第120話「風邪ひき駄菓子やさん」
風邪ひき駄菓子屋のおばあちゃん…
でもでも、コンちゃんと対決の様相?
わたしはそんな対決の瞬間を見守るんですよ。
おばあちゃんの作戦が勝つか…
コンちゃんの術が勝つか…
今日はめずらしい配達先があるんですよ。
あのイケメンラーメン屋さんなの。
「こんにちわー!」
お店に入ってみたら、時間じゃないのかお客さんはチラホラ。
って「チラホラ」はレッドとみどり、コンちゃんですよ。
「3人ともどうしたんですか~」
レッドとみどりはラーメン食べるのに忙しくて返事なし。
コンちゃんはもう食べ終わったどんぶりのふちを指でなぞりながら、
「うむ、ちょっとな」
「コンちゃん……またツケですね」
「なぜそれがわかるかの!」
「それしかないでしょ」
「むー!」
って、イケメンさん、わたしに水を出してくれます。
「いつもツケでって言うんですけど……」
「払うそぶりも見せないって言うんでしょ」
「はい」
イケメンさん愛想笑い。
コンちゃんムッとした口調で、
「わらわは神ぞ神! タダで供するものでないかの!」
プリプリするコンちゃんにイケメンさんは、
「いつもこうなんですよ~」
「もうコンちゃんにラーメン出さないでいいですから」
「でも……でも……」
わたしとイケメンさんがコンちゃんを見ると……髪うねりまくり。
って、イケメンさんからテレパシーなの。
『あの、タヌキさん』
『イケメンさん、わたしの事はポンちゃんで』
『じゃあ、ポンちゃん……どう思います』
『コンちゃん思った通りにならないといつもこうなんだから』
『でも、ラーメン出さなかったお店が壊されないかって……』
『ラーメン屋さん壊したらラーメン食べれなくなるから、それはないと思いますよ』
『でも、暴力振るわれたらコワイ』
『イケメンさん、男ですよね、なさけない』
でもー、コンちゃん暴れたら山やダムを壊すくらいです。
コンちゃんプリプリしてイケメンさんをゆすってるの。
「これ、おぬし、わらわを敬わんか!」
「……」
「聞いておるかの、ツケはちゃらなのじゃ!」
「……」
「嫌とぬかせば、どうなるかわかっておるかの!」
コンちゃんもモウ……レッドとみどりもいるんだから、大人らしくしてほしいです。
わたし、イケメンさんにテレパシー。
『いいですか……わたしの言う通りに言うんですよ』
で、わたし、イケメンさんに伝えました。
イケメンさん、ポカンとして、真顔でコンちゃんの方を見て、
「ミコちゃんに言いますよ?」
「!!」
途端にコンちゃん真っ青です。
って、すぐに真っ赤になっちゃうとわたしの方を見て、
「これ、ポン、おぬしが教えおったの!」
「ツケをためるのがいけないんですよ~」
「くく……いっその事、この店を壊してやろうかの~」
あ、ちょっと本気の目です。
「ツケの事ミコちゃんにばれるの、そんなに嫌なんですか?」
「あたりまえじゃ!」
ああ、コンちゃんの手に光の珠が現れました。
「わらわの術でこんな店、こっぱみじんなのじゃ!」
ああ、めずらしくコンちゃん本気かも。
「ごちそーさまー!」
レッドが嬉しそうに手を合わせて言います。
「ふん、ごちそうさま、おいしかったわよ」
みどり、ツンツンしながら口元を拭き拭き言いますよ。
二人、コンちゃんの方を見て、
「コン姉ありがと~」
「コン姉……ありがとう……」
「うむ、うまかったかの」
二人に手を引かれて出て行くコンちゃん、わたし、イケメンさんに、
「どういう意味?」
「コンちゃんが二人を連れて来たんですよ~」
「でも……ツケですよね」
「ですね~」
わたし、ため息もらしてから、
「今度ミコちゃんにお金持ってきてもらうから」
「よろしくおねがいします~」
って、イケメンさん、わたしの肩をつかまえて、
「配達頼んだドラ焼きを!」
ああ、そうでした、ここへは配達で来たんでしたよ。
「待って~」
レッドとみどりに手を引かれているコンちゃんを追っかけますよ。
「どうしたのじゃ、裏切り者」
「な、なんでわたし、裏切り者なんですか!」
「ふん『ミコちゃんに言いますよ』って言いふらしておる」
「えー、ツケの事、ミコちゃんに言うよ」
「ポン、死にたいかの!」
「ツケ、どっちにしてもそのうちばれますよ……もうばれてるかも」
「むむ……なんとかせねば……」
コンちゃん、青くなって、
「ミコは……こわいのじゃ」
「コンちゃんが悪いんだよね」
「だって~わらわ~女キツネなのじゃ」
「神さまだから何したっていいってわけじゃないんですよ」
「むむ~」
わたし達、レッドとみどりに引っ張られて駄菓子屋さんに到着。
