第129話「たまお起つ」
たまおちゃんの相談に保健の先生考える顔。
保健の先生、たまおちゃんの腕を確かめるみたい。
対峙する二人。
戦いの行方は?
って……保健の先生勝つに決まってます、ポワワ銃持ってるんだもん。
「お姉さまっ!」
わたしとコンちゃんがお客さんがいないのにぼんやりしてたら、たまおちゃんがやって来ました。
「お姉さまっ!」
「どうしたの、たまおちゃん、神社は?」
「ポンちゃんには用はないんです!」
「本当にどうしたの?」
「わたしはお姉さまに用があるんですっ!」
「だって、コンちゃん、用事あるんだって」
コンちゃん、細めた目でたまおちゃんを見ると、
「たまお、何用じゃ」
すごいめんどうくさそう。
「お姉さま、昨日はどうしたんですかっ!」
「はぁ? 昨日?」
わたしとコンちゃん考える顔。
昨日……はいはい、ポン太とポン吉の決闘。
そして保健の先生がさらっていったんです。
たまおちゃん、コンちゃんの肩をゆすって、
「お姉さま、保健医とどこに行ってたんですかっ!」
「これ、ゆするでない」
「明け方に帰って来てましたよねっ!」
そうそう、帰って来たのは朝でした。
「いろいろあったのじゃ」
わたし、コンちゃんにテレパシー。
『ねぇねぇ、正直にマージャンって言ったら?』
『たまおもマージャンしたいって言い出したら面倒なのじゃ』
『ふーん、マージャン嫌いなの?』
わたし、ちょっと好きかも。
役が揃っていくとワクワクしますよね。
あがると嬉しいし。
『わらわ、マージャン好きなのじゃ』
『じゃ、いいよね』
『でも、昨日は大負けだったのじゃ』
『あー』
『あの保健医強いのじゃ、長老もねばっておったし』
『へぇ、そうなんだ』
『徹マンだったので、今日はへろへろなのじゃ』
『だからいつにも増してダラダラなんだね』
『そうじゃ、わらわ、今日はもう仕事せんのじゃ、ポンが言ったのじゃ』
人のせいにして……いつも働いてないよね。
「ちょっとお姉さま、何でポンちゃんと見つめあってるんですかっ!」
って、たまおちゃん放置してたら怒り出しました。
「朝になって帰って来たと思ったら、なんだか疲れてて」
きっと「ボロクソ」に負かされたんですよ。
さっきのテレパシーの感じからだとそうに違いないんだから。
「保健医と何があったんですっ!」
『コンちゃん、マージャンって言ったら~』
『む~』
たまおちゃん、コンちゃんをガンガンゆすって、
「保健医とイチャイチャしたんでしょ!」
はぁ! たまおちゃんなにを言い出すんでしょ!
見ればコンちゃんさらにうんざり顔ですよ。
それでもたまおちゃん、コンちゃんをゆすり続けて、
「シロちゃんの服も乱れてました!」
「……」
「三人で何やってたんですかっ!」
「……」
「お楽しみだったんですかっ!」
「……」
「やつれるくらいに激しかったんですかっ!」
ああ、コンちゃんの頭からポンポン「怒りマーク」弾けてます。
一度テーブルに拳を叩きつけると、
「徹マンしておったのじゃ、うるさいのうっ!」
「てててテツマンっ! いやらしいっ! うらやましいっ!」
「いやらし」くて「うらやましい」んだ、わたしわかりません。
って、徹夜マージャンのどこがいやらしいんでしょうね?
なにか勘違いしてませんか。
たまおちゃん、コンちゃんに顔をよせてクンクンしてるの。
「保健医のニオイがします、いやらしいっ!」
へぇ、たまおちゃんも嗅覚鋭いんだ。
人間はわたし達「獣」より鈍いって聞いてたんだけどな。
「何でわたしの愛は受けてくれないのに、保健医のは受けちゃうんですか」
「だって保健医、勝負に勝ったからのう」
ってポン太とポン吉の決闘をさらっていったんですけどね。
「じゃあ、私と勝負してくださいっ!」
「な、なんでわらわがたまおと勝負せねばならんのじゃ!」
「わたしがお姉さまと『ねんごろ』になりたいからです」
「わらわは嫌じゃ」
「勝負に勝ってしまえば私の物です」
って、たまおちゃん、すかさず胸元から「お札」を出しましたよ。
「封印っ!」
たまおちゃんのドロー(?)
