第119話「床屋さん」
今回は床屋さんに行くお話なの。
えっと、いつもはミコちゃんに切ってもらってるんだけど……
床屋さんで切ってもらうのとは、どう違うんでしょうね?
むむ、コンちゃんは前から行ってるみたいです。
床屋さんの秘密を確かめに行くんですよ。
今日は老人ホームに配達なんですが……
老人ホームの配達は配達だけじゃないんです。
職員さんと一緒におじいちゃん・おばあちゃん達と一緒にいろいろするんですよ。
ストレッチをしたり、歌を唄ったり、習いごとをやったりするの。
たまにはお風呂のお手伝いもしたりもするかな。
「村長さん」
「何?」
「老人ホームって大変なんですね」
「そうねぇ……でも、ここは重度の人はいないから、ラクな方かもしれないわよ」
「じゅうど??」
「うーん、ポンちゃんになんて説明していいのやら……」
「??」
「ともかく、起きれない人とかいないでしょ」
「でもでも、車椅子の人とかいますよ!」
「でも、まだ軽いほうじゃないかしら」
「そうなんですか……」
「起きれない人や、体が自由に動かない人だったら、私達が動かさないといけないから」
「うーん、寝たきりの人はいませんね」
老人ホームにもいろいろあるみたいです。
「それに……」
「なんです、村長さん」
「ここに来た人は、なんだかみんな前向きになるみたいなのよね」
「はぁ?」
「ポンちゃん達のおかげじゃないかしら」
「わたし、なにもやってないですよ?」
「でもでも」
村長さん、微笑みながら……モフモフしてます。
「タヌキが化けてるところなんて、余所にはないわよ」
「も、モフモフしないでくださいっ!」
「長老さんにポン太くんやポン吉くん、コンちゃん」
「むー、動物大活躍?」
「そうね、長老さんのごはん、すごくおいしいし、ポン太くんの料理もいいわ」
「おそば屋さんで鍛えられたんでしょ」
「ポン吉くんのお魚もいいわね」
「ポン吉は釣りバカですね」
って、思いましたよ。
「村長さん村長さん、コンちゃんはどこがいいんです?」
「うーん、正直私は微妙に思っていたんだけど……」
「?」
「いつもなにもしないで『わらわは神なのじゃ』でグダグダ」
「ダメじゃないですか」
「でも、みなさんにはそれがいいみたいよ、コンちゃん綺麗だし」
「村長さん、村長さん、わたしは?」
「ポンちゃんはしっぽね、すごいモフモフ、夢のさわり心地」
「綺麗とか、かわいいってないんですか」
「えーっと……そうそう」
むむ、話題、すりかえますね~
「一番なのはレッドちゃんね」
「そうなんだ……レッドのどこがいいんでしょ?」
「レッドちゃん、なんでも『好き好き~』だから」
見ればレッド、おじいちゃんの膝でニコニコしてます。
乗られているおじいちゃんもニコニコしてますね。
確かにレッドは癒しに一役買っているみたい。
「あ、でもでも!」
「どうしたの、ポンちゃん?」
「わたし、ミコちゃんじゃないかなって思ってるんです」
「ミコちゃん?」
「そう、ミコちゃんですよミコちゃん」
「ミコちゃんのごはん、たまに作ってもらうけど、おいしいわね」
「それもですけど……ミコちゃんは回復系の術あるんですよ」
「へぇ……でも、この間現場監督さんには使わなかったのよね」
「あの時は……ですね」
って、本人がのこのこやって来ました。
今日は学校の配達だったはずだから、ついでにこっちに来たんでしょ。
「ねぇねぇミコちゃん、ミコちゃん回復系の術、使えるよね」
「えっと……それは……」
「コンちゃんが言ってたよ、ダメージ与えて回復させてってえげつないって」
「コンちゃん……」
ミコちゃん、ムッとした顔で指をパチン。
今頃どこかでコンちゃんに「ゴット・サンダー」が命中してるんですよ。
「まったくコンちゃんはモウ」
「ミコちゃん容赦ない~」
村長さん笑いながら、
「その回復系の術って使ってもらえないのかしら?」
「えっと……人間には強すぎるからダメなんですよ」
「そうなの、残念ねぇ」
「でも、村長さん」
「なに、ミコちゃん」
「保健の先生がいるから……いいと思うんですけど」
って、ミコちゃんの言葉に村長さんの微笑みが固まるの。
「長崎先生(保健の先生)いいんだけど……ちょっとね」
「?」
わたしもミコちゃんも首を傾げちゃいます。
村長さん苦笑いしながら、
「結構マッドなのよね、ポワワ銃とか持ってるし」
ですね、気分屋さんのところもあるし。
どことなーくコンちゃん属性な女なんですよええ。
きっと今頃、保健室でくしゃみしてるんです。
村長さん笑顔で、
「ミコちゃんにはいろいろお世話になってるから、これ以上はね」
って、ホールにまた人がやってきましたよ。
おじいちゃんとおばあちゃん、新しく入所の人でしょうか?
