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戦闘論(仮)  作者: 如月 恭二
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潰えた夢の残滓

元科学者志望の如月が、かつての智識を以てして暴れる!


学生時代、休み時間に生物、科学の教科書に費やした作者が少し本気を出す!

 貴方、または貴女はこの暑い季節をどうお過ごしだろうか。

 うんざりする程蒸して、過ごしにくいことだろうと思う。

 冷房を活用するのも良いだろうが、私なら除湿機能をお薦めする。冷房程には涼しくないが、それでも湿度が下がることによる体感温度の低下。その恩恵はけして小さくない。経済的にも優しいといいことずくめだ。

 さて、ところで筆者こと如月恭二は一時期、科学者志望としていた人間である。科学するということが好きで、幾らかの本を読んでいた時期があるのだ。

 今でこそ道を違えたものの、多少の智識や蘊蓄(うんちく)ならまだ私の中に息づいていることだろう……恐らく。

 今回、閑話という立ち位置で投下するのは、つまり如月の智識を少しばかり語ってみようという試みである。とは言え、そこまで重い内容ということではない。僅かにそれらしい触りが出る程度を想定している。

 戦闘の中に存在する科学、その一部を語る。今回はそんな話だ。


 では、早速話すとしよう。

 創作の中に存在する“斬鉄”なる現象。

 某泥棒一味の一人が実行する様子があるが、あれが現実に可能とした場合、あの剣士はまず間違いなく人間ではない。あれほど分厚い鉄を断斬してみせるなど、正気の沙汰ではない。

 鉄を斬るなら、たとえ一ミリの鉄板であっても、一ミリ立方メートルにつき一〇〇キロの力が必要だ。

 これはある検証番組であった事だが、その中でさえ厚さ〇・三ミリの鉄板である。

 名刀を損ねない為の配慮だが、達人が扱う場面であって尚この処置だ。それで斬鉄の難易度、その高さが窺えるものだと言えよう。


 結果、斬鉄は出来た。

 しかし、僅かながらに刃こぼれが起きてしまった。

 刀線刃筋──“物”には切るに容易い箇所があり、それを指すのがこの言葉──を通して尚、達人でも刀を傷めることになっている。一分にも満たぬ箇所への一斬と速度を以てしても、無傷といかないのがこの斬鉄ということである。


 そもそも、刃というものは繊細で弱い。

 三本の矢の逸話は言い得て妙だ。太く大きい方が強いのだから。

 それと同じ理屈で、太く大きいものが強い。筋力ひとつ取ってもそうだ。しかし、刃は髪の毛一本分程度。こんなものが長持ちするはずもない。

 人間は巻き(わら)ではない。骨という堅いものがある。刃と骨では、刃の損傷が大きいのは自明の理だ。

 もっとも、第二次世界大戦下において突貫する際には、わざと刃先を丸める──俗に言う“蛤刃(はまぐりば)”──という方法で刃を強靱にすることもあった程だ。

 こうすると、全体的な切れ味自体はやや低減するものの、刃こぼれすることを多少なりと防ぐことができるのだ。

 こうして見てみると、こんなもの()で鉄を斬るなど、冗談ではない。金庫の扉などもっての他である。

 よくて得物が真っ二つ。加減を間違えれば、折れた破片が自身に返ってくることだろう。


 さて、此処まで書いておいて可笑しな話だが、剣術とは試斬ではない。

 斬ることに拘泥すれば、術理に背くことになる。

 何故なら、脇、小手、首や胸など剣術で狙う箇所は急所が多い。皮が、筋肉が薄いところを狙う訳だ。

 小手を斬られれば、剣は握れない。脇や(くび)を斬られれば、失血死する。これらは剣が何処まで行っても殺人術のひとつであることの反証となっている。


 『切る』という言葉だが、科学で端的に表すと、おおよそ四つの力が働いている。


 物体に働く力。

 物体を外側に分かつ力が二つ。

 物体に作用し、切り進めていく力。


 下記に簡単ながら、字で表記した。参照すると分かりやすいかと思うが如何か。



             ↓物体に働く力

            ↖ ↗物体を外側に分かつ力

             ↓物体に作用し、切り進める力


 薪割りを思い浮かべてくれると良いかも知れない。

 つまり、完全な真っ二つなどはないのだ。

 微細なものだが、くっ付けてみると、双方とも外側に分かれていることが知れると思う。

 勿論、他にも力の損失などが働いている為、この力のみという訳ではない。あくまでも物体に働く力が直角だという前提の話である。

 存外、切るということは単純なようでいて難しいことが分かるだろう。



 それというのも、力が働く為の最適な角度が、物体に対して直角だという点だ。

 これは、野球のデッドボールが例に当たる。

 普段、何事もなく塁を進める打者だが、最高時速150km/h相当の運動エネルギーが、小さいとは言え直に当たることがあれば大怪我する可能性もあるのだ。



 尚、余談となるが「日本刀はすぐ折れる」というが、あれはとんだ間違いである。古刀と呼ばれる、鎌倉時代以前の刀は強靱で耐久性も高く、切れ味もまさに業物の域だ。

 これには、製法が関わっているが、それは鍛治に明るい方が説明してくれる事だろう。……私も調べてはみるが。

 近代刀は、製法の為、チタン鋼の刀身にはなり得ないからだ(古刀に分類される刀は大体がチタン鋼)。

 低温でじっくりと製錬することで、堅く柔らかい金属──折れず曲がらずよく切れるという、窮極の矛盾──を実現できるのだ。


 勿論、近代刀が悪い訳ではない。

 試斬では、西洋甲冑(それも現物)を容易く切っている。動画を見る限りどうやら板金鎧であるから、日本刀の凄まじさが分かることだろう。暇があれば見ることをおすすめする。


 ……如何だっただろうか。

 退屈で、眠たくなってしまったと言うのなら謝ろう。申し訳ない。

 しかし、私は非常に楽しく蘊蓄(うんちく)を述べることが出来た。満足している。


 では、また何処かで如月の科学蘊蓄を語るとしよう。

これは、とある男の潰えた夢の残滓。

読んで貰えたと言うのなら、それが供養になります。

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