第130話「女対決」
「では、改めて告白してみてはどうでありますか?」
「改めて?」
「何度『好き』と言ってもいいでありますよ」
「なるほど……」
と、コンちゃんの頭上に裸電球が灯りました。
お昼、お客さんはいませんね。
コンちゃんのテーブルにわたしとシロちゃん。
三人してぼんやりとTVを見ているの。
お昼のワイドショー。
都会では今日も殺人事件みたい。
大体七つの傷の男が住んでる「パチンコ屋」がたくさんあるんです。
毎日「ヒテプ」で人が死んでるんですよ、きっと。
「退屈じゃの、なにかないかの」
コンちゃんぼやきます。
「本官もそう思うであります」
そうそう、シロちゃんは今、パン屋の娘モードでメイド服なの。
「ついさっきまでは忙しかったんですけどね」
実はさっきまで観光バスが三台いっぺんに来てたんです。
すごく忙しかったんだけど……
観光バスが行っちゃうと途端に「ガラン」。
ギャップのせいもあって、今はすごい退屈なの。
「今日の観光バスでありますが」
「どうしたの、シロちゃん」
「老人会か何かのようでありました」
「ですね……おじいちゃんおばあちゃんばっかりだったような」
「でも……であります」
「?」
「老人なのに本官をジロジロ見るであります……ちょっとエッチな目で」
途端にコンちゃんがため息一つついてから、
「わらわも思ったのじゃ、なんだか歳甲斐もなく色気ついた目だったのじゃ」
「え……二人ともそんな……わたし全然気にならなかったけど」
途端にコンちゃんシロちゃんわたしをにらみます。
でも、すぐに呆れた目になって、
「まぁ、ポンを熱っぽい目で見る者はおらんであろう」
「本官もそう思うであります」
「ちょ、ちょっと二人とも、わたしをバカにしてませんか?」
「ポンはお子さまなのじゃ」
「設定じゃ中学生なんですっ!」
「本官も……設定年齢より精神年齢は低く思うであります」
シロちゃんにはチョップですチョップ。
でも、シロちゃん避けもしないで呆れてます。
「二人ともわたしをバカにしてますっ!」
「その通りじゃ」
「その通りであります」
「むかーっ!」
でも……わたしもさめてきました。
「むう……そう言えばですね」
「ポン、どうかしたのかの、今日は怒りがすぐに収まったのじゃ」
「わたし、そんなにかわいくないですか?」
「?」
「ポン太やポン吉はコンちゃんやシロちゃんを見ると頬染めします」
「……」
「わたしを見ても笑顔を見せても顔を赤らめるなんてしません」
シロちゃん、お茶を一口しながら、
「ポンちゃんはポン太やポン吉が好きでありますか?」
「なんでそうなるの?」
「いや、今の話だとポン太ポン吉に頬染めしてほしいでありますよね?」
「別に……」
「そうでありますか……本官タヌキ同士でラブかと思ったでありますよ」
「ポン太もポン吉も子供ですよ」
「ポンちゃんも子供であります」
シロちゃんにチョップですチョップ。
「でも……ポン太達はコンちゃん達が好きだから赤くなるんだと思うんです」
「ならポン太達がポンちゃんを見ても赤くならないのは……」
シロちゃんが言うのを、わたしは途中で、
「店長さんがわたしを見ても赤くならないのが気にいらないんです!」
「!」
「店長さんはわたしが好きなんだから、毎朝顔を合わせたら赤くなるべきです!」
「……」
「なんです、二人とも、真顔で」
「いや、何故店長が赤くならねばならんのじゃ」
「本官もそう思ったであります」
「二人とも、なに言ってるんですか、恋人と顔を合わせて赤くならないのおかしいでしょ!」
「何故店長が恋人かと言うておるのじゃ」
「本官もそう思うでありますよ」
「わたし、店長さん、恋人、ラバー!」
「ポン、おぬし、おかしいでないかの」
「ポンちゃん妄想ひどいでありますよ」
「二人とも、怒りますよ!」
わたし、バンバンテーブル叩くの。
「わらわの意見を言わせてもらうと……」
コンちゃん、テーブルを指でトントンしながら呆れ顔で、
「店長はなんとも思っておらんので赤面せん」
シロちゃん頷きながら、
「本官もそう思ったであります」
くく……二人とも言いますね、でもでも、
「ふん、わたしと店長さんの仲に二人は焼いているだけなんです」
「いや、わらわ、ポンを敵だと思っておらん」
「本官もポンちゃんが恋敵であれば負ける気ないであります」
「なんですってー!」
「わらわ、シロが一番強敵と思っておる」
「本官、コンちゃん・ミコちゃんがライバルであります」
わたし、二人の襟をつかまえてゆすりまくり。
「わ・た・し・が・こ・い・び・と・な・ん・で・すっ!」
「こわいのう」
「本官、こわいであります」
二人とも、後でなにかしてやる、なにしてやろうかな。
「ふむ、で、ポンよ、おぬし、店長の恋人でよいとしてやろう」
