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戦闘論(仮)  作者: 如月 恭二
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剣術とは

熱が冷めぬ内に書き連ねてみました。

私の持ちうる知識を総動員して触りを締めましたが、どうも何か足りないような……。


 剣術とはなんぞや。

 某暴れん坊でよく見る、殺陣(たて)の立ち回りか。時代劇でよくあるチャンバラか。特に遠山の金さんが良い例だろうか。あれこそが剣術のように見える。

 ──だが、違う。

 剣術とは文字通り、”剣“を扱う“術”なのだ。

 一口に剣術と言っても、昨今では割りと混同されがちではないかと思う。まずは其処から触れていくつもりだ。


 殺陣は、確かに浪漫(ろうまん)だ。

 あらゆる敵の攻撃を(さば)き、弾き返し、華麗に斬り捨てる。なるほど、確かにその立ち居振る舞いは、剣の扱いに長けた者にしか出来ない技だ。

 しかし、先人達が行ってきた数多の流血。その結晶は、かように苛烈かつ激しいものではない。あくまでそれは見栄えを重視した動きである。



 “見るともなく、全体を見る”。

 宮本武蔵が教える心得がこれだ。

 何故これが大事か。それは剣術の源流を知れば(おの)ずから見えてこよう。

 対峙(たいじ)する上で肝要なこと──それは、見るということだ。

 「見ている」とは言うが、大体見ている箇所は大体が一箇所に集中しがちだ。

 一例をあげるなら、丸腰で剣士に対峙した場合。恐怖から、相手の得物かその全身を見ることになる。

 

 剣の道は、そもそも相手の動きを“読む”ことに始まるのだ。

 これは冗談などではない。

 相手の一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)隈無(くまな)く、そしてまんべんなく観察することで相手の挙動を文字通り“読む”のだ。

 読むことが簡単なものとして、ドッジボールがあげられる。

 実は注意深く観察し、相手を観察することでボールを何処に投げるのかが予想できるというものだ。

 確かに、これは簡単だろう。

 ──だがその実、脳は相手の筋肉の動き、視線などに注視し予想をしている。


 これは、剣術においても同じことが言える。

 複雑多岐にわたる思考を同時並行的に行っている訳なのだ。

 そこで、どうして剣閃を見切るのが難しいのか。そこも少し綴っていこうと思う。



 剣術において、大体どの流派でも肝要とされる理念がある。

 ──真の理は斬撃の()(せん)


 さて、この“後の先”とは簡単なようでいて実に難儀だ。

 これは、則ち“対手(たいて)の攻撃の後にこそ勝機を見出(みい)だせ”ということになっている。

 言葉だけなら分かりやすいが、行うは(かた)し。

 上記で綴ったが、筋肉の動きなどで動向を読むと在る。

 つまり、これがどういうことを指すのか。それが重要となるわけだが、卓越した剣士は最低限の動きだけで致命傷を与えるというところを見ていこう。


 例えば、大上段からの切り下ろし。

 私ならば、コレを受け止めたりしない。まともに受ければ、刀ごと頭蓋を割られるか、得物を失うからだ。

 これには私が対応するとしよう。以下、手順を書いてみた。数字も振ってみたので、確認して貰えれば幸いだ。


 ①対手の切り下ろし予備動作を確認。

 ②すかさず得物を右手で掲げるように持つ。この時、身体の左側から刀身を滑らせて鋭角を描き、持ち上げていく。

 ③②に左手を軽く添え、(しのぎ)で受け流し、対手の額に振り下ろす。


 お気付きかと思われるが、これは受け流し──即斬(そくざん)となっている。攻撃と防御が一体となっているのだ。

 剣術で、それも真剣での立ち合いにて上段があまり普及しなかったのは、恐らくこれが要因だろう。


 そして、この動きは筋肉がほとんど動いていない。

 最小限の運動となると、挙動が分かりづらい。動向、予備動作が掴めず、予測が困難となる。特に手練であればあるほど、隙の大きな動きを知っている為、一見弱そうな動きで敵を圧倒する訳だ。そもそも、殺陣などの激しい動きが力強いという印象があるので、仕方ないとも言える。