「ゴット・シールド」
コンちゃんの防御、成功です。
「むむっ! 雷っ!」
おお、たまおちゃんも「ゴット・サンダー」出せるんだ、すご。
でもでもコンちゃんうんざり顔で、
「ゴット・シールド」
コンちゃん、またそれ?
たまおちゃんの術は弾かれました。
「お姉さまのバカっ! 爆裂っ!」
たまおちゃん「お札」をシュート。
と、思ったら投げる前にコンちゃんが、
「ふむ、たまおにゴット・シールドじゃ」
コンちゃん、そればっか。
でもでも今度の「ゴット・シールド」はたまおちゃんの周囲に展開。
投げた「お札」、シールドの外に出られません。
「「え!」」
たまおちゃんとわたし、ついついはもっちゃいます。
「お札」、ゴット・シールドの中で爆発するの。
爆発はゴット・シールドの中だけ……中はすごそう。
奥からミコちゃんの声、
「ちょっと、さっきから騒がしいけど、どうしたの?」
ミコちゃんは手に配達のバスケットを持ってます。
コンちゃんそれを見てダッシュ。
「わらわ、配達に行くのじゃ、ポン、後を頼む」
「はぁ……」
コンちゃんあっという間に行っちゃいましたよ。
「ゴット・シールド」も解けて、爆発も終わりました。
すすだらけのたまおちゃんがポツン。
「大丈夫?」
「し、死ぬかと思った」
「普通死ぬかと」
「お姉さまは?」
「行っちゃったよ」
たまおちゃん、ハンカチを出して悔しそうに噛みながら、
「お姉さま……なんでいつも逃げちゃうんでしょ」
「めんどうくさいからじゃない」
「私はこんなに愛しているのに」
愛しているのに「封印」「雷」「爆裂」なんだ。
「ここはミコお姉さまになぐさめて……」
って、矛先がミコちゃんに向いたと思ったら、ミコちゃんもダッシュで引っ込んじゃいました。
閉ざされたドアから青白いオーラ……きっと今のたまおちゃんでは開けないと思う。
「クスン、みんななんで逃げちゃうんでしょ」
「わたしがなぐさめてあげよっか?」
「クスン、なんでみんな逃げちゃうんでしょ」
「たまおちゃん、わたしのなぐさめはいらないの?」
「ポンちゃんじゃ……」
わたし、たまおちゃんをチョップですチョップ。
まぁ、わたしもなぐさめる気なんてさっぱりなんですけどね。
だってたまおちゃん、もうテーブルのおかしを食べ始めてるもん。
大体「クスン」はうそ泣きなんです。
するとお店のカウベルがカラカラ鳴って……
問題の保健の先生が入って来ました。
「こんにちは~、来たわよ」
「あ、保健の先生、いらっしゃい~」
「ミコちゃんは、ミコちゃん、家庭訪問に来たわよ、ビールとから揚げね~」
保健の先生が叫ぶと、奥からズッコケる音がします。
怒りを感じる足音がして、封印されていたドアが開いて、ミコちゃんが怒った顔を半分出して、
「家庭訪問って……レッドちゃんもみどりちゃんもいないんですけど」
「いいから出しなさいよー!」
ミコちゃん言ってもしょうがないって思ったみたいで、すぐに引っ込んじゃいました。
保健の先生、テレビのリモコンを引き寄せながら、
「あれ、コンちゃんは、いつもグダグダしてるのに」
「配達に行っちゃいましたよ」
「そうなんだ……ふふ」
「どうしたんです?」
「昨日の……」
保健の先生が言いかけた時です。
たまおちゃんが「バンッ」とテーブルを叩いて、