「あ、そうだ、今日は駄菓子屋さんでお菓子の日でしたね」
「ですです~」
「そうよ、アンタ、知ってるでしょ!」
レッドとみどり、百円玉を握りしめてウキウキ顔。
「よく選んで買うんですよ~」
「らじゃー!」
「ふん、言われなくてもそうするわよっ」
二人は先にお店に入っちゃいます。
って、ここにもう一人、子供がいます。
コンちゃん、レッドとみどりの背中を見てしっぽ振りまくりなの。
「ねぇ、コンちゃん」
「なんじゃ、ポン!」
「コンちゃんも駄菓子、買いたいの?」
「……わかっておろう」
まぁ、しっぽ、見ればですね。
「ちまちましたお菓子がたくさんで楽しいのじゃ」
「あ、その気持ちはわかりますよ」
「でも、お金、持ち合わせてないのじゃ」
「じゃ、我慢したら」
「えー!」
えへへ、本当はお金、貰ってるんですよ。
今日、パン屋さんを出る時にわたしとコンちゃんの分、二百円貰ったんです。
わたしがポケットからお金を出そうとしたら……
「わらわは神ゆえ、タダでよいのじゃ」
はじまりました……ここにもツケ、ためてますね~
「おばばはわらわに快く供するに決まっておるのじゃ」
「ねぇ、コンちゃん、ツケ、ためてるよね」
「そそそそんなものはないのじゃ」
ああ、もう、冷や汗ダクダクですね。
「レッドやみどりも見ているから、ツケはやめた方が……」
「ででででは、わらわはどうやって欲求を満たせばよいのじゃ!」
このお稲荷さまは「我慢」って言葉知らないみたいですね。
大人のくせに~
「我慢ですよガマン、わかってるくせに~」
「わらわ、女キツネなのじゃ、わがまま気まぐれなのじゃ!」
「もう、お子さまなんだから~」
「お子さまでもいいのじゃ、わらわ、駄菓子買いたいのじゃ!」
「今日はお金、あるからこれで買い物するんですよ」
「おお、ポン様! ポン先輩!」
コンちゃん百円玉に大喜びです。
「やったー! 百円なのじゃ! ラムネが10個も買えるのじゃ!」
むー、なんて言うか……
コンちゃん喜んでいるのを見ると、ちょっと嬉しいかな。
コンちゃんのこんなところがかわいいのかもしれませんね。
それに……こんなコンちゃん見てるとわたしの方がお姉さんな気分。
わたしもコンちゃんに続いてお店に入るんです。
「ねぇねぇ!」
「なに、レッド?」
「ばあちゃ、いませんよ」
「はぁ?」
そう言えば……レッドとみどりが先にお店に入っていたけど、おばあちゃん顔を出しませんね。
いつもニコニコして出て来ていたのに……いないのかな?
なんたって山の……田舎の駄菓子屋さんですよ、鍵もかけないでお出かけかも?
パン屋さんもほとんど鍵、しませんもんね。
「どうしたの……かな?」
クンクン、おばあちゃんのにおいはするんです。気配もね。
上がりこんでみれば……おばあちゃん寝てます。
「あら、ポンちゃん」
「おばあちゃん、もう昼ですよ~」
「ちょっと体が重くて……ねぇ」
「!!」
わたし、おばあちゃんのおでこに手を重ねるの。
熱、ありますね、熱いです。
「おばあちゃん、大丈夫?」
「ちょっと布団放っちゃっててね」
「寝ぞう悪いんですね」
「お酒が入るとね」
おばあちゃんは風邪みたい。
「これじゃお店に出れませんね」
「だねぇ……レッドちゃんやみどりちゃん、せっかく来てくれたのにねぇ」
レッドやみどり、コンちゃんも布団を取り囲みます。
「ばあちゃ、だいじょうぶ?」
「なによアンタ、風邪なの?」
「これおばば、顔が赤いのじゃ」
おばあちゃんは微笑んで返すの。
「ねぇねぇコンちゃん、どうしたらいいと思う?」
って、コンちゃん考える顔。
ぐるっと部屋を見回して……すぐに裸電球が頭に点ります。
「うむ、とりあえずポンはここで店番でもするのじゃ」
「わたしが?」
「駄菓子屋を楽しみにしておる客もおるであろう」
むー、神社を参拝に来た人がここでお茶をしているの、見た事あります。
パン屋さんもいいけど、ここは神社からすぐだからですね。
「まぁ、駄菓子屋さんならわたしでもできそう」
おばあちゃんも微笑んで頷いてくれました。
「では、わらわはレッドとみどりを連れて帰るとする」
コンちゃん、二人のお菓子を新聞紙の袋に入れて、お代を置くと、
「レッドとみどりに風邪がうつってはなんなのでの」
言うと、二人の手を引いて行っちゃいました。
コンちゃんはスタスタ行っちゃうけど……
レッドとみどりは何度も振り返りながらですね……
さて、わたし、駄菓子屋さんの店員……
でも、今はお客さんいないから……
「とりあえず看病しようと思うんですけど……」
おばあちゃん、微笑しながらわたしを手招き。
なにかな?