むむ、荷物あるけど、そのカバンには1日分の着がえくらいしか入りませんよ。
「村長さん村長さん、新しい人ですか?」
「あ、あの人は床屋さんなの」
「床屋さん……ってなんですか?」
「髪切ってくれる人」
「あー!」
髪を切ってくれる人だそうです。
「ポンちゃんは行った事ないの?」
「えっと、パン屋さんはですね」
って、わたしが言おうとしたらミコちゃんが、
「私がチャチャっと切っちゃってます」
村長さんニコニコ顔で、
「そうよね、お母さんが切ってくれる家もけっこうあるわよね」
床屋のおじいちゃんとおばあちゃん、すぐに仕事にはいりました。
姿見の鏡を持ってきて、老人ホームのおじいちゃん・おばあちゃんの髪を整えてます。
「あ、わたし、ドラマで見た事あります」
そうです、世間話をしながら髪を切るんですよ。
なんだかほのぼのした空気ですね。
むむ、そんな散髪を指をくわえて見てるレッド。
しっぽをブンブン振ってます。
「レッド、お仕事の邪魔しちゃダメですよ」
「むむ、ざんねん」
「レッドはミコちゃんが切ってくれるでしょー」
「でもですね」
レッド、真剣に見ているの。
わたしもおじいちゃんのはさみ捌きに見入っちゃいます。
「もしかしたらカリスマ美容師さんでしょうか?」
床屋のおじいちゃん、笑ってます。
「あんた達がタヌキのポンちゃんとキツネのレッドちゃんかい?」
「けのいろがあかいからレッド!」
「はい、そうです~」
「今度お店に来たらいいよ」
「でも……わたしはミコちゃんに切ってもらうから……」
って、わたしが言ってたらミコちゃんが、
「レッドちゃんものびてきたし、ポンちゃんもちょっと揃えてもらったらいいじゃない」
「でもでもミコちゃん、お金が……」
わたしの言葉にミコちゃんが言うの。
「床屋さん、1000円でいいですよね?」
「はいはい、村の人だからサービスするよ」
でも、床屋のおばあちゃん、考える顔になって、
「あんたのところのコンちゃん……だっけ?」
「え、コンちゃん知ってるんですか?」
「たまに来るねぇ……そこでなんだけど……」
「?」
「ツケ、払ってもらえるかねぇ」
コンちゃん、床屋さんにもツケをためこんでいるみたいですよ。
途端にミコちゃんが怒った笑み。
指をパチンと弾くと雷鳴がとどろくの。
どこかで女キツネが「キツネ色」に「焼けちゃって」るんでしょうね。
「わらわがテレビを見ていると雷が連射なのじゃ!」
叫ぶコンちゃんにチョップするミコちゃん。
「ツケ、床屋さんにもためてるんでしょっ!」
「な、なぜそれをっ!」
「老人ホームに床屋さん、来たのよ」
「むむ、あのおばばめ、しゃべりおったな」
「ツケをためる方が悪いんでしょ!」
ミコちゃん再チョップしながら、
「コンちゃん行った事あるみたいだから、ポンちゃんとレッドちゃん、連れてってもらうといいわ」
「うん、そうする」
「わらわも行くのかの?」
「ツケを払うのよ!」
ミコちゃん、再チョップしながら、
「で、いくらためてるの?」
って、コンちゃん顔を青くして指2本。
「2000円?」
「……」
「ま、まさか2万円!」
ミコちゃん、怒りマークが浮かんでますよ。
「どーして床屋さんにそんなにためるのっ!」
「ぱーまは高いのじゃ!」
「どーしてパーマかけるのよっ!」
「わらわはおしゃれなのじゃ」
コンちゃん、ゲンコツ食らってます。
そんなコンちゃんを先頭に床屋さんに出発するの。
「ねぇねぇ、コンちゃん、床屋さんにいつから行ってるの?」
「うむ、復活してすぐなのじゃ」
「へぇ、そうなんだ」
「わらわは美しいゆえ、身なりを整えるのに髪結いは必須なのじゃ」
「で、ツケ、ためるんだ」
「むむ、わらわは神ゆえ、タダで奉仕すればよいのに~」
って、駄菓子屋さんの近くなんですね。
むー!