「ちょっと保健医さんっ!」
「わっ! 何っ!」
「昨日コンお姉さまとシロちゃんを連れてってましたねっ!」
「こ、コンお姉さまって……」
「一晩中一体何をやってたんですかっ!」
「……」
「今の『ふふ』って何ですか、お姉さまの体は良かったんですかっ!」
「ねぇ、たまおちゃん、私とコンちゃんシロちゃんで何やったと思ってたの?」
「いいこと!」
「そりゃ……まぁ……『いいこと』っちゃ『いいこと』だけど」
「うらやましいっ!」
「私、女同士ってあんまり興味ないのよね~」
「保健医は贅沢なんです、まったくモウ!」
「いいことって、マージャンなんだけど、徹マン」
「ウソッ!」
たまおちゃん、保健の先生をクンクンして即、
「お姉さまのにおいがします、やったんでしょ、ええ、やったんでしょ!」
「面倒くさいわねぇ」
保健の先生トホホ顔で、
「じゃ、どうしろってのよ」
「うらやましい」
「だから徹マンなんだってば」
「徹夜でエロなんてうらやましい」
わたし、正直さっきから笑い堪えてるんです。
「徹夜マージャン」ゆがんじゃってますね。
でも、おもしろいから見てましょ。
保健の先生、トホホ顔だったけど急に明るい表情で、
「ふふ……コンちゃんの身体、最高だったわ~」
わたしはウソってわかるんだけど、たまおちゃんはハンカチくわえて悔しがってます。
「うらやましいっ! うらやましいっ! うらやましいっ!」
「たまおちゃんはまだなんだ……まだなんだ!」
「まだ」を強調しますね。
たまおちゃんフルフル震えてますよ。
そしていきなり保健の先生を抱きしめてます。
「ああ、お姉さまのニオイ、すてき、私も抱かれたい、抱きしめたい」
「あわわ……」
保健の先生、たまおちゃんの行動に目を白黒させてるの。
抱きしめるたまおちゃんを押しのけようとしてるけど……
たまおちゃんは保健の先生の胸元に顔を押し付けちゃってるの。
「ああ、お姉さまのニオイ」
保健の先生の胸でクンクンしまくり。
わたしもちょっと気になる事があります、こーゆー時はテレパシー。
『保健の先生』
『うわ、何よ、テレパシー!』
『そーですよ、テレパシー、質問があります』
『何よ?』
『なんで胸にコンちゃんのニオイがするんですか、やっぱりエッチしたんですか?』
保健の先生、たまおちゃんを押しのけようとしながら、
『コンちゃんハコになったのよ』
『箱?』
『点棒なくなっちゃの、破産、負け』
『はぁ』
『そしたら暴れ出したんでとっくみあいになって……ね』
勝負に負けて駄々っ娘なんてみっともない。
でもコンちゃんらしいかな。
さぞ悔しかったんでしょ。
と、今までしがみついていたたまおちゃん、大きな声で、
「保健医さん、お願いがありますっ!」
「!」
「どうやったらお姉さまと『ねんごろ』になれるんでしょう!」
話、スタートラインに戻った気がします。
保健の先生たまおちゃんが離れたのに距離をとって、
「私には興味ないのよね?」
「わたしはコンお姉さまとミコお姉さま一筋」
一筋っておかしくないです?
二股じゃないですか?
保健の先生考える顔で、
「いつも逃げられてるのよね」
「はい」
「ミコちゃんはともかく……コンちゃんはなんとかなりそうにない?」
「え! どうして!」
わたしもびっくりです、コンちゃんは簡単そうなんです?
