんどんなくなります。

 すごい回転です、おもしろいようにスプーンが動くの。

 一方ミコちゃんと帽子男の背後には暗黒オーラがゆらめいていますね。

 長老、モリモリ食べてるみんなに向かって、

「みなさん、一番おいしかったカレーは?」

「コレー!」

 ああ、ミコちゃんと帽子男、くずれ落ちてます。

 むー、レトルトカレーおいしいですか?

 おいしい……かな?

 どうして……でしょ?

 長老、わたしを見て、

「体を動かした後で、外で食べるのにかなうわけないでしょう」

「あー! なるほどー!」


「きつねいろになるまで、まつゆえ~」

「はーい」

 レッドの言葉に続くはレッドファンのみなさん。

 今日はレッドがホットケーキを焼く「レッドの日」レッド感謝デー。

 ホットプレートの周りで、レッドファンの常連さんたちはニコニコ。


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