通勤電車
梅雨、七月の朝、色を失った街を背に今まさに都心に向う為のトンネルへと潜りゆく通勤電車。Full回転のエアコンも効くはずもなく、そんな一息れのるような空間で、窓に映る自分と車窓の灯りとを交互に見送りながら女子大生が、吊革にぶら下がりストレスと対峙していた。
就活スーツで武装した彼女の前の荷物起きの棚には、コンビニ袋に包まれた高いヒールのパンプスが無造作に置かれていた。三社目の面接で、後の二社は面接済みでほぼ当確である。面接会場のある最寄りの駅で今履いているローヒールを履き換え、コインロッカーにでもぶち込んで、面接会場に向かうつもりである。彼女は、大学ではミスコンにも選ばれたほどの美系の持ち主で有り、凛とした目鼻立ちを持ち、スレンダーなボディーにその上成績もトップクラスで優秀であった。
殆ど飽和と思われる車内の湿度のせいで、彼女は、湿けった髪の毛に手をやりながら、今回の面接はキャンセルして、映画館のシートに身を埋め、今流行りの映画でも見ようかと思いながら揺れに身をゆだねていた。その時、電車は左右に大きく揺れ、地下へ向かって傾斜を変えた。それと同時に、彼女の軟らかな臀部を撫でるように手が触れた。彼女はすかさずその手首を握りしめ、
「痴漢です。この人痴漢です。」
とただでさえ重々しい車中に響き渡る奇声を上げた。