保健の先生ニコニコしながら、
「私はマージャンで勝ってやっつけたのよ……何か勝負して勝ったら犯っちゃえば?」
だそうです、コンちゃんに勝ってモノにするって訳ですね。
たまおちゃんフリーズ。
「私、何で勝負していいか……」
「コンちゃんなら実力行使がいいんじゃない、力でねじ伏せた方がはっきりして」
「腕力ですかっ!」
「まぁ、そんなとこ」
保健の先生も無責任な事言いますね。
後がコワイですよ。
って、保健の先生、力なく笑いながら、
「でも、それってたまおちゃん今までやってなかったの?」
「!」
「それで勝てないなら、結局一緒じゃない?」
「!!」
保健の先生、固まってるたまおちゃんを見て、
「たまおちゃんって……弱いの?」
「そ、そんな筈は……」
「一度手合わせしようか?」
そんなわけで、駐車場で西部劇モードです。
「たまお」vs「保健の先生」。
対峙する二人の間を風に吹かれた葉っぱが通り過ぎて行きます。
「ポンちゃん、コイントスを!」
「はーい」
わたし、たまおちゃんに言われてコイントス。
十円玉が弾ける音と同時に二人が動き出すの。
「封印っ!」
たまおちゃん、「お札」を投げます。
保健の先生、すぐさま白衣を開いてポワワ銃を抜くの。
このポワワ銃抜くのってですね、すごいんです。
わたし、シロちゃんと帽子男の決闘も見たけど、保健の先生の方がすごいかもしれません。
発射された「ポワワ」光線、すぐにたまおちゃんにヒット。
「あれれ、あっさり勝負ついちゃった」
保健の先生、たまおちゃんをやっつけた後で飛んで来る「お札」も撃ち落としちゃいました。
すすだらけ、くすぶって崩れ落ちるたまおちゃん。
保健の先生、そんなたまおちゃんに歩み寄って見下ろすと、
「うーん、なんて言うかね……」
「な、何です、保健医さん、言ってください」
たまおちゃん、なんとか起き上がろうとしながら言うの。
保健の先生腕を組んで、
「負け癖ついてるんじゃない? スジはよさそうなんだけどね」
「はぁ」
「正攻法じゃダメって事かしら……なら、いいアイデア伝授するわ」
「え! そんなのあるんですか!」
保健の先生、テキトーな事言っていいんでしょうか?
いやいや……なんだか嫌な予感がします。
嫌な予感しかしないんだから。
「さぁ、お姉さま達、私の言う事、聞いてくださいっ!」
たまおちゃん、今日は強気発言。
目にも力強さを感じるの。
閉店前でくつろいでいたわたし・コンちゃん・ミコちゃんはポカンとするの。
「さぁ、お姉さま達、私の言う事を聞かないと……大変な事になりますよっ!」
「きゃー!」
たまおちゃん、レッドを人質にとってるんです。
でもレッド「きゃー!」って言ってるけどとても楽しそう。
レッド、一応縛られてるけど……縛っているロープは縄跳びですよね。
あんなのすぐに逃げられるはず……だけどレッド楽しそう。
「たすけてー! ころされるー! うわーん!」
「さぁさぁ! レッド、殺されますよっ!」
茶番……わたしあきれて笑っちゃうの。
ミコちゃんは怒ってて、コンちゃんもムッとしてますよ。
二人はお互いに目で通じ合ってから……
「ゴット・アロー」
「ゴット・キャプチャー」
アローはミコちゃんでキャプチャーはコンちゃん。
容赦なく発射されるゴット・アロー、たまおちゃんを貫くの。
そんなたまおちゃんが反動で手を放したところを、コンちゃんのゴット・キャプチャーがレッドを回収。
ゴット・アローが爆発して、たまおちゃんはすすまみれで床に崩れ落ちました。
勝負にもなってませんね。
人質作戦はあえなく失敗。
って、ミコちゃんコンちゃん、たまおちゃんに歩み寄って、
「まったくレッドちゃんを人質にとるなんて!」
「卑怯極まりないのじゃ!」
ミコちゃんコンちゃん、ゴット系の術でたまおちゃんをフルボッコ。
たまおちゃん、夜はダンボールだったんですよ。
わたし、ちょっと様子を見に行きます。
「たまおちゃん、大丈夫?」
「あ、ポンちゃん」
「フルボッコだったけど」
「ええ、はい」
たまおちゃん、結構ケロッと……どころか、なんだか桃色オーラが漂ってます。
「なんだかやられた割に幸せそう……」
「えへへ……お姉さま達の術を存分に浴びて、チャージされた感じがします」
「はぁ?」
「お姉さま達の愛を感じました」
「今、ダンボールだよ」
「きっとツンデレなんです」
「はぁ……」
わたし、たまおちゃんの思い込みにはついていけません。
お昼、お客さんはいませんね。
コンちゃんのテーブルにわたしとシロちゃん。
三人してぼんやりとTVを見ているの。
お昼のワイドショー。
都会では今日も殺人事件みたい。