「してやろう……ですか」
「何故店長と一緒にいる時間が少ないかの」
「!!」
そうです、最近なんか店長さんと一緒ってあんまりないような……
「ま、まさか店長さん、わたしを避けてるんじゃないでしょうか?」
コンちゃん頷きました。
でも、シロちゃんが考える顔で、
「そこでありますが……」
「おお、シロ、どうしたかの」
「本官もコンちゃんも、あまり店長さんと一緒ではないように思います」
「おお、確かに、最近わらわはTVと対面しておる時間が長いかの」
それは仕事もしないでここにいるだけだからですよ。
「本官も……店長さんとあまり一緒ではないであります」
3人して考える顔。
そこにミコちゃんがノコノコやってきて、みんなのお茶を注いでくれるの。
そんなミコちゃんにコンちゃんが、
「これ、ミコ」
「何? コンちゃん」
「ミコ、おぬし、店長が好きかの?」
「ええ、好きだけど」
あ、でも、この問答以前もありました。
「好きは好きでも「ラヴ」じゃないんですよね」
「ええ、私、ポンちゃんもコンちゃんもシロちゃんも好きよ」
「ふむ……で、店長と一緒にいる時間、長くなっておらんかの?」
「店長さんと一緒の時間……ごはんの時くらいよ?」
「ミコは店長と一緒にパン工房におる時間長くないかの?」
「私、出来るだけ一緒にいないようにしてるの、邪魔になると悪いし」
「ふむ」
ミコちゃんは引っ込んじゃいました。
でも、今の様子からするとミコちゃんは店長さん「ラヴ」じゃないみたい。
「店長さんの本命は別にいるでありますか?」
「別にって言うと、村長さんとかみどりとか……花屋の娘!」
って、コンちゃん首を横に振って、
「店長から花屋の娘のニオイはせんのじゃ」
シロちゃん、頷きながら、
「コンちゃん……店長さんはどうなっているのでありますか?」
「うん? 店長がどうなっておるのか……と?」
コンちゃんが首を傾げるのに、シロちゃんはわたしを見ながら、
「ポンちゃんは『設定』では『中学生くらい』であります」
「ふむ」
「店長さんの『設定』はどうでありますか?」
「おお! そう言う事かの!」
コンちゃんがポンと手を打ちます。
「こ、コンちゃん『設定』とか解るの!」
「おまかせなのじゃ、『ゴット・プロフィール』じゃ」
コンちゃんが指を鳴らせば、TVに店長さんのプロフィール表示。
わたし達、画面をしっかり見ます。
3人そろって「どんより」しちゃうの。
「店長……あわれ」
「これでは出番が減るであります」
「今の店長さん『サブキャラ』……なんだ」
コンちゃん、お茶を一口しながら、
「で、ポンは店長と一緒にいて、どうしたいと言うのじゃ」
「ラブラブ」
「できるかの?」
「もちろんです、なんたってエロポンなんですよ」
「おぬし、途中をすっ飛ばしすぎでないかの」
「そうですか?」
シロちゃん、お茶を口元まで運んでから、
「告白したでありますか」
「う……そのつもりなんだけど」
「では、改めて告白してみてはどうでありますか?」
「改めて?」
「何度『好き』と言ってもいいでありますよ」
「なるほど……」
と、コンちゃんの頭上に裸電球が灯りました。
すごいウキウキ顔で、
「では、ポン、練習するのじゃ、あの男を使って!」
「は?」
コンちゃんの指差す先には目の細い配達人。
って、コンちゃんと目が合ったのか、一瞬足が止まりました。
なんだか配達に来る歩みが遅くなったような気がします。
カウベルがカラカラ鳴って、
「あのー、なんか嫌な予感しかしないんだけど……」
ぼやきながら目の細い配達人入って来ます。
コンちゃんシロちゃんで配達人の脇を固めると、
「これ、ポン!」
「なんですか?」
「ほれ、練習台なのじゃ」
「えー、配達人でー」
シロちゃん頷きながら、
「本官も配達人で練習するのがいいと思うであります」
「なんでー?」
「ポンちゃん練習抜きで大丈夫でありますか?」
「大丈夫、エロポンだもん」
「そのすっ飛ばしぶりがダメと思うであります」
って、目の細い配達人、体をゆすって、
「俺、サンドバック嫌なんだけど」
コンちゃん笑いを堪えながら、
「配達人よ、おぬしはポンの恋愛のお手伝いをするのじゃ」
「恋愛のお手伝いってなに?」
「告白の練習台なのじゃ」
「……叩かない?」
「告白に叩くのかの?」
「俺、正直そのパターンが……」
「おぬしの恋愛はSとMかの?」
「うーん、なんだか最近叩かれてばっかのような……」
わたし、目の細い配達人の胸を拳でトントン。
「なんですか、わたしが叩くの、根に持ってるんですか!」
「こわーい」
「根に持ってるんですかっ!」
「だってポンちゃんすぐに叩くじゃん」
「ほら、根に持ってるじゃないですか」
「俺、ポンちゃん見ると叩かれるってビクビク」
もう、本当に叩いちゃうんだから、ポカポカ!