「ポンちゃんポンちゃん、コンちゃんは帰ったかね」
「ですね、それが?」
「レッドちゃんとみどりちゃんを連れて?」
「ですね、それがどうかしました?」
おばあちゃん、考える顔をしてます。
「なんだか嫌な予感がするね」
「それって悪寒じゃないんですか?」
「うーん……」
なんて言うか……
「おばあちゃん、なんだかさっきより元気になったように思いますよ?」
「あの女キツネは絶対来る!」
おばあちゃん、戸棚のノートを出して見せます。
「あー! ツケ・ノート……」
「コンちゃんは絶対これを奪いに来るんだよ」
「そう言えば、裸電球点る時にこっちの方を見ていたような」
はて、でもでも……
「ねぇねぇ、おばあちゃん」
「なんだい、ポンちゃん」
「おばあちゃんここにいるのに、どうやってこれを奪いに来るの?」
「……」
おばあちゃん、考えています。
「だねぇ、私はここに寝ているのにねぇ」
「でしょ、考えすぎなんじゃ……」
わたし、言いながらも……
「でもでも、おばあちゃんがそう思うのもわかるような気が」
「だろう」
「あの裸電球が点いた時のコンちゃんは……きっとそうです」
わたしとおばあちゃん、同時に思いだしちゃったんです。
「「駐在所!」」
そう、駐在さんがシロちゃんをハメた時の事です。(9c・105話)
コンちゃんのステルスの術で姿を隠したんですよ。
って、おばあちゃん、すごい笑顔。
もう病気、どっかに行っちゃったみたい。
ごそごそと探し物をして「ハエ取り紙」を出して来ました。
「それって虫がひっついちゃうんですよね」
「ふふ、これを仕掛けるんだよ」
おばあちゃん、ツケノートの戸棚の前に「丸見え」状態でそれをぶら下げるの。
「えっとー、おばあちゃん」
「なんだい、ポンちゃん」
「さすがにそれにかかるでしょうか? 丸見えですよ?」
「賭けるかい?」
おばあちゃん、すごい笑顔。
このトラップを楽しんでいるみたい。
わたし……最初はこんな罠にはかからないって思ったけど、おばあちゃんの顔を見てたらコンちゃんがかかるような気がしてきましたよ。
「うん、準備万端!」
「おばあちゃんもすっかり元気ですね」
「ふふ、あの女キツネをギャフンと言わせるんだよ」
なんだかおばあちゃんの方が悪役に思えてきたのはどうしてでしょ?
「ささ、ポンちゃんはお店お店」
「おばあちゃんはどうするんです?」
「ここでタヌキ寝入りするとするよ」
おばあちゃん、ルンルン顔で布団に入るの。
言われた通り、わたしもお店番をするんです。
いつもおばあちゃんが座っているイスに腰掛けて、火鉢をつつきながらぼんやり。
ぼんやり……してると……み、見える!
ときどき窓の外の景色が「ぐにゃり」。
映画なんかで透明になった時のCGみたいな感じかな。
ああ! 透明な何かがお店の引き戸をすり抜けるのが見えます!
一瞬カタカタ音がするの。
そして……わたしの……横を……通り過ぎて……行きました。
気配が部屋の奥まで行くのを、見たい、振り向きたい気持ちを我慢がまん。
「ふぎゃ!」
あ、かかりました。
わたしが行くと、コンちゃんハエ取り紙に絡みまくり。
「なんじゃコレは!」
「ハエ取り紙ですよ……本当に掛りました」
「ももももしや、ポンの仕業かのっ!」
わたし、おばあちゃんを指差します。
おばあちゃん、布団から出て来て、
「ふふふ、かかったね、女キツネ・コンちゃん」
「おばば、はめおったの!」
「はめおった」……ってか、丸見えで掛ったのはコンちゃんですよ。
どこ見て飛んでたんでしょうね?
「ふふ、このノートに用があるんだね」
おばあちゃん……完全悪役です。
ニヤニヤ笑いながら、絡まって動けないコンちゃんの前にノートをちらつかせるの。
「ミコちゃんに言うよ」
うわ、本当に悪人です。
本当に悪いのはコンちゃんなんだけど、コンちゃん真っ青。
「電話するかね」
「やめてーっ!」
コンちゃんが叫ぶのも聞かずにおばあちゃん電話してます。
って、光の輪が現れてミコちゃんがテレポートしてきました。
「すみません、いつもコンちゃんがツケをためこんじゃって」
って、現れたミコちゃん、持っていた電話の子機をわたしに渡すと、その手にゴット系の術が光ってるの、
「まったくコンちゃんはいつもいつもいつも!」
「わーん、ゆるしてなのじゃ!」
「いつもイツモいつ……も……」
ミコちゃん固まっちゃいます。
発動しかけていたゴット系の光も消えちゃいました。
ミコちゃん、ハエ取り紙に絡まって動けないコンちゃんにあぜんとしてるの。
『ねぇねぇ、ミコちゃん、どうしちゃったの?』
『なさけなくて、怒る気も失せちゃった』
わ、わたしも同感ですよええ。
盛大な血しぶき!
吹き飛ぶ腕や足!
ぶちまけるはらわた!
店長さんと抱き合ってるのに……嫌な、こわい気持ちでいっぱいです。
わたしと店長さん、抱き合って震えるの。