この神社の前には行った事のないお店がまだまだあります。
これから出会いがまだまだありそうですね。
赤・青・白がくるくる回るお店に入るの。
「これ、お婆、来てやったのじゃ!」
「あら、コンちゃん、ツケ、払ってくれるかね」
「今日はちゃんと持って来たのじゃ」
床屋のおばあちゃんとコンちゃんはレジに行っちゃいました。
お店の中には……お客さんがいます。
「あ、駄菓子屋さんのおばあちゃん」
「ポンちゃん、床屋さんかい?」
「ええ、わたしとレッドです」
「そうかい」
ちょうど終わったところみたいで、おばあちゃん席から立ちながら、
「いつもは……ミコちゃんに切ってもらってたのかね?」
「ですね~」
「まぁ、床屋さんもいいもんだよ」
床屋のおじいちゃん、わたしとレッドを見ながら、
「うーん、レッドちゃんは婆さんにやってもらって、ポンちゃんは儂がやるかね」
おじいちゃん、子供用のイスをセットしてレッドを座らせます。
すぐにおばあちゃんやって来て切り始めるの。
「レッド、大人しくしてないとダメですよ~」
「らじゃー!」
「いつも動くでしょー!」
「ですっけ?」
そうです、ミコちゃんが切ってるといつも苦戦してるもん。
きっと子供だからじっとしていられないんですよ。
あれれ……でもでも!
レッド、もう舟を漕いでいます。
あっという間に夢の中なんですね。
「びっくり、寝ちゃってる」
床屋のおばあちゃんは笑ってます。
駄菓子屋のおばあちゃんが、
「ここの床屋にかかると子供なんかすぐに寝ちゃうよ」
コンちゃんも胸を張って、
「ここの腕はピカイチなのじゃ、眠たくなるのじゃ」
「な、なにか術とか使ってないよね?」
床屋のおじいちゃん、ニコニコしながら、
「雰囲気なんじゃないのかな、さ、座って座って」
わたし、レッドの隣のイスに座らせられると、早速髪を切られちゃうんです。
ああ、なんだかハサミの「チョキチョキ」が心地いいんですね。
「むー、ミコちゃんはバリカンで切るから、そこが違うのかもしれません」
切っているおじいちゃん、感心した感じで、
「ミコちゃん……あの老人ホームにいた」
「はい」
「バリカンで揃えるんだ……たいしたもんだね」
「でもでも、ハサミでチョキチョキの方が気持ちいいですよ」
「そんなもんかねぇ」
って、そんなハサミの音が止まっちゃうの。
見ればおじいちゃん、びっくりして隣の席を見ています。
レッドの髪を切っていたおばあちゃんも固まってるの。
舟を漕いでいるレッド。
寝ているのに獣耳になっています。
「ちょ、ちょっと、耳が!」
おばあちゃんびっくりしているの。
「わたしもびっくりです」
「この仔はキツネさんだよね」
「でもでも、テンションあがらないとキツネ耳にはならないんですよ」
「どうしてかね?」
「きっと気持ちいいんですよ……寝てるのに」
寝ちゃったレッドをおんぶしてお店を出ます。
「ありがとうございました~」
見送りに出て来たおばあちゃん、
「また来るといいよ……キツネ耳になるのもわかったから、次はびっくりしないからね」
「はーい」
「ほかに……シロちゃんやみどりちゃんも連れてくるといいよ」
「言っておきます」
「コンちゃんはお金持ってきてくれよね」
「おばば、他に言う事はないかの?」
おばあちゃん、ちょっと考える顔になって、
「ミコちゃんに言うかね?」
「ど、どこでその言葉をっ! まったくっ!」
そう言えば……レッドとみどりが先にお店に入っていたけど、おばあちゃん顔を出しませんね。
いつもニコニコして出て来ていたのに……いないのかな?
なんたって山の……田舎の駄菓子屋さんですよ、鍵もかけないでお出かけかも?
パン屋さんもほとんど鍵、しませんもんね。
どうしたのかな?