「ちゃんと力加減してるでしょー!」
「叩かないでほしいなぁ」
「これ!」
あ、コンちゃんが割って入って来ました。
「おぬしら、じゃれあってないで、告白の練習をするのじゃ」
そうでした、そんな話でしたね。
「俺、よくわからないんだけど」
「おぬしはポンが店長に告白する練習台になるのじゃ」
「俺が? ポンちゃんエロポンなんだよね、俺、貞操の危機?」
コンちゃんシロちゃん笑ってます、床をバンバン叩いているの。
「わたしだってこんな目の細いのは嫌~」
ふん、さっきから言われてばっかりだから言いかえしてやる。
あれれ、目の細い配達人、泣いてますよ。
「人の気にしている事を~」
「そんな繊細なハートを持ってるんだ……顔に似合わず」
「ポンちゃんなんか嫌いだ~」
「わたしだって~」
って、コンちゃんなんとか笑いを堪えて、
「ででででは、わらわの術で……ゴット・ミューテーション!」
コンちゃんが指を弾くと配達人は店長さんに変身です、びっくり!
「あわわ、どうなってんだ」
「うわ、配達人が店長さんになっちゃいました」
「ふふ、わらわの術でこんなのお茶の子なのじゃ」
コンちゃん、配達人の背中をバンバン叩いて、
「ほれ、これなら雰囲気も盛り上がろう、告白するのじゃ」
た、確かにこれなら「その気」になれます。
シロちゃんわたしの背中を叩いて、
「告白は緊張するであります、練習した方がよいであります」
「う、うん、わかった、練習してみる」
わたし、店長さん(配達人なんだけど)の前に立ちます。
「ててて店長さんっ!」
ちょ、ちょっと緊張するかも。
でも、頑張るしか!
「店長さん、わたし、わたし!」
って、コンちゃんが指を鳴らしました。
「ポンちゃんっ!」
いきなり店長さん(配達人なんだけど)が抱きしめてきます。
うわ、すごいドキドキ。
店長さんの顔、近いちかい!
「店長さん……わたし、わたし……ずっと前から……」
店長さんの顔が近いし……
店長さんのドキドキも聞こえるし……
店長さんに抱きしめられてるし……
「こっぱずかしーっ!」
ついつい、突き飛ばしちゃいました。
はぁ、きっと今、わたしの頭から湯気が立ってるはずです。
「コンちゃんシロちゃんの言う通りでした、告白こっぱずかしい」
わたし、力なく笑うの。
でもでもコンちゃんシロちゃん、信じられないって目でこっち見てます。
「な、なに、その冷たい目?」
二人が指差します。
見れば……配達人が壁にめり込んでいるの! なぜ!
「きゃー! どうしたんですか、コレ!」
「ポンが突き飛ばしたのではないか」
「ポンちゃんエロポンどころか殺し屋であります」
「あら、きれいに揃えてもらったわね」
「床屋さん、チョキチョキ気持ちよかったですよ、レッド寝ちゃった」
「うーん、私のバリカンとは比較にならない?」
「ハサミの方が絶対いいですよ……でも……」
「でも?」