 つまり、剣術に精通している者であれば、おいそれと隙を晒さない。それに比例して動きが少なく、行動把握が極度に難しいことになる。

 実際の立ち合いで、“読む”ということの難しさがこれでわかったことだろうと思う。


 ──静寂(しじま)の向こう。


 手練同士の戦いとは、正にこうして形容されよう。

 互いの気が、穏やかにだが苛烈に先を取り合う。静寂(せいじゃく)に埋もれる命のやり取り。数瞬後に骸を晒すのはどちらか。

 いっそ静かな立ち合いには、恐怖と荘厳な印象の両方を抱くことだろう。

 それほどまでに、読むという行為が肝要なのだ──そして、それこそが剣術の真髄である。



 さて、ここまで語ってきたが、そもそも剣術と剣道は何が違うのか。其処についても触れよう。


 単刀直入に言うが、剣道は剣術ではない。

 目的とする方向がそもそも違うのだ。

 剣術は、命のやり取りを主眼にしている。剣道はスポーツとして発達して来た競技。最早、両者はまったく別物と言っても良いかも知れない。


 その証拠に、剣道は激しく鋭い打ち込みが肝要だが、剣術においては後の先で確実に仕留めようとする方向に特化している。

 ではどちらが強いのか。

 有段者と侍が仮に戦ったとすれば、勝つのはなんと剣道の有段者だ。

 実は、剣道の踏み込みと打ち込みは発生が早く、剣術の動きでは剣道の動きに追随出来ない。読みを始めた頃には有効打を突かれているのだ。これは素のスピードが違う為に起こることである。

 では、剣術は弱いのか。


 ──そうではない。

 剣術……特に古来より受け継がれる古流剣術は、一対多を主眼に置いたものだ。剣道では、多勢に押されがちだ。動きが激しく、消耗も早い。

 だが、剣術を修得している者は、ある程度の多勢を相手にして尚互角に戦えるだけの力を持っている。


 剣道は力と素早さを。剣術は剣を的確かつ消耗しないように扱い、最小限の力で或いは数多の敵をも打倒しうる技能を養う。

 これが、剣術と剣道の決定的な違いである。

 


 もう少し語るとしよう。“縮地”についてだ。

 数多くの作品で、縮地は《一瞬で彼我距離を詰める》技能として認識されているようだが──大元は違う歩方だ。

 簡単ではあるが、ここでは二つの歩方について話す。


 《縮地(しゅくち)

 まず、構えている状態で前に出ている足の膝を落とす。すると、身体が前に落ちるように進む。そして、後ろに当たる足を前の足に擦り寄せるようにして移動する。


 そう、これが縮地の正体だ。文字にすると長くてややこしいが、行う際はほぼ一瞬で行動が完了する。

 本来の縮地の由来は、“ほぼ予備動作なしで間合いを詰めることから”だそうだ。読めない動きで接敵する……対手からすれば地を縮めたように映ることだろう。

 難しいという方に、ひとつ助言しよう。非常に無様な描写で遺憾だが、膝カックンをご存知だろうか。自身で膝の力を完全に抜いてみると良い。感覚としてはそれが非常に近い。剣術をより詳しく知りたくば、セルフ膝カックンをお奨めしよう。実際には滑るように移動するので、草履などを推奨したいところだ。



 《二歩一撃(にほいちげき)

 一瞬で間合いを詰める歩方がこれだ。術理は単純。両の足でほぼ同時に地を蹴るだけである。単純ではあるが、熟練した者は数メートルを一瞬で詰める事が可能。


 漫画などで広まった縮地はこれが大元となる。格好良さ等から採用され、それが一般認識となった模様。実際、武術修練者の幾人かが嘆いたりしているらしい。


 長く綴ったが、如何だっただろうか。剣術について触りをやってみたが、我ながらよくもここまで熱意を持って書いたものである。

 剣術が如何なるものか、歩方とはなんぞや。様々触れたが、新たな発見があれば嬉しく思う。

 ただ、剣術とは一見地味だ。筆者とて殺陣などの派手な戦闘は見応えがあるのは重々承知である。

 だが、本来の武とはこうだ、ということも知っていて欲しく思う。


 それはきっと、いつか何処かで貴方の心に宿るやも知れないのだから。


 これにて、剣術の触りを締めようと思う。では、失礼。また次回に会えれば幸いだ。

もしかしたら、また少し触りをやるかも知れません。

ほんの触り程度どころか、指一本程度入ったくらいですorz

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