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子連れ竜生録  作者: こるり
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~三里霧中~  戦場の外より

 

 さて、質問です。

 唐突ですけども、質問です。

 目の前の光景が信じられないとき、人ってどういう動作に出るのでしょう。


 1.立ち止まって見つめる。

 2.その場から立ち去る。

 3.挙動不審に陥る。


 まぁ、そんなところか。

 ほかにもあるかもしれないけども、一応、そんなところか。


 で・・・えーと・・・





 すりー○んどれっど?






 頭にぽんと浮かぶ映画の名前。でなきゃ、実写版三国志でも古代ローマ戦争でもなんでもいいや。とにかく目の前の光景によりびみょーに自分の頭が現実逃避しかけるというか・・・・・

 

 で、質問の答えについて。

 多分、今の自分はそれら全てをやってるんだろうなと醒めた自分がそんなことを考えていた。

 つまり、立ち止まりつつも目の前の光景を見ていて、それいながら、その場から立ち去ろうと足踏みしつつ、あわあわと腕を曲げて手を前に出し、きょろきょろしている。



 そんなところか。



 さっきの声、というか雄叫びを聞きつけてきてみれば、確かに森をぬけることには成功した。

 成功したんだろう。

 抜けた先にあった光景は開けた草原で、草原が辺り一面に緑の波をうたせていた。目を凝らせば所々に野の花が咲き、こちらから見ればその背景には遠くのほうで山々の緑の連峰がずらっと連なって緩やかに草原を囲っているのがわかる。多分、今自分たちがいるのはそんな山の一つだろう。

 ようは盆地なのかな、比較的広く、平野の面積は『市』か『町』がすっぽりと入るレベルかな。

 通常であれば、とても穏やかな光景が広がっていることだろう。ブルーシートでも広げてお弁当もってピクニックをするのに非常に適した場所だったんだろうな。




 現在は血の花が所々に咲いている。

 合戦中みたいなのである。





 いやね、自分は戦国史とか好きよ。三国志とか安土桃山あたりとか。尊敬する人もその時代辺りにいたりするし。

 で、シミュレーションゲームなんかでけっこうやりこんでいたけども、リアルで見るとちょっと生々しくてひくわぁってところである。


 唸る剣戟。

 飛び交う矢尻。

 度々起こる怒号。

 ぶつかりあう肉と盾の衝撃音。


 至る所に赤い花を咲かせ続け、それらを土煙が包み込む。


 ずり落ちそうになったメガネを直して見ていたが、細かく人の顔までみえるほどの距離ではないがその分全体像が見えてくる。そこにいる人員数からしたら、二、三千辺か。それでもその人数が血肉を散らす様は圧巻としか言い様がない。

 目を凝らせば、斜めむこうに村のようなものがあるが、どうも焼き討ちにあったのか煙が上がっている上に張り巡らされている塀はところどころ崩れ落ちている。そこでも争いがあるように見える。規模は野戦側に比べれば少ないように見えるが建物などもあることだし全体はわからないが同じだけの人が蠢いているのかもしれない。

 全体的に大きく分ければ村で行われている篭城戦と少し離れて野戦をしている一団といったところか。

 

 こんな光景を唐突に見せられれば、そりゃ慌てもする。

 ただ、不思議なことに恐ろしさはあまり湧き上がっては来なかった。

 千単位とは言え戦争体験なんか皆無の現代日本人だった自分にしてみれば、これだけ規模が大きいと殺し合いというよりもどこか絵空事のように思えてしまうのかもしれない。

 とはいえ、この場でじっとしてあまり長居しすぎるのも危険極まりない。

 ちらほらと逃げる人と追いかける人がいるみたいだし、その中にはどうもこっちへと来る集団もあるみたい。

 今はこの子もいることだし・・・・



 って、あ、目を開けた。



「うゆっ?」

 ぱちくりとここに来てようやく目が覚めたよう。まぁ、あの怒号によって目が覚めたのかもしれないけど、自分自身での目覚めもあったようで起きた直後の機嫌はいいみたい。

 これが外的要因、つまりは無理やり起こされたとなると起きた瞬間から泣いて喚いて、頭をぐらんぐらんと大きく振るだろうから。

 ただ、いつまでもここにいてもどうしようもない。

 早めに退散するに限る。

 ぐずぐずなんかしてられない。

 いくら、先だってあの竜から、


 『私の力はあなたへ引き継ぎ・・・』


 とか言われても、そもそもどんな力を得たのかすらさっぱり分からずにこうしてこの地に投げ出されたわけだ。

 っていうか理不尽にも程がある。

 アイテム名とか全部ぼかされた状態の某ダンジョンを攻略しろとか言われている以上にわからない状態なんだから。

 とりあえず、霧っぽい属性にあるのだけはなんとなく理解しているから、そこからできることを予測するかってとこなんだろうけどもいくらなんでも不親切にもほどがある。

 時間がなかったのかもしれないけど、せめてそこんところだけは聞きたかった。

 片手で頭を抑えつつ、もう片方で息子の体の位置を整えて森の中へ逆戻りしようとした。


「きゃああああっ!!」


 そのとき、悲鳴をきいて思わず、振り返った。

 至近というわけではないが距離とすれば近いところからあがった声だ。

 声のある方に反射的に目を向けると下のほうで、逃げる女性と追いかける男たちの構図。

 女性も必死に逃げているようだが、荷物をいくばくか抱えている様子とどうもわずかながらに足を怪我しているのか不規則な足取りをしていてだんだんと追いつかれている。

 向こうからここまで逃げてきたとして随分と距離があって既に追いつかれていてもおかしくはないように思えるが、所々で男たちが腰を落としては何かを拾い上げている様子から、どうも女の人が落としたものを拾って懐に入れつつ追いかけているみたい。

 剣で面白半分に追い立て、まるで狩りでもしているみたいに。

 

 何か、戦争の醜さをみてため息付きたくなる。

 けど、ここで自分が助けに入って何ができるだろう。

 異世界テンプレでいくとここで颯爽と登場して女の人を助けるんだろうし、現状、どうもさっきの竜の力とか得たってことでなんとかすることができるのかもしれない。

 でもそれだけの力があるとしても今抱えているこの子にそんな力があるわけない。

 胸の中で「うゆうゆ」といいつつ、手をこちらにむけて顎を触ってくる、無垢なこの子に。ちびをしばしじっとみて決心して

「逃げなきゃ」

「誰かっ!誰かっ!」

 もうなりふり構わず逃げにはいろうと声をあげたところで女性の悲鳴。

 げっ、もう間近。

 不謹慎だけども、どうぞ別のところに行ってください!って強く、もーこれでもかって思う程に強く思うんだけども、声はどんどんこっちに近づいてくる。

 どうしよ、あれこれ考えている間になんか逃げそびれたっぽい。


 優柔不断すぎかも・・・あほなの私・・・・こんなじゃ、確かに妻にも逃げられるわけなのかも・・・・



 暗くなるなぁ。



 って、黄昏てる場合じゃない!

 とにかく隠れなくっちゃ。

 慌てて、近くの茂みに身を隠す。

 そうしつつ、辺りを見てじりじりと後退を・・・・・


 「ぐわっ!」「あがっ!」「だ、だれでぇ!」


 唐突に男たちの悲鳴が上がった。

「え?」

 きょとんとしたままそろりと顔を上半分だけ出してその状況をみやった。

 だいぶ近くまできていたようでもう20mもない距離に一団がいた。

 なんか逃げたつもりが微妙に近づいていったみたい。

 どんだけ慌ててんだ、私!

 とはいえ、男たちは全部で三人。

 うちふたりは足を抑えてもんどりうっている。

 太ももに矢を受けたみたい。

 二人とも右腿を撃たれている。

 けっこう正確に。

 いったい何事?




「この森は立ち入り禁止区域です。どうぞお引き取りください」




 朗々とした男性の声があたり一面に響き渡った。

 

 

 

 

  

ぼんやりしてると意外と時間の経つのって早い気がする